国外追放の前にⅤ(学園祭前半)

 さあ始まってしまったぞ,文化祭!!

前世,友達の数が一人だったリリス(陰キャ)には地獄のようなイベントだった。

⦅確かここで好感度あげるんだっけ⦆

そんな好感度上げイベントよりも誰もいない裏庭に行こうとするリリスだったが,裏庭を見た瞬間泣きそうになった。

⦅なんで…なんで,裏庭に人がいるんだぁっ!?⦆

 いつでも陰キャに優しかった,裏庭の姿はもうここにはないのだ。

正確に言うと,誰もいないはずの裏庭に大勢の人が集まっていたのだ。

 もうここには居場所がない,と悟ったリリスは諦めて文化祭を巡ることにした。


⦅今日見ようと思っているところはここで…うん。大丈夫。最終日の魔術決闘は参加したいなぁ⦆


 今後の予定を考えながら,朝のバンドのリハーサルを行うために,体育館へ向かった。


 体育館へ向かうと,すでに他の人が集まり練習をしていた。

「あっ!リリス様!こちらです!とりあえず合わせてみましょう」

 リリスはボーカルで,アリサがギター,他のクラスの人がそれ以外を担当していた。


「これでいい感じがします。それではこれで解散ということで。それでは本番頑張りましょう!」

 解散したが,一部のバンドの人が私を怖がっていた気もしなくもない。


簡単に言うと,文化祭の開会式のバンドは大成功した。私がボーカルだったのに拍手された。とても嬉しかった。そしてアリサがあんなにギターを弾けるとは思ってもいなくて歌いながら泣きそうになった。イワンも十分くらいアリサに感想を言っていた。抱きしめながらだ。

⦅もう付き合った方がいいんじゃないかなぁ。あの二人⦆


 次にクラスのシフトに向かうことにした。バンドだったので急いで着替えて,教室に行こうとした。

「リーリーすっ!男装見せて!」

「わっ!?イリーナ!!結構恥ずかしいからみないで…」

「リリス本当に可愛い!!あ,外も中もね。困惑して照れているリリスも最高だよ!」

「イリィーナ様ァ…」

 アリサ,殺気が怖いって。そんな同級生に殺気だせるのすごいと思う。うん。こういうことにしておこう。


 「イワン様,こっちにカップを置いてください」

 攻略対象のイワンはもう主人公には全く興味がなくなった。今はアリサが好きなようだ。アリサは滅多に私以外の人と話さないから助かっている。


「リリスお嬢様!助けてください…ま,魔道具が…盗まれました」

「魔道具が!?なぜ盗まれたとわかるの?」


 魔道具とは術者の魔術を補強させて安定させる力を持っている。魔道具は専門的な分野に特化していることが多い。万能魔道具は妖精やエルフなどが作っていることが多く,この国の人間で作れるのは魔導具職人の三人と宮廷魔道士長くらいしか作れない。


⦅ま,まあ私も一回作ったことあるしー。と言うかなんで天才と張り合っているんだ…?⦆


「えっと実は壊されていた理由が大人数の魔術のせいだということが判明して…今回の魔道具窃盗も魔術が使われていた痕跡(こんせき)があったんです」


「わかったわ。専門的なものなら三十分で作れる。誰か,補助魔術を使える人,いない?」

「リリス,私が手伝うよ」


ところで乙女ゲームにおいていじめや嫌がらせの黒幕はほとんどが悪役令嬢というのは知っているだろう。

 しかし,もしも悪役令嬢がやっていないとするならば?

 そして悪役令嬢リリスは実際に嫌がらせを行なっていない。


⦅誰がこんなことを…もしかして他のいじめる奴が出たのかな?⦆


 そんなことを考えていることが愚かだったと,後々にリリスは思うのだった。


「「いらっしゃいませー」」

店番(シフト)が始まった。この時間の店員はリリス,イリーナ,イワン,そして攻略対象のノアだった。

「イリーナさんとリリスさんはちょっと表に出て宣伝しておいてくれないかな。意外と顔いいから」

「意外とは失礼で…だぞ。あとイワンさんは客がきたら案内をしておいて。できればお茶も」

 女装している攻略対象を見てると気まずい,と思いながら見ていたら女子も男子も近づいているところを見ると流石(さすが)はノアだと思う。


 「リリスお嬢様…!?なんというか前見た時は髪の毛あげていなかったので分からなかったですがこんなに美し,いやかっこ美しいとは!!流石ですお嬢さまぁっ!?」

「この姿だったら女子に見えるよな!?」

「あ,えっとイワンさん,全っ然見えませんからね?」

「ヴァーニャ…そこでイチャイチャするのはダメだよねぇーそうだよねぇーリリスー」

「あのみなさんうるさいので黙ってて下さりません?」


 この場にいた全ての人間が喋った。正確に言うと,この場にいる美形の人間が全員喋った。

それを外野が黙っている訳もなく,

『アリサ様今回のバンドすごかったですわ…』

『イワン様も一途で素敵ですわ!羨ましいけど早く付き合ってしまえばいいのに』

『リリス様は実はいい人ではないのですか?』

『イリーナ様も人懐っこいところ見たことないですわ!』

『ノア様も冷静につっこんでいるのに笑顔なの素敵ですわ!』

こうして一日目は終わった。


 二日目はシフトがなかったのでイリーナとアリサ(イワンと回らない時)と一緒に出し物を回った。

「イリーナは今日どこ行きたい?」

「んー超直感でプラネタリウムかなぁ。ほら世界でも珍しい本当の惑星と接続してるんでしょ?」

「確かに…いいと思うけどアリサはどうする?」

「私もいいと思います」


 元の世界と違ってテレビやプロジェクションマッピングと違い,映像技術がないので魔術や魔道具で宇宙と接続したり,想像の宇宙で再現するのだ。


 「これが宇宙...!すごいですあとでイワン様と一緒に行きましょうか...」

アリサは感動していた。この世界では宇宙は神との接続点と考えられているので無理もないだろう。 感動して移動しようとした時,急にプラネタリウムの映像が消えた。

そのクラスの人がざわついているので近づいてみると

「魔道具が…壊されてる!?」

「宇宙との接続魔術の無効術式もかけられている…」

これの何がまずいかと言うと,無効術式は魔道具があったとしても,無効術式をまともに使えるのは宮廷魔道士レベルの人間と,聖女と王家の人だけだ。

⦅王家の人間だとすればカリヤルだと思うけれどもどうしてそんな嫌がらせを?⦆

「おい,リリス。ちょっとこっちきて」

そう言われて人がいない裏庭に連れてこられた。

「人払いの術式を使った。少し相談にのってくれないかな?」

「なんですか?マリア様と結婚する方法ですか?ノア様」

目の前にいる男,ノアは首を振った。

「いや,結構深刻なんだけどさ,カリヤルとセシルが変なことをしているんだけど知らない?」

「わかりません。しかし…プラネタリウムの展示してるクラスに無効術式がかけられていました。その二人が原因だとは言い切れませんが」

「実は君を悪役にするって言う話を盗み聞きしたんだ。冤罪(えんざい)だったら証拠を提出したいな」

 冤罪とは…?まだ追放会議…ではなくて,夜会はまだ先なのに。そう思っている自分がいた。しかしリリスはカリヤルの本気を知っている。そうなる可能性もあることを考えておくと決めた。

「ありがとうございますノア様。意外と優しいのですね。」

「別に感謝しなくていい。冤罪は最も許されないからな」

ノアの顔を見ると少し照れていた。暑いのだろうか。

それから,喫茶店やミスコンやその他諸々回り,プラネタリウムの件がスッキリしないまま,二日目が終わった。

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