第6話 推しな彼女の死亡ルート




 アーク・ハワードの部屋に戻ってきた俺は、考え事に集中するため、ソファにドッカリと座って腕を組んだ。


「まず考えるべきは·········フィオナの死をどう回避するべきか」


 口に出して苦々しく思うと同時に顔を顰める。


 あまりフィオナ関係のエピソードを思い出したくはないが、そうも言っていられない。このままだとフィオナは死ぬ。


 ロスメモ本編でフィオナのルートは3つに分岐する。


 分岐の条件は色々とあるが、大まかには"主人公"とどれだけ早く出逢えるか、が運命を分ける。




 1つ目の死亡ルートは、主人公がフィオナと出逢うのが遅かった場合。


 これに関しては、あまり心配していない。

 なにせ、フィオナの死ぬ原因はアークにあるのだから。


 度重なるアークの残虐なに心を壊していったフィオナだが、主人公と出逢えないままハワード家で過ごすと、アークの子飼いであるクソ兵士達に凌辱されて精神が崩壊した挙げ句に自ら命を断つ。


 この名門たる公爵家の兵士を選ぶ基準は厳格であり、アーク坊ちゃまに命じられたからと言ってゲスな行為に手を染める兵士はいない。


 公爵家の兵士一人一人が誇りを持って職務にあたっていると断言できる、ツワモノ揃いの精鋭こそが公爵家の兵士なのだ。


 だがロスメモ本編でのアークは、厳格な公爵家の兵士を嫌がり、街のゴロツキ共で組織した私兵を使ってそれはもう好き勝手に振る舞っていた。


 フィオナを凌辱するエピソードもその1つだが、あいつらもアーク・ハワード並にクソみたいな奴らだ。いつか街で見掛けたらぶち殺してやるから覚悟しとけよ·········。


 話が逸れたが、これに関しては俺がフィオナを絶対に守護るマンなので問題はない。


 なんならフィオナとあまり関わらないようにするだけで死の運命は回避できる。まぁフィオナちゃんを生で見れないのは辛いから、影で守護るんだけど(ストーカー)。





 そして2つ目の死亡ルートは主人公と出逢いはするが、フィオナが患う"魔力供給過多"の特効薬を渡さない、もしくは渡せなかった場合。



 実はフィオナルートはヒロインでありながら、ロスメモ本編ではになっていた。


 フィオナと出逢いはするものの、特効薬の作り方が分からず右往左往しているうちにゲーム本編が進んでしまい、とある事件をキッカケにして"魔力供給過多"が暴発し、死んでしまったフィオナを見て画面の前で放心したプレイヤーも多い(2敗)。


 これに関しては仕方がない部分もある。だってフィオナルートのフラグ管理······めちゃくちゃ難しいんだもの。


 さきほどはサラッと流したが、"魔力供給過多"のは存在する。いや、今はまだ存在していない、というのが正しいだろうか。


 ロスメモ本編の主人公とそれを操るプレイヤーは、フィオナの境遇とその患っている病を知って、それはもう必死に解決法を探す。


 しかしその解決方法は開発陣によって入念に隠され、僅かなヒントを集めつつ各地を探さないと特効薬は作れないという、無駄に凝ったストーリーであった。そういうところがクソゲーって言われるんだぞ開発者。



 だが、これに関しても問題はない。


 なにせ俺は、ロストメモリアルを味わい尽くしてなんなら二次創作に手を出すほどに精通していたプレイヤーの1人だ。


 フィオナを快復させるための特効薬の作り方は熟知しているし、必要な素材だって常識レベルで記憶している。


 素材のいくつかは入手難易度が高いため今はまだ手が出せないが、それも俺が死ぬ気で努力すれば問題ないだろう。


 なにせこの体は、ロスメモ本編で"裏ボス"を務め上げたアーク・ハワードのものだ。


 アーク・ハワードは確かに下水道の汚物以下のクソ野郎だが、その実力は本物。


 序盤から幾度も主人公達の前に現れてはたったの1人で主人公パーティを相手に闘い、単身で危険地帯に踏み込んでは生還してくるような実力を持っているのだ。


 最も入手難易度が高い素材でさえ、手に入れる事はできるはずだ。


 まぁいくつかの懸念点はあるが、それもどうにかなるものばかりだと思いたい。



 だから、この死亡ルートも消失したと言っていいだろう。







 フィオナを救う。その点に関して、1つ目と2つ目の死亡ルートは問題無い。




 問題は



 プレイヤーと早期に出逢い、かつ精神崩壊していない状況で"特効薬"を渡して"魔力供給過多"がした場合。


 これが最も懸念すべきだ。



 この"ロストメモリアル"というゲームにおいて、ストーリーをザックリ解説すると、『古に封印されていた魔神が蘇り、世界を破滅に導く魔神を討伐するため主人公達が旅をして討ち滅ぼす』というのが大まかな本編の流れだ。


 めちゃくちゃザックリ解説したが、この本編の各所には盛りに盛られた鬱展開が待っているのでそこは省略する。語っても誰も幸せにならない。いやマジで。


 話を戻すが、"魔力供給過多"を治してもらったフィオナは主人公達に多大な恩を感じ、魔神討伐のためのパーティに参加することになる。


 その類稀なる絶大な魔力で主人公達をサポートし、魔法だけに絞ればその強さは作中でも上位に位置していたフィオナ。



 半ばチート扱いの彼女であったが、フィオナが魔神との決戦に挑むことは



 フィオナが、魔神との決戦に参加できなかった理由。



 それは、あらゆる攻撃を無効化する魔神に対し、フィオナが弱体化しなければならず───そこで命を落とすからである。








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