新桃太郎🍑

ほしのしずく

第1話 一目惚れ

俺は、桃から生まれた勇者。

育ての親である、じいさんとばあさんから「お前は神からの授かりものだ」と言われて、早18年が経過し、先ほど鬼と呼ばれる魔王との戦いを終えたばかりだ。


そして、その足で鬼ヶ島を出るために港へと向かっている。


鬼は3体いて巫女のような袴を身に纏い、黄色、青色、赤色の角を生やした美しい女性の姿をしていた。


そいつ等を倒したのはいいのだが、少し気掛かりなことがあった。


それは俺が渾身の桃太郎スラッシュを放った直後。


鬼たちは、声を重ね「これで元に戻れる。ありがとう……この恩は――」と言う言葉を残して姿を消した事だ。


あの言葉の意味を聞きたくとも、俺の旅の仲間である、口を開けば「ウキィッ」しか言わない団子の催促ばかりする剣士。


通りがかる人たちに「ワンワン」と威嚇し、その辺でマーキングばかりする戦士。


「キィーッ」と甲高い声で鳴き、魔法より啄く攻撃が得意な魔法使い。には、わかるはずもない。


もし理解していたとしても、俺にはその言葉を理解することは出来ない。


彼らは、俺と違う種族だからだ。


残念なことに――。


すると、空を飛んでいる魔法使いが叫び始めた。

頭に響く甲高い声。


この鳴き声は――きっと周囲に敵が迫ってくる時の合図だ。


俺は仲間たちへ、素早くばあさん手作りのキビ団子を渡して、身を低くし臨戦態勢を取る。


3匹もそれぞれに身構えた。


斧を口に咥えて唸り声をあげる戦士。

剣を両手に持ちながら、曲芸のようにぴょんぴょんと跳ねる剣士。

空を縦横無尽に舞い、杖を鋭い爪で掴む魔法使い。


「ウキィ、ウキィ」

「グルルッ、ワン」

「キィー、キィー」


突如訪れたこの異様な雰囲気に俺は緊張していた。


晴天だった空模様も、徐々に雲が広がり曇天となっていく。


それに呼応するように、鳴き声を大きくしていき、荒れ狂う仲間たち。


じいさんが鍛えてくれたこの両刃剣を握る手にも自然と力が入る。


そして、全員の警戒心がピークを迎えようとした時――。


突然、俺の目の前に袴姿をした美しい女性が現れた。


「――恩返しにきました」


慌てる俺を前に、女性は頬を赤く染め優しく微笑み軽くお辞儀をしてきた。


「おま、お前は――」

「はい、その説はお世話になりました」


言葉に加えて、3体の鬼の特徴を濃く継いだ容姿に特徴的な袴姿。間違いなく、魔王であり鬼だった存在であることは明らかだ。


だが、俺は心を。一瞬にして心を奪われてしまった。


いや、ひょっとしたら初めから奪われていたのかも知れない。


この旅の道中も、鳴き声をあげる仲間たちより、最後の感謝を述べる魔王たちのことで、頭がいっぱいだったからだ。


この体を駆け巡る電撃のような感情を、自分自身理解できないし、ばあさんやじいさんにも教わったこともない。


ただ、言えることは1つ。


俺がこの女性を幸せにしたいという気持ちが湧いてくるということだけ。


だから、俺は鳴き叫ぶ仲間たちと旅をすることより、この人を幸せにすることを選んだ――。




◇◇◇




――数年後。


じいさんは山へ芝刈りに、ばあさんは川へ洗濯に行っている。


俺はというと――。


一目惚れした女性との間に、3人の子宝にも恵まれ。


かつての仲間たちとも、ボール遊びなどをして楽しく過ごしている。


今、俺は幸せだ。


じいさんとばあさん。3匹の仲間たちに。愛するカミさんに子供たち。


どうかこれからも、全員が元気で、穏やかな日々を過ごせますように――。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新桃太郎🍑 ほしのしずく @hosinosizuku0723

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ