第21話
上司は逮捕されたはずでは?
ダンジョンに入る前に見た街頭のサイネージ。
流れていたニュース内で、警官によってパトカーに乗せられていた。
あの時、連行されたはずの上司は……
「たす……誰か……俺様を、助けろ!!」
何故かゴブリンに小突き回され、痛い痛いと助けを求めている。
この男を助ける必要があるのだろうか?
暴言を始めとしたパワハラ。
半グレを差し向けての暴行未遂。
そして極めつけは銃の密輸。
真剣に考えてみるが、助ける理由が見つからない。
このまま放置してもいいのでは?
そんな考えが浮かんでしまうのも、今までの行いを思えば当然のことかもしれない。
更に言ってしまえば……
ここにいるということは、何らかの方法で警察から逃走したということ。
逮捕した被疑者を逃したとあっては、警察の威信に関わる。
どんな手段を使ってでも、上司を見つけだそうとするだろう。
このまま罪から逃れられるとは思えない。
迷惑を掛けられた記憶しかない、どうしようもない人間ではあるが……
生き残るためのチャンス、罪を償う機会は与えられてもいいでは?
とはいえ、無条件に助けるつもりはない。
これからやって来るのは、ダンジョンが当たり前の世界。
その中で生き残るためには、変わなければならない。
戦う意思を持てなければ、遅かれ早かれ命を失うことになる。
変わることが出来ないのなら、ここで助けたところで意味はない。
救われるにたる人間なのか……試してみる必要があるだろう。
判断したなら、即行動するべきだ。
気配を殺したままゴブリンの背後を取り。
首元へと腕を回すと――
「グ……ギャ……」
ゴキリ、と響く不快な音。
オレは小鬼の首を一瞬でへし折った。
突然の事態に動揺しているのだろう。
残されたゴブリンはその場で立ち尽くし、凍り付いたように動かない。
絶好の機会。
今なら危険を犯すことなく、敵を葬ることができる。
だがオレは仕掛けることなく、残されたゴブリンから一歩距離を取る。
「お、おまえ……
こちらを認識した上司は、偉そうな態度で助けるよう命令してきた。
命の危機が迫る中でも、自分で何とかしようとはしないのか……
そんな姿に呆れながらも、方針を変えるつもりはない。
先ほど入手した
刀身には小さく亀裂が走っており、そう長く使うことはできそうにない。
恐らく一、二回斬り付ければ折れてしまうだろう。
だが問題ない、一度耐えられればいい。
マナを帯びた武器であれば……
素人が使ってもモンスターにダメージを与えられるはずだ。
オレは持っていた長剣を、上司へと投げ渡す。
傍に落ちた長剣に、ビクリと反応した上司は――
「危ないだろうが! 何しやがる!!」
――激怒するだけで、得物を手に取ろうとしない。
ゴブリンはこちらを警戒し、オレと上司の間で視線を彷徨わせる。
何を選択するのか、それは本人次第。
オレは腕を組み、ゆっくりと後退し距離を取る。
しばらくはこちらを警戒していたが、攻撃の意思がないと理解したのだろう。
ゴブリンは邪悪な笑みを浮かべながら、向き直ると――
そのまま上司へと殴り掛かった。
馬乗りになり繰り出される小さな拳。
しかし上司は武器を取ることもなく、されるがままに殴られ続けている。
「たす、助け……おい、助けて、くれぇ……」
いつまでも助けを求め続け、戦う意思を見せない……
その姿が、かつてオレに救いを求め続けた人々と重なって見える。
これ以上、様子を見る必要はなさそうだ。
「時間を無駄にしたな……」
そろそろ探索に戻るとしよう。
長剣を回収するつもりはない。
最後の手向けとして、くれてやってもいいだろうと考えたからだ。
叫ぶ上司を無視して、ダンジョンの奥へと向かって歩き出す。
非情だと思われてしまうかもしれない。
だが、変わってしまったこの世界では……
意思なき者に生きる価値などないのだから。
――――――
あとがき
――――――
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