第20話

「何……だと!?」


 ありえない出来事に動揺してしまう。


 今聞こえた叫び声は、モンスターのものではなく……

 間違いなくそれは人間のものだった。


 ダンジョンの入口。

 ポータルは決まった位置に定着する前に、色々な場所に出現することがある。


 しかしそれは一瞬のこと。

 偶然、目の前にポータルが現れ、ダンジョン内に入り込む……

 そんな可能性は、どれくらいあるだろうか?


「なくは、ないか」


 苦笑いを抑えきれず、口元が歪む。

 脳裏に浮かんだのは、かつてオレが始めてダンジョンに挑んだ時のこと。


 他でもないオレ自身が偶然ダンジョンに紛れ込んだのだ。

 たとえゼロに近い可能性だとしても、ありえないわけではない。


 それに聞こえて来た声は、どこか聞き覚えのある……

 だがこんな場所にいるはずがない人物の物だった。


 不確定要素を放置することはできない。

 だがもし想像通りの相手なら、急ぐ必要もないだろう。


 オレは、疑問を解消するため。

 声の聞こえた方向へと向かうことにした。


 ※ ※ ※


「ギャギャギャギャギャ」


 しばらく歩いていると、どこか喜悦を感じさせる声が聞こえてきた。


 オレはその場で立ち止まり目を閉じると、意識を集中させる。


「ゴブリンが一……いや二匹。……厄介だな」


 マナを吸収したことで鋭敏になった感覚。

 離れた場所にいる敵の存在を、鮮明に感じ取ることができた。


 多少強くなったとはいえ、今はまだ複数の敵と同時に戦うのは厳しい。

 この場での交戦は可能な限り避けたいところだ。


 どのように動くとしても、まずは様子をうかがってから。

 そう判断したオレはゴブリンたちに気付かれないよう、慎重に近づいていく。


 約一〇メートル程まで近づくと……

 壁面のわずかな光源が、おぼろげにだが相手の姿を照らし出す。


 ゴブリンの数は二匹で間違いない。

 どうやら何者かを囲んでいたぶっているようだ。


 距離が縮まったからだろう。

 囲まれている人物の叫びが、鮮明に聞こえてきた。


「痛っ! 痛いと言ってるだろ! やめろ、やめてくれー!!」


 それは覚えのある、野太い男の声。

 聞いているだけで記憶の奥底から、苛立ちの感情が沸き上がってくる。


 まさか奴が?


 声を上げている人物。

 それが誰なのか、心当たりはある。


 あるのだが……

 その予想が正解だと思いたくない。


 それにこの位置からでは、相手の顔は確認できない。


 まだ確定はしていない、あくまで可能性の段階だ。

 きっと他人の空似……いや空声なはず。


 放置して通り過ぎたい気持ちを抑え込み。

 オレは足音を殺しながら、更に距離を詰めてみる。


 距離にして三メートル。

 光源に照らし出された男の姿。

 その顔を見て……オレは、思わず息をのんだ。


「誰か、誰かー! 誰かいないのか! 俺様を助けろーーーー!!」


 野太い声。

 特徴的な一人称。

 圧倒的弱者の立ち位置でも相変わらず尊大な態度。


 間違いない。

 アレは……襲われている人物は――

 オレの元上司だった。



 ――――――

  あとがき

 ――――――


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