第19話

 頭部を失った緑の身体が、ゆっくりと前のめりに倒れていく。


 周囲を見渡すが、増援の気配はない。

 これで終わり……いや、まだだ!


 注意していなければ分からない程度のかすかな振動。

 靴底を通して、それを感じ取った瞬間――

 脳内に危険を知らせるアラートが鳴り響く。


 オレは迷うことなく、即座に前転。


 直後――ドゴッ、と大きな音を立てながら。

 先ほどまで立っていた地面を突き破り、小さな影が飛び出してきた。


 オレは地に手をついて反転。

 突然現れたモンスターへ向かって、全力で爪先を蹴り込む。


 サッカーボールのように蹴り飛ばされた小さな影は。

 ダンジョンの壁に勢い良くぶつかると、そのまま動かなくなった。


 鋭い爪が特徴的なモンスター。

 その名は、魔土竜サンドモール


 見た目は普通のモグラと変わらない。


 だが明らかに大きい。

 体長は四~五十センチ程度。

 中型犬の柴犬くらいはあるだろう。


 能力差がある相手には向かってこないし、それほど強くはないので脅威度は低い。

 だがダンジョン内を掘り進み、奇襲を仕掛けてくるため厄介なモンスターではある。


 地面の小さな穴から事前に予想していなければ……

 大きなダメージを負っていたはずだ。


「ふぅ……」


 今度こそ問題なさそうだ。

 オレは、長剣を地面へと突き立てながら乱れた息を整える。


 ゴブリンに魔土竜サンドモール

 一見すると余裕に見える戦闘だったが、実際のところは紙一重。


 もし本来の力の一割でも発揮できたなら。

 ゴブリンなど最初の突きで戦闘不能にできていたはずだ。


 イメージより遅れて動く身体。

 頭では理解できていても、実戦となるとその誤差はバカにできない。


「とはいえ、今の状態なら上出来か……」


 連戦を無傷で終えることができた。

 今はそれを素直に喜ぶとしよう。


 視界の隅で何かがキラキラと輝く。

 それは光の粒子となって消えていくゴブリン。


 ダンジョン内で討伐されたモンスターは、その存在を構成するマナへと還る。


 マナとは何なのか?

 有名な学者たちが研究していたが、未だその全ては解明されてはいない。


 オレが元々いた10年後の世界での認識だが……

 身体に取り込むことで、強靭な肉体や特別な力を手にすることができる。

 ファンタジー作品に出てくる『気』や『魔力』と呼ばれるものがイメージに近い。


 そんな風に広く認知されていた。


 まあ詳しく説明しようとすると、学術論文を参照することになるので……

 常人には理解できない話になってしまう。


 そんな感じなので、細かい事は考えるだけ無駄。

 ダンジョン内に存在している、人類を強化してくれる不思議なエネルギー。

 それだけ理解しておけば問題ない。


「さて、始めるか……」


 目を閉じ意識を集中する。

 マナは粒子になって消えていくが、その一部は近くにいる人の身体に取り込まれる。


 しかし意識的に特別な呼吸を行うことで。

 取り込まれるマナの量を増やすことができるのだ。


 目的を果たすために、誰よりも早く成長しなければならない。

 目を閉じて、静かに深呼吸を繰り返す。


 マナが体内に取り込まれ、徐々に身体が作り変えられていくのが分かる。

 取り戻した力は、まだほんのわずかに過ぎない。

 だが確実に強くなっている実感があった。


 マナの吸収を終え、オレは目を開ける。

 既にモンスターの亡骸は消え去り。

 魔土竜サンドモールの出現した穴だけが残されていた。


 オレは降ろしていたバックパックを背負い直し。

 ゴブリンの残したびた長剣を手に取る。


 そしてダンジョンの探索を進めるため歩き始めると。


「――――ッ!!」


 少し離れた場所から、叫び声が聞こえてきた。



 ――――――

  あとがき

 ――――――


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