第18話

 多くのファンタジー作品に登場し、誰もが知る最弱の存在。

 知名度では頂点に君臨するが、雑魚の代名詞として語られることも多い。


 そんなゴブリンだが、実際はどうなのか?


 ダンジョンが当たり前になったことで、この世界には様々なモンスターが現れた。


 戦闘に特化した巨大な体躯の鬼――オーガ。

 翼を持った亜竜――ワイバーン。


 多くの人々から恐れられ。

 単体で都市を壊滅させかねないモンスターたち。


 だが探索者を最も苦しめ……

 その命を奪ったのは別のモンスターだった。


 小柄だが、その筋力は成人男性と同等。

 子供程度のものとはいえ、知性を持ち道具を使い。

 仲間と連携し、相手に合わせた戦術を取ることもできる。


 雑魚の代名詞と侮り、ゴブリンに挑んだ者がどうなるのか?

 その答えは語るまでもないだろう。


 けして侮れない危険な存在。

 数多の探索者を葬った最悪の殺戮者。


 一匹見つけたら、その十倍はいると思え。

 徒党を組んで狩りを行う、それこそがゴブリンの恐れられる理由。


 ソロの探索では出会いたくない相手だが……

 目の前に現れた敵は単独。


 どうやら運はオレに味方をしているようだ。


 オレは地面に空いた小さな穴を回避しつつ距離を詰めていく。

 近づいてくるゴブリンの姿に、無数の討伐経験が思い出される。


 数えきれないほどほうむった相手。

 攻略法は、誰よりも熟知している。


 発見、即殲滅。

 連携する隙を与えないのが、ゴブリン討伐のセオリー。


 本来ならこのまま奇襲をかけ、一方的に制圧するべきだろう。

 だが今なら、一対一で戦うことができる……


「ギャッギャッ」


 こちらの存在に気づいたのだろう。

 ゴブリンは、醜悪な笑みを浮かべる。


 恐らくオレのことを、ただの獲物だと思っているのだろう。


 オレは、二メートル程の距離を残して立ち止まり。

 両手のナイフを腰のホルダーへと納める。


 けして油断しているわけではない。


 今のオレがどのくらい戦えるのか?

 純粋な身体能力を知るための、絶好の機会だと考えたからだ。


 そのまま戦闘態勢を取り、油断なく敵を待ち構える。


 緑色の怪物はドタドタと足音を鳴らしながら、駆け出すと……

 手にしたびた長剣を振りかぶった。


 振り下ろされる凶刃。

 オレはそれを半身で躱し、一歩踏み込む。


「――フッ!」


 一瞬驚きの表情を浮かべるゴブリン。

 次の瞬間――


「グゲッ!?」


 全力で振りぬいた右拳が喉元へと深く突き刺さり。

 ゴブリンは喉を押さえながら、その場にうずくまった。


 致命傷とは言えない。

 だが確実にダメージは与えていた。


 オレは数歩後ろへ下がると、助走をつける。

 そして鉄板の仕込まれた踵で――下がった後頭部を踏み抜く。


 グシャリ、破壊的な音と共に地面へと叩きつけられ。

 ゴブリンの頭が派手に跳ね上がった。


 これで……


「……ッ!!」


 いや、終わっていない。

 一瞬見えたゴブリンの目には、まだ光が宿っていた。


 窮鼠猫を噛むという言葉がある。

 ましてやゴブリンは今のオレよりも強い。


 能力の把握はここまで十分だ。

 これ以上無駄なリスクを取る必要はないだろう。


 ゴブリンが体勢を立て直す前に止めを刺す!


 魔槍があれば簡単な話だが……

 オレは一瞬だけ左手に視線を向け、すぐに戻す。


 モンスターを確実に倒すためには特殊な武器。

 宝物ほうもつのようなマナを宿した装備が必要だ。


 もちろん職人が造った武器や技術でカバーはできる。

 だが手持ちのナイフは通販サイトで購入した量産品だ。

 致命傷を与えるには頼りない。


 となると……

 周囲に視線を巡らせ、ある物に目をつけた。


 ダンジョン内に存在する、あらゆるモノにはマナが内包されている。

 それはモンスターだけではない、ヤツらの持つ武器も同様なのだ。


 オレはゴブリンが取り落した長剣へと手を伸ばし。


 ――一閃。


 胴から切り離された緑色の頭が、高く舞い上がった。



 ――――――

  あとがき

 ――――――


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