第17話
転移した先は洞窟のような場所。
横幅と高さは三メートル程度。
左右の岩壁は等間隔でかすかに発光しており。
遠くまでは見通せないが、戦闘には支障なさそうだ。
「資料通りだな」
最悪の状況も想定していたが……
目の前に広がるダンジョンが、想定していた通りのもので安心する。
「……ッ」
左手首が
袖をまくってみると、薄っすらと浮かび上がる契約の刻印。
微かに漂うマナに反応しているのだろうか?
オレに契約の
「そう焦るな、オレも待たせるつもりはない」
刻印が一度小さく光を放つ。
そしてオレの言葉を理解したかのように、
「まずは……装備を整えるか」
背負っていたバックパックをゆっくりと地面に降ろす。
ジッパーを開き、攻略のために揃えた装備を取り出していく。
刃渡り14センチ程のアウトドアナイフが二本。
ベルトに通すタイプのナイフホルダー。
拳の部分をカーボンファイバーで補強したタクティカルグローブ。
それらひとつひとつを、手早く身に着けていく。
アウトドアナイフは、ベルトに通したホルダーへ。
そして拳を保護するためのタクティカルグローブを手にはめ。
最後に爪先で軽く地面を蹴り、履いていた安全靴に問題がないかを確かめた。
わざわざ装備を持ち込むのは、正直言って面倒臭い。
しかしこんな恰好で、街中を歩こうものなら普通に通報されてしまう。
ちなみにプロテクターのような防具は用意していない。
そんなものではモンスターの攻撃には耐えられないし、動きを阻害してしまうからだ。
装備を身に着け、戦闘準備を整えると。
なぜかこの場所に居心地の良さを感じてしまう。
いつ命を失うか分からない場所では、明らかに不釣り合いな感覚。
だがそれも仕方ないことなのかもしれない。
元々オレは外にいるよりも、ダンジョンに潜っている時間の方が長かった。
一度ダンジョンに潜った後は、一定期間の休息を取る。
それは探索を行う者にとっては当たり前の常識。
だがオレには才能がなかった。
そんな強者の常識に囚われていては強くなれるはずもない。
肉体の限界を超え。
何度も死線を潜りぬけ。
オレは最前線で戦える力を身に着けたのだ。
今のオレには以前のような力はない。
だが既に1度通った道……
それは答えを知っている状態でテストを受けるようなもの。
危険であることに変わりはないが、前回よりも早く効率的に成長できるだろう。
とは言え、今の身体でどこまでやれるのか?
積み重ねた10年分の経験を実戦で反映できるのか?
正直なところ自分でもわからない。
ならば、試してみるしかないだろう――
少し離れた場所から聞こえてくる荒い息遣い。
そして、何かを引きずるような音。
――命を賭けた戦いの中で!
距離は約十メートル。
闇から滲み出るように現れた人型。
手にした長い棒状の物が、地面に一本の線を刻んでいた。
身の丈は百三十センチ程度。
口の端に垂らした涎が、生理的な嫌悪感を抱かせる。
まだオレの存在に気付いていないのだろう。
緑色の怪物は特に警戒する様子もなく、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。
油断なく視線を向け、腰のホルスターから二本のナイフを抜き放ち。
オレは逆手に持ったナイフを構えながら。
現れたモンスター――ゴブリンへ向かって、全速力で駆け出した。
――――――
あとがき
――――――
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