始まりの迷宮編
第16話
上司が逮捕される姿を見届けた後。
オレが向かったのは、街灯の光が届かない薄暗い路地だった。
「そろそろか?」
時刻を確認すると20時を少し回った頃。
既に日は落ち、夜空に星がきらめいている。
スマホを仕舞いながら、周囲を一度見回す。
何もない路地の突き当り。
なぜこんなところにいるのか?
それには明確な理由がある。
ここにオレの求めるものが現れるからだ。
この世界にやってきた最初の夜、確認した場所。
そうここが『始まりの迷宮』の現れる場所なのだ。
これから挑むのはダンジョン。
それは現実とは思えない異質な世界。
モンスターがはびこり、特別な力を持つ
天才と呼ばれた戦士たちが、当たり前に命を落とす。
そんな場所を攻略するためには、豊富な知識が必要とされる。
時間が出来れば資料室に籠り。
そんな姿を見て、仲間たちから呆れられたのものだ。
かけがえのない時間。
今はもう失われてしまった……
オレの中にしか存在しない思い出。
感傷的な気分を振り払うため。
左右に頭を振って、気持ちを切り替える。
ダンジョンへと繋がるのは、ポータルと呼ばれる転移門。
その先には、様々な光景が広がっている。
洞窟や地下迷宮。
オレが黒騎士と戦った荒野もその一つと言えるだろう。
出現直後のダンジョンは安定せず。
固定化されるまで様々な場所にポータルが現れることもある。
オレの持つ情報によれば。
ここが『始まりの迷宮』の入口で間違いないはずだ。
だが隠し部屋で見つけた魔結晶のように……
オレの知る情報が全て正しいとは限らない。
出来れば周辺を確認し。
他にポータルが出現していないか確認したいが……
少し離れた場所から、けたたましいサイレンが聞こえてくる。
先ほどから何度も道路を行き交う赤いライト。
それはパトカーに取り付けられた回転灯の光だ。
何か事件でもあったのだろうか?
タイミングの悪さに思わず眉根にしわが寄る。
今のオレは中身の詰まったバックパックを背負い。
薄暗い路地裏に一人で立っている状態だ。
明らかな不審者。
もし警察官に見つかってしまえば、確実に職質を受けてしまうだろう。
今、所持品検査をされるのは絶対に避けたい。
持っている物を考えれば……
まず間違いなく、連行されてしまうからだ。
このダンジョンの
『始まりの迷宮』が攻略されたのは出現から一ヶ月後。
そう資料には記載されていた。
多少の誤差があったとしても、まだ余裕はあるはず。
とは言え、リスクは少しでも減らしておきたいところだ。
「一度荷物の確認でもしておくか?」
ただ立っているだけでは時間の無駄だ。
そう考え、背負ったバックパックを地面に降ろそうとした時。
何もなかった空間に変化が訪れる。
目の前で光の粒子が渦巻き、輝く螺旋が現れる。
それはダンジョンへと続くポータルだ。
「タイミング良いのか悪いのか……」
降ろそうとしていたバックバックを背負いなおし。
ポータルへと向かって手を伸ばす。
「さあ……行こうか」
指先が光の螺旋へと触れると。
一瞬で周囲の風景が変化した。
――――――
あとがき
――――――
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