第15話

 夕闇を引き裂く衝突音。

 立ち昇る白煙。


 人気のない路地で、横倒しになった警察車両。

 勢いよく開かれたドアから、這い出る太った中年男性の姿。


 それを少し離れた場所から見つめる者がいた。


 白い短髪、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの肉体。

 野性味の溢れるワイルドな青年は、スマホを片手に誰かと話をしている。


泰我たいが、首尾はどうだ?』

「問題ねえ。このまま例の場所まで誘導する」


 泰我たいがと呼ばれた男は、頭をボリボリを搔きながら問いかける。


「なあ、わざわざこんな手間かける必要あんのか? あのデブを叩いたところで、オレらに繋がりゃしねえんだろ?」


 その声音には心底面倒臭いという感情が籠っていた。

 泰我は通話相手の返事を待つことなく、更に話を続ける。


「このままさらちまって、埋めるなり沈めちまう方が早くねぇか?」


 迷いなく放たれた言葉。

 そこに良心の呵責はなかった。


 弱肉強食。

 泰我たいがは、弱者にかける情けなど持ち合わせていない。

 使えないなら処分するのが、当然だと考えている。


『タイミングが悪い。仮に死体が見つかれば、後々問題になる』


 少し考える様子を見せた後、納得したように小さく頷く。


「オーケー、ユー……ボス」

『言葉には気をつけろ。誰が聞いているとも分からん』


 電話越しに伝わる圧迫感。

 泰我たいがの顔が一瞬強張る。


「ああ、すまねぇ……」


 心からの謝罪。

 ボスの放っていた圧が消え、ほっと一息つく。


 泰我たいがは、失敗を認め謝罪することができる。

 だがミスをいつまでも引きずるような性格ではない。


 すぐに元の調子を取り戻し、普段通りの口調で会話を再開した。


「しっかし面倒臭ぇことになったな……計画に支障はねぇのか?」

『早いか遅いか。それだけの話だ。それよりも……』

「心配いらねぇ。きっちり金握らして、ナシつけてっから。数日中には詳しい事が分かると思うぜ。で、捕まえちまっていいのか?」


 言われてから動くなど二流以下。

 指示を受けずとも、自らの頭で考えることができる。

 だからこそ泰我たいがは、ボスに信頼され組織の幹部を任せているのだ。


『いや、少し待て。邪魔者の排除に使えるかもしれん』

「邪魔者? ああ、あの時代錯誤な化石野郎の……詳しい話は後で教えてくれ。仕事を片づけ次第合流するからよ」


 通話を終わらせ、ゆっくりと歩き出す。

 目指す先は、かけるの上司が走り去った方向。


 夕日に照らされた泰我たいがの口元には……

 凶悪な笑みが浮かんでいた。



 ――――――

  あとがき

 ――――――


読んでいただきありがとうございます!

今回は三人称の幕間、次話よりダンジョン編がスタートします!


気にいっていただけましたら、

作品フォローやレビューしていただけましたらうれしいです!


応援よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る