第14話

「放せ! 俺様を誰だと思ってやがる!?」


 オフィス街に響く叫び声。

 ビルの前には詰めかけた報道陣。

 一斉にカメラの向けられる先では、太った中年の男が暴れている。


「冤罪だ! 俺は何も知らん!」

「暴れるな! 公務執行妨害を追加するぞ!!」


 複数の警察官によって取り押さえられる上司。

 その顔には憤怒の感情が浮かんでいる。


「糞がッ! どうしてこんなことに……」


 口端から、唾が飛び散る。

 逃れようと身をよじるが、屈強な法執行官が相手では無意味な抵抗だった。

 引きずられるようにして、警察車両へと放り込まれる。


『これは1時間ほど前の映像です!』

『恐ろしい話ですね……こんな事が起こるなんて、想像もできませんでした』


 映像がスタジオでの会話に切り替わり。

 大きな文字で。


 企業の闇。反社とのつながりも……


 とテロップが表示される。


 ざわざわと騒がしい街中。

 オレは、街頭の大型サイネージに映し出される映像を眺めていた。


 これはオレが行動を起こした結果。

 数日前に掛けた電話によって起こった状況だ。


 あの時、半グレを気絶させた後に連絡した先。

 それは上司に辞表を突き付けた直後に知った番号。

 ポスターに書かれていた……『拳銃110』だ。


 情報提供を行い、拳銃や銃器の押収、被疑者の検挙にいたった場合。

 報奨金が支払われるという制度。


 正確な金額はまだ未確定だが。

 拳銃一丁に対して10万が目安らしい。


 押収された拳銃は三桁を超えていた。

 これが全ての押収品に当てはまるなら……

 想像を遥かに超えた金額が舞い込むことになりそうだ。


 仲間が捕まったことでどのような行動を起こすのか。

 無視するのか、それとも……

 どちらに転んでも、オレの不利益になることはない。


 上司の逮捕によって邪魔者は消え。

 報奨金の確定によって資金の問題も解決。

 そして半グレ組織に対して一手を打つこともできた。


 今回の一連の流れは、十分に及第点と言ってもいいだろう。


 終わったことに思考を割くほど、無駄な時間はない。

 次はダンジョンの攻略が待っているのだ。


『おっと、ここで速報が……』


 背負っていたバックパックを肩にしっかりとかけ直し、歩き始める。


「本番はこれからだ……」


 ここまでは前座に過ぎない。


 10年という月日が与えてくれた知識と経験。

 それはこれから先、オレを助けてくれる大きなアドバンテージとなるだろう。

 だがそれだけに頼ってはならない。


 あるはずのない物。

 魔結晶がなぜ現時点で存在しているのか。


 オレの知らない真実。

 解き明かすべき謎は、確かに存在しているのだ。


 踏みしめる一歩一歩に力が篭る。


 そう、簡単なはずがない。

 挑むのは前人未踏の領域……

 オレは未来を変えようとしているんだ。


「さあ、新しい舞台ステージを始めようか」


 与えられた機会。

 許された奇跡の時間を噛み締めながら。



 ――――――

  あとがき

 ――――――


読んでいただきありがとうございます!

幕間を1話挟んでダンジョン編が始まります!


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