第13話
静寂の中に響く足音。
伸びた影が棚の隙間から視界に入る。
一歩、また一歩。
こちらへ近づいてくる半グレたち。
目の前には荷物で満ちた棚。
その幅は2メートル程度あるだろう。
オレが身を隠しているのは、ほぼ中央。
左から1メートルくらいの位置だ。
二人組の視界に入らないように。
低く身を屈めて、ポケットから取り出した物を手に待ち構える。
硬い感触を確かめながら、次に取るべき行動の手順を思い返す。
仕掛けるのは潜んでいる棚の中央まで、ヤツらがやってきた時だ。
そろそろだな。
タイミングを計るため、心の中でカウントを数え始める。
3、2、1……今だ!
目の前までやってきた半グレたち。
その背後へと向かって、オレの手を離れたカードキーが放物線を描く。
カンッ、と小さな金属音が響き……
見事、少し離れた棚に命中した。
「……ん、なんだ?」
足を止め、振り返る二人。
その視線が、音の発生源へと向けられる。
意図的に生み出した隙。
オレは相手の虚を突いて行動を起こした。
「――フンッ」
棚に身体を預けると、気合一閃。
体重乗せた、全力のタックルを放つ。
業務用の幅2メートルもある棚。
本来ならオレのタックル程度でどうにかなるものではない。
だが目の前の棚は、無理やりに詰め込まれた荷物によって不安定になっている。
オレの一撃によって、棚はバランスを崩し……
ゆっくりと黒髪と金髪に向かって傾いていく。
「……って、うぉぉぉおお!?」
迫りくる脅威に驚きの声を上げ、動くことが出来ない二人。
残念ながらどれだけ叫んでも、倒れ始めた棚が止まることはない。
黒髪が逃げるため駆け出そうとする。
しかしもう……手遅れだ。
――ドーン
ものすごい衝撃音が響き、床に溜まっていた埃が舞い上がる。
「…………」
成果はどうだ?
オレは目を凝らし状況を確認しようとする。
視界を遮っていた埃が落ち着くと、棚の下敷きになった黒髪と金髪の姿が確認できた。
「……上手くいったようだな」
半グレたちに近づいてみると、ピクピクと痙攣していることが分かる。
どうやら命に別状はなさそうだ。
少し残念な気持ちもあるが、想定通りの光景。
思わず口元が緩んでしまう。
「さてさっさと済ませるとするか……」
半グレの無力化は完了した。
ここで無駄に時間を浪費する必要もない。
オレはポケットに手を入れ――
「う……ぐぅ……」
「なんだ、意識が戻ったのか」
視線を向けると、声を漏らしたのは黒髪の方だと分かった。
閉じられていた目蓋が開き、おぼろげに視線を彷徨わせる。
「て、めぇ……一体……」
すぐ傍にいたオレの存在に気が付いたようだ。
言葉に力はない、だがその声には確かな怒りがこもっている。
黙って気を失っていればいいものを……
オレは行動を邪魔されたことに、少しだけ苛立ちを覚える。
だが大した問題ではない。
目覚めてしまったのなら、もう一度気を失ってもらえばいいだけだ。
オレは一歩踏み込み、半グレへと向かって――
「静かに――しろっ!!」
全力で右足を振りぬいた。
「――カハッ」
オレの爪先は顎を正確に捉え、跳ね上げる。
完璧な一撃だ。
男は床に突っ伏したまま動かなくなった。
「これで、しばらくは問題ないだろう」
気を取り直し、オレはポケットからスマホを取り出す。
「さて今度こそ……」
ディスプレイを操作。
受話器のマークをタッチし、キーパッドを立ち上げる。
当初の計画では、匿名で警察への通報を行う予定だったが……
三桁を超える拳銃。
そして以前見た光景。
それらを組み合わせ、半グレたちへの仕掛けを思いついた。
すぐに効果が出るかはわからない。
だが金銭面の問題を同時に解決できる。
となれば、仕掛ける価値は十分にあるだろう。
「確かあの時のポスターには……」
サイネージに表示されていた番号を思い出しながら入力を終える。
すると間を置かず、コール音が鳴り始めた。
番号に間違いはなかったようだ。
安堵しながら電話が繋がるまで待機する。
「はい、こちら――」
繋がる通話。
耳元のスマホの受話口から、女性オペレーターの声が聞こえてきた。
――――――
あとがき
――――――
読んでいただきありがとうございます!
気にいっていただけましたら、
作品フォローやレビューしていただけましたらうれしいです!
本話で旧Verに追いつきました!
余裕がある場合は複数話更新する日もあるかもですが、
基本1日1話更新に切り替わります。
引き続き、応援よろしくお願いします!
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