第12話

 倉庫内に戻ると、そこには一面の闇。

 隠し部屋にいる間に、完全に陽が落ちてしまったようだ。


 漏れ出る光によって、気付かれてしまうかもしれない。


 即座に視線を飛ばし、周囲に何があるのかを把握。

 後ろ手で隠し部屋の扉を閉めると、扉の側にあった死角へと身をひそめた。


 薄暗い倉庫内で光るスマホのライト。

 コンテナの破壊音。

 それらが原因で誰かに気付かれてしまったのだろうか?


 いやそれならシャッターが開くのはおかしい。

 となると、考えられる可能性は二つ……

 やって来たのは倉庫の持ち主か、取引相手のどちらかだ。


 開いたシャッターから入ってくる二つの影。

 扉を閉めた今、光源のない状態では侵入者の姿を確認することができない。


「チッ、メンドくせぇな……」

「ボスの命令ですから、文句言っても仕方ないですよ」


 恐らく電源盤を操作したのだろう、電灯が灯る。

 倉庫内が明るくなったことで、奥へと歩いてくる二人組の姿が確認できた。


 ――黒髪の男と金髪の男。


 金髪の方に覚えはないが、黒髪の男には見覚えがある。

 オレを尾行していた半グレの一人だ。


「にしても、何で予定より早く回収することになったんだ?」


 黒髪の発した『回収』という言葉に引っかかりを覚える。

 隠し部屋で見つけたアレと関係があるのだろうか?


「どうもあのデブがやらかしたみたいです。カードキーを失くしたとか……」

「あんのブタ野郎……どんだけ俺の手を煩わせてくれてんだよ!」


 会話の内容からカードキーの紛失には気づいたようだが、その所在は分かっていない。

 まだ疑われているわけではないと知り、軽く安堵する。


「あー……社員をシバきに行ったら、ヤクザに邪魔されて逃げたんでしたっけ?」

「逃げてねえよ! 戦略的撤退ってヤツだ!!」

「まあ、今あの組と揉めるのはマズイですからね。ボスからも強く言われてるみたいですし……」


 ……ヤクザ?

 恭司きょうじから、そんな話は聞いたことがない。

 それに長く一緒にいたが、裏社会との繋がりを感じることもなかった。


 もしかして路地裏で会ったイケメンは、別人だったのだろうか?


 となると、1つやることが増えてしまう……

 そんなことを考えながら、更なる情報を得るため半グレたちの会話に耳を傾ける。


「そういや、お前……ボスと会ったことあんのか?」

「まだないですね。俺も組織に入って結構経ったと思うんですけど、指示は全部チャットで送られてくるんで……」

「やっぱりか……ボスは秘密主義らしいからな。全然表に顔ださねえんだよ」


 顔を出さないボス。

 それでも部下を統率出来ているということは、かなり優秀な人物なのだろう。


「どんな人なんですかね?」

「すげー頭がキレるって話だ。アレの密輸ルートもボスが1人で作ったらしい」


 慎重な性格に、高い能力。

 今後の計画を進める上で、注意すべき相手かもしれない。

 半グレのボスを、要注意人物のリストへと追加する。


「ま、んなことより、さっさと例のブツを回収するぞ」

「でも命令とはいえ、本当に銃の方は回収しなくていいんですかね?」

「勿体ねぇよな……ま、全部運び出すには時間もかかる。そうボスが判断したんだろ?」


 狙いは銃ではない?

 想定外の言葉に驚きを覚える。

 じゃあ一体何を回収しようとしているんだ?


 隠し部屋の中を思い出しながら、銃以外に何があったのかを考える。

 オレが見つけられていないだけで、重要な物でもあったのだろうか?


 いや銃よりマズい物などそうそうないだろう。

 となると――


 オレは左手に握られた物へと視線を向ける。

 そこには装飾の施された小箱。

 隠し部屋から持ち出した魔結晶があった。


 あの隠し部屋の中で、最も価値があるのはこの魔結晶だ。

 もちろんこの鉱石の価値を知っていれば、ということが前提になるが。


 存在するはずのないダンジョン産の魔結晶。

 それを回収しようとしているかもしれない半グレたち。


 ヤツらの所属する組織が、何か情報を握っているのでは?

 そう思ってしまうのも、けして考えすぎとは言えないだろう。


「もっと人が使えれば、銃だって運び出せたのに……」

「このことを知ってるのは、幹部を除けば俺らくらいだ。他に使えるヤツもいねぇんだ仕方ねぇだろ」


 徐々に隠し部屋のある場所へと近づいてくる半グレたち。


 他に仲間はいないようだし……情報を得るために捕まえるか?

 いや……慎重で頭のキレる人間が、ただの下っ端に詳しい情報を与えるはずもない。

 情報を得るなら、もっと上の人間に接触する必要があるだろう。


 少し手を考える必要がありそうだ。


 目的を達成するため、どう対応するのが正解なのか?

 オレは判断を下すと、即座に互いの戦力を分析する。


 今のオレは肉体的には一般人、いや過酷な労働で平均以下の状態。

 だが10年間の記憶というアドバンテージがある。


 動きを見る限り、半グレたちに格闘技経験はなさそうだ。

 ダンジョンでは、モンスターだけでなく対人戦闘の機会も少なくなかった。

 仮に今の身体能力でも、戦闘経験の差で問題なく対応できるだろう。


 ただ手加減できるほどの余裕はない。


 半グレなど所詮は社会のゴミ。

 生かしておいても百害あって一利なし。


 とはいえ、まだこの世界では法が機能している。

 つまり相手や理由に関わらず、暴力という行為は罪に問われてしまう。


 オレにはそんな無駄なことに割く時間などない。

 最悪の場合でも言い逃れのできる状況を作る必要がある。


 周囲を確認し、絶交のポジションを探る。


 気付かれないよう忍び足で移動する。

 目標は、目星を付けたすぐ近くの棚の裏側。

 オレは身をひそめながら、半グレたちを待ち構える。



 ――――――

  あとがき

 ――――――


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