第10話

「とりあえず開けてみるか」


 中身を確認するため、上蓋を外そうと力を込めるがピクリとも動かない。

 どうやら釘でがっちりと固定されているようだ。


「……チッ」


 素手ではどうにもならない。

 何か使える物がないか周囲に視線を向ける。


 とりあえず、分かりやすいところから調べてみるか。

 そう考え、正面の工具棚を物色してみることにした。


「使える、か?」


 真っ先に手を付けた金属製の工具箱の中には、小さなゴム製のハンマーやペンチ。

 それらを一度手に取り、コンテナへと視線を向ける。


 ペンチは挟むもの、開けるという動作には不向きだ。

 ならばハンマーならどうだろう?

 全力で振り下ろせばコンテナを壊せるだろうか。


「いや……ダメだな」


 金属製のものなら壊すという選択肢もあったかもしれない。

 だが今、手元にあるのはゴム製のハンマー。


 何度も繰り返せば壊せるのかもしれないが……

 仮に壊せたとしてもコンテナは一つではない。


 ハズレを引いてしまった場合、別のコンテナも確認する必要がある。

 かかる時間が想定できない以上、現実的ではないだろう。


「他に何か……」


 工具棚を中心に使えそうな物を探していると、とあるモノが視界に入った。

 それは細長い、金属でできた有名な工具。


 オレも使ったことがある。

 手になじむ武器として、複数のゴブリンの頭を吹っ飛ばしたモノだ。


 ――これならいける!


 沸き上がる確信。

 オレはコンテナの前へと移動する。

 そして先ほど発見した、バールのようなモノを上蓋へとあてがった。


「……フン! ッ……ヌゥウウ!!」


 力を入れ上蓋とコンテナの間に先端をねじ込む。

 そうすることで、テコの原理でコンテナの上蓋に隙間ができる。

 はずなのだが……


 かなり厳重に釘が打ち込まれているようだ。

 ねじ込むべき隙間はなく、バールのようなモノが全く刺さらない。


 こんなことさえマトモにできないとは……

 全く身体を鍛えていないにしても酷すぎる。


 失われてしまった鍛え上げた肉体。

 現在とのあまりの落差にイライラがつのる。


 今は無人の倉庫。

 だが無駄に時間を掛ければ、誰かがやってくる可能性もある。

 さっさと中身を確認してこの場を立ち去るべきだ。


 ならば多少のリスクがあっても、確認を優先した方がよいのではないか?

 そんな考えがオレの中に浮かんでくる。


 自分の行動に問題があることは百も承知だ。

 しかし手段を選んでいる時間などない。


 そう、これは仕方のないこと。

 けして上手くいかないことに対する苛立ちをぶつけるわけではない。


 オレは両足を肩幅に開き、バールのようなモノを両手で握る。

 そして両腕を大きく右肩の方に向かって振りかぶり――フルスイングした。


 ガンッ!


 室内に響く破壊音と共に、原形を失うコンテナ。


「よし!」


 思わずガッツポーズをとった。


 破壊されたコンテナから流れ出る、目の細かい木屑。

 大量のオガ屑に混じって、複数の何かが転がり出てくる。


 それは直径20センチ位の歪な三角形。

 手を伸ばし触れてみると、ベタベタとした不快な感触。

 どうやら油を含んだ紙で包まれているようだ。


 拾い上げてみると想像以上にずっしりとした重量感。

 ベタベタとした感触を不快に思いながら、中身を確認するため開封する。


「アタリ……だな」


 手の中にあるのはオレの探していた物。

 それは映画やドラマ、エンタメの世界で活躍する小道具。


 だが現実……特に平和を愛するこの国では、禁忌とされる存在。

 日常では決して見ることのない、危険な異物。


 油紙に包まれていた黒光りする金属製の機器――

 拳銃だった。


「このコンテナの中身は、もしかして全部……」


 ずらりと並んだコンテナ。

 もしオレの想像通りであれば、倉庫内にある拳銃の数は三桁を超える。


 ここまでの数とは思っていなかった。

 想定していたよりも、大きくニュースで騒がれるかもしれない。


 このまま予定通りに進めていいものか……

 考えを巡らせていると、オガ屑の中で何かが光を反射していることに気付いた。


 今は拳銃とこれからのことを考えなければならない。

 そんなことは十分に理解している。


 しかし何故かオレの意識は強く吸い寄せられ……

 まるで呼ばれているかのように、光を反射する何かに向かってしまう。


 それは装飾の施された美しい小箱。

 手に取ってみると、鍵はかかっていないようだ。


 衝動を抑えきれず小箱を開くと、漏れだす深紅の光。


「……なっ!?」


 そこに収められていたのは赤い宝石――

 魔結晶だった。



 ――――――

  あとがき

 ――――――


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