第9話
内部へと静かに滑り込むと、素早く壁際へ身を隠す。
壁面に張り付くようにしながら、周囲を警戒する。
薄暗い倉庫内。
照明は点灯しておらず、光源は高い位置にある窓から差し込む夕日のみ。
オレが移動したことで、舞い上がった埃がキラキラと光を反射する。
壁に背を預けたまま、周囲の音に集中する。
静寂に包まれた倉庫内。
聞こえるのはオレの発する呼吸音だけ。
目の届く範囲に、動くものは存在しない。
周囲に人の気配はなさそうだ。
今オレがいるのは入口のすぐそば。
誰かが潜んでいる可能性を考え、即座に駆け出せるよう準備を整え。
小さく咳払いをする。
しばらく待機してみるが、倉庫内に変化はない。
「……問題なさそうだな」
そう判断し、ゆっくりと壁際から離れる。
我ながら慎重すぎる気もするが、ダンジョン攻略を控えている。
無用なリスクを避けるため、最大限の努力をするのは当然のことだ。
壁際から離れ最初に目に入ったのは、倉庫内に存在している複数の棚。
一定間隔で並べられており、まさに倉庫といった光景。
近くの棚に視線を向けてみると、乱雑に荷物が詰め込まれていることが分かる。
耐荷重を超えているのだろう。
荷物の重量によって、棚板がたわんでいた。
かなり不安定な状態。
下手に触れれば崩れてしまいそうだ。
床には無数の荷物が放置されており、外からの光は徐々に弱くなっている。
日没と共に、視認できる範囲は狭くなっていくだろう。
このまま移動するのは危険だ。
ポケットからスマホを取り出し、ライト機能をオンにする。
本来なら、暗がりで光源となるものを使用するのはよろしくない。
外に光が漏れ、中に誰か人がいると気付かれてしまうからだ。
しかしそれと同時に考えなければいけないこと。
もしも荷物に足を取られ、棚にぶつかってしまえばどうなるのか?
激しい騒音と共に、棚が倒れる様子が容易に想像できた。
光と音。
どちらが目立つのか、考えるまでもないだろう。
スマホのライトで足元を照らしながら、ゆっくりと歩き出す。
「たしかあの時……」
オレが向かっているのは、倉庫の奥まった場所。
探し物はどこにあるのか。
そのヒントはオレの記憶の中にあった。
忘れることのできない、休日返上の倉庫整理が行われた日。
朦朧とする意識の中、オレは確かに見た。
コソコソと倉庫の奥へと向かった上司が、カードキーを使用していた姿を。
木を隠すなら森の中と言う言葉がある。
多くの荷物が存在する倉庫は、その言葉を実現する場所に相応しい。
とはいえ、物が物だ。
目につく場所に放置するとは思えない。
厳重に管理していると考えれば……
あの日の上司の行動をトレースし、辿り着いた先。
そこには棚の影に隠された扉があった。
ノブに手をかけるが、施錠されており開かない。
扉を調べてみるが、鍵穴らしきものは見当たらなかった。
「この辺り……だったよな?」
扉の周囲。壁面を探ってみると、指先に引っかかる感触。
軽くノックしてみると、一部分だけ返ってくる音が違う。
少し力を込めてみると、壁面がスライドし隠されていたパネルが現れた。
タッチ式のカードリーダー。
扉を開くために、専用のカードキーが必要だ。
「…………」
ポケット取り出したカードキーをパネルにかざすと。
カチャ、と小さく響く解錠音。
施錠された倉庫内。
その中に隠されていた、別途カードキーが必要な扉。
怪しい匂いがプンプンと漂ってくる。
オレは期待に胸を膨らませながら、扉を開く。
隠し部屋へ足を踏み入れると、自動で照明が灯る。
もう明かりは必要なくなった。
ライト機能をオフにし携帯を仕舞うと、早速周囲に視線を向ける。
倉庫内と違って綺麗に整頓された室内。
あちら側とは明らかに雰囲気が違う。
何か重要な物が存在している、そんな気配をヒシヒシと感じる。
正面にはスチールラック。
工具棚だろうか? 長方形の金属製ボックスや、金属製のL字定規が置かれている。
続いて左右に視線を向けてみると……
壁伝いに整然と2段に積まれた木製のコンテナが並べられていた。
「多分、コレだな」
1メートル四方ほどのサイズ感で、中々の存在感。
例の物を保管するには十分な大きさだ。
オレはコンテナの上部に手をかける。
――――――
あとがき
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