第5話

「昨日発生した銃撃事件。原因は半グレ同士の抗争ではないかと――」


 事務所を出て街を歩いていると、そんな不穏な話が聞こえてきた。


 街頭のサイネージに視線を向けると、ニュース番組が流れている。

 画面に映し出されているのは、アナウンサーらしき女性とコメンテーターらしき男性。

 2人は昨日この街で発生したらしい、銃撃事件に関して話し合っているようだ。


 一部の例外はあるとはいえ、所持することさえ許されない銃の話題。

 それは強く視聴者の興味を引いだのだろう。周囲にはオレと同じく足を止める人々がチラホラと見えた。


「そう言えば、この時期だったか……」


 10年という月日。

 その全てを記憶しているわけではないが、大きな事件はしっかりと覚えている。


 関係ないと思っていた半グレ同士の抗争。

 それがオレの勤務先を巻き込み、盛大にニュースを騒がせる事件になるとは……

 この時点では誰も予想できなかっただろう。


 しばらくして2人の話がひと段落すると、集まっていた人々が1人また1人と立ち去っていく。

 オレもそろそろ移動するか、そう考えた瞬間サイネージの画面が切り替わる。

 新たに映し出されたのは、昔の少女漫画風な絵柄のポスター。


 先ほどまでの真面目な話との落差。

 どういうことだ? と疑問に思い、立ち去ろうとしていた足を止める。


 ポスターの文字を確認すると、そこには『拳銃110』の文字と電話番号。

 通報し銃器が押収されると、報奨金も支払われるらしい。


 なるほど、そんなものが存在していたのか……

 まだまだ知らないことが多いな、と変に関心してしまった。


 何の役にも立たないかもしれない。

 だが覚えておいて、損になることもないだろう。

 新しく得た情報を記憶しながら、ゆっくりとサイネージの前を離れた。


 ※ ※ ※


 これからどうするのか、今後のことを考えなければならない。

 オレは街を歩きながら、現状の整理を始めることにした。


 まず何をするにしても、先立つものが必要だ。

 第一に考えないといけないのは金銭に関してだろう。


 ブラック企業に、退職金など存在しない。

 失業手当を受給しようにも、自己都合退職では待機期間がある。

 薄給だったので蓄えは殆どない……


 節約しても一ヶ月持つかどうか。

 自由に使える資金がないというのは、今後を考えてもよろしくない状況だ。


 ダンジョンが出現すれば、問題は解決する。

 探索によって手に入る貴金属を売れば何とかなるからだ。


 だがダンジョン探索の準備にはそれなりに金がかかる。

 初期に現れるモンスターなら、素手で戦えないこともないが……

 それは10年後のオレを基準にした場合の話。


 全く鍛えていない身体。

 過酷な労働によって削られた体力。

 現状の身体能力は、成人男性の平均値を下回るだろう。


 そんな状態なのに、素手でモンスターと戦うなど自殺行為。

 携帯可能な最低限の武器、ナイフやなた

 予備も含めて用意するとなると、それなりの金額が必要となるだろう。


 ダンジョンが出現するまで一週間、飲まず食わずと言うわけにもいかない以上。

 何とかして金を用意する必要があった。


「さて、どうしたものか……」


 回帰物の定番だと、宝くじやギャンブルで一攫千金!

 なんて流れが一般的かもしれないが、そんなどうでもいい情報など覚えてない。


 金を得るための心当たりがないわけではないが……

 正直あまり気は進まない。


 オレは一度ジャケットのポケットに手を入れ。


「退職金、って考えれば……」


 目の前に持ってきた手には名刺大のカードが握られている。


 それは上司のデスクから飛んできたカードキー。

 会社が所有する倉庫の鍵だ。


 行動を起こすことで、未来は確実に変化する。

 オレが退職する程度なら、さほど影響もないだろう。


 だが今考えていることを実行に移せば、確実にニュースを騒がせる。

 ダンジョンが出現する前に、そこまで大きな変化を起こしてもよいものか……


 我が身に火の粉が振りかかれば話は別だが。

 何もされていないのに、こちらから仕掛けるのはよくないだろう。


 さて、どうしたものか……

 腕を組みながら考えを巡らせていると。


「……ん?」


 かすかな違和感に気付いた。


 言葉にするならば、不穏な気配。

 誰かに見られているような……そんな感覚を。


 この感覚を言葉で説明するのは難しい。

 なぜならダンジョンに挑む者は、誰でも気配くらい感じ取れからだ。


 できなければ死ぬ。

 ダンジョンとはそういう場所。

 嫌でも身に付く最低限のスキルという奴だ。


 振り返るのは悪手。

 気付いたとバレる可能性がある。


 オレは自然な動作でスマホを取り出す。

 そして慣れた手つきでカメラモードを起動。

 画面をスワイプしインカメラへと切り替えた。


 歩きながらレンズの倍率を調整。

 スマホを操作するような仕草で偽装しながら、気配の発生源を探る。


 視線を感じるのは少し離れた物陰。

 カメラが捉えたその犯人は――ガラの悪そうな二人組の男だった。



 ――――――

  あとがき

 ――――――


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