第4話 その日の夜

 その日、家に戻ると、母親を前に由美は興奮して塾の話をした。

「とにかくさ、男子ばっかなんだよ。後で数えたら、女子は、九人しかいなかったの。もう、びっくりちゃった」

「ふうん。男子の方が多いんだ。それにしても、六番なんて、すごいじゃないの」

 母が、夕食の食器を洗いながら言った。


「いやぁ、本当にびっくりしたよ。自信ないから、掲示板を下から見あげてったから、いつまでたっても自分の名前がみつからなくてあせったよ。あ、ところで、今日はお父さん、何時に帰ってくるの?」

「後一時間くらいしたら、かな」

「模試の結果は自分で話すから、お母さんはしゃべっちゃだめだよ」

「わかった、わかった」


「け、一回良かっただけなのに、浮かれちゃって」

 弟の智輝が憎まれ口をきいた。

「うるさい。お前は黙ってろ」

 由美は、ものすごい顔で弟を睨んでから、母に向き直った。

「でもね、実際、Sクラスって、一回くらいなら、まぐれで上がれることは、結構あるんだって。だけど、常連になるのは、やっぱり選ばれた人なんだって。明美ちゃんが言ってたんだ」

「お姉ちゃんも、一回で落ちたりして」

「うるさい。お前、本当にぶっ飛ばされたいか」

 由美が智輝に飛びかかった。


「わぁ、お姉ちゃんが。お母さん、助けて」

「由美、やめなさい」

 弟を羽交い締めにしている由美に向かって、母が言った。

「智輝も、勝てない喧嘩を売らないの」

「だって、お姉ちゃんが自慢するんだもん」

「自慢じゃないです。事実を言っているだけです。ほれ、助かりたかったら、お姉ちゃんにきちんと謝れ」

 暴れる弟をがっちり締め付けながら、由美は弱気になりそうな自分に活を入れた。私は絶対に一度で落ちたりしない。しないんだから。


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