【11話】眩しさに慣れる
「マロ……メル……」
池に着いて真っ先にマロとメルが寝ていた地面を確認する。
そこにはかすかに足跡があった。
俺が散歩に行った道と同じ方向にあるが、途中で砂がかぶってしまって行く先は分からない。
池から出てすぐは一緒だったってことが確認できただけでも安心した。
生きてはいる。だけど、途中で違う道に行ってしまったと考えるのが妥当だろう。
俺を見失ったのか、好きな方向に行ったのかは聞けないから正解は分からないけど。
ただ、唯一分かるとしたら、
「俺はひとりになった……」
という事実だろう。
元々ひとりになるはずだった。
ひとりで散歩をして、ひとりで壊れる世界を見て、誰にも看取られずに終わりを迎える。
それが俺の最後の人生だ。
なのに俺がひとりになった瞬間にシェリーは空から降ってきた。
ひとりじゃないことが楽しいのだと覚えさせるように、一緒に散歩をしてくれた。
でも結局、俺はひとりになる運命なんだろう。
仲間なんて、この世界にはいない。
「……寂しいな」
会話をしなくていい。
喧嘩をするだけでもいい。
愛し合う素晴らしさを見せつけるだけでもいい。
些細な雑音さえ人生には必要なんだって、どうして今気付かなきゃいけないんだろうか。
雑音すら無い世界は、あまりにも酷い。
「どうやって、ひとりで生きるんだろうな」
世界はあまりにも勝手だ。
シェリーが降って来なければ。ロリ先輩が間に入ってくれなければ。マロとメルに出会わなければ。ひとりで生きる方法が見つけられたのに。
ロリ先輩の説教が懐かしい。
ついさっき叱られたばかりにしては、あまりにも遠くにいってしまった存在たち。
隣にいるのが当たり前に思った瞬間に、俺の隣にはなにも無いのだと告げられた。
「俺はもう、この世界を必要としていない……」
突如、雲の隙間から太陽の光がスポットライトのように伸びてくる。まるで俺の言葉に呼ばれたように。
必要ないなのに、どうして光が俺を照らしているんだろうか。
今更照らさなくていい。眩しさにイライラして光を睨んでやる。
でも光を睨むのは難しかった。
「……しぇ、」
「だめだよ」
スポットライトの中を通るようにして降りて来たシェリーは、俺の頭を包むように抱きしめた。
「レオンにはわたしが必要」
「シェリー……?」
「そうでしょ?」
俺の顔を両手で包んで上に向け、支配するように問いかけたのはシェリー。
どこに行っていたのだろう。
どんなに離れても、シェリーは眩しくて仕方ない。
「そうだな」
でも、その眩しさに恋をしてしまったのは俺だ。
砂糖菓子のような瞳を見ているだけで、こんなにも胸が満たされる。
「まぶしくて、ごめんね」
「いや、俺の目が悪かっただけだ。謝られると困ってしまうな」
「じゃあ、まぶしくしていてもいいの?」
「いいんじゃないか? 俺は勝手に慣れるようにするから平気だ」
俺の返事を聞いて、シェリーはもう一度俺の頭を抱きしめた。
目の前に当たる柔らかい感触を意識しないのは難しい。
「シェリー、俺は子供じゃない」
「そうだね」
俺から離れたシェリーは少し寂しそうだ。
地面に足を降ろして、俺を見上げる。
直視したらもっと意識してしまいそうだから、遠くにあるはずの街を見つめる。
あとでさっきの廃墟をシェリーを案内してやりたいな。
「オマエの目は節穴ですか!!」
「どわぶぅ!?」
飛んできたボールの勢いが強すぎて、俺は池の近くまで飛ばされた。
まったく、次元が違う奴はどうしてこうも突然なのか、と頭を擦りながら顔を上げる。あれ、たんこぶ出来たかも。
「主様を認めたのなら、主様を見るべきでしょう?? どこを見ているんですか?? そして主様とボクを不安にさせたことを謝りなさい!!」
「え、泣いたの?」
「泣いてませんよ!? 変な誤解はしないでもらえますか!?」
「ああそう、このふさふさなのに痛い感覚がいい……」
「気持ち悪いですよ!?」
ロリ先輩が俺を尻尾で殴りまくってたからいけないんだ。
これこそロリ先輩だと実感できる。
ってか不安ってなんでだ?
「ワウ!」
「ワゥン」
「マロ……! メル……!」
ロリ先輩に尻尾で殴られている俺を遊んでいると思ったのか、マロとメルがロリ先輩の真似をしだす。
マロとメルの尻尾はフサフサで気持ちが良いな。
「ってかシェリーのところへ行ってたのか?」
「ワウワウ!」
「気付かなくてすまん。でも無事でよかった」
「ワゥン?」
マロとメルはどうして俺が不安そうにしているのか分かっていない素振りで俺のそばに座った。
俺がもっと気にしてマロとメルを見ていればこんなに不安にはならなかっただろうな。
久しぶり……といっても半日ぶりなんだが、やっぱりこの1人と3匹で一緒にいる方が安心する。
「もう少ししたら日が暮れるから、今日はここで野営するか。丁度池もあるし……釣りでもするか?」
「釣り?」
「池にまだ魚がいるだろうから、魚を魔法か道具をつかって捕まえる、そしてそれを調理して食べる」
「魚を釣る……」
「まあやってみればいいか。俺は食事したいしな」
俺は起き上がって池から少し離れた場所に荷物を置く。
魔法で薪を集めて焚火を灯してから池の前に立った。
「ロリ先輩はテント係な」
「仕方ないですね! 釣りには興味がないのでやっておいてあげますよ!」
「先輩は頼りになるな」
「当たり前のことを言わないでください!」
どこか嬉しそうにしながらロリ先輩は俺のバッグからテントを取り出して設置しだした。
シェリーは俺の隣で不思議そうに俺を見ている。
「俺の場合は風魔法を使う」
数時間前にやったように、風魔法で渦を作り、魚を巻き上げて地面に落とした。
今回は1匹だけしか釣れなかったな。
シェリーはピチピチと跳ねる魚を真顔で見ている。
マロとメルはロリ先輩が設置し終えたテントに入って行った。自由な奴らだな。
ロリ先輩は俺とシェリーの間に飛んできて、様子を伺っている。見学をしたいのだろうか。
「たった1匹ですか? ざぁこざぁこ!!」
「釣りってのはそういうもんだっての。ロリ先輩は釣れないのが怖いんだろ?」
「人聞きの悪いことを言わないでもらえますか!? 専門外のことに興味がないだけです!」
「はいはい」
そんな俺たちのコントを聞いていないシェリーは池を見つめてなにかを考えている。
釣りの仕方を考えているんだろうか。それにしては真剣だ。
いや、シェリーにとっては真剣になることなのだろう。
「シェリー? なにして……」
シェリーは地面を軽く蹴った。
それはシェリーが宙に浮かぶ時の合図。
そのまま池の上に飛んで行って、池の上でうつ伏せに寝るような格好で、池の中にいる魚を見つめている。
動かなくなったシェリーを俺は不安になりながらも見守る。
このあとなにをするつもりなのだろうか。
少しでも突風が吹いたら水滴が服に掛かりそうな距離で魚を見続けるシェリー。
「あ、主様……」
ロリ先輩の震える声が聞こえて、視線をロリ先輩に向ける。
シェリーを見守っていたロリ先輩が震え出していた。
俺は唾をのみ込んで、緊張しながらシェリーに視線を向け直す。
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