ありさちゃんのいもうと
佐楽
ありさちゃんのいもうと
「私、実は双子なの」
私の小学校のお友達の
私は有沙ちゃんとよく遊んだり、お互いの家でお泊まり会をしている。
今日は有沙ちゃんの家でお泊まり会だ。
枕を並べて同じベッドに潜りながらいろんなことをお喋りする。
好きな男の子のことや、嫌いなクラスメイトの話みたいなちょっと秘密の話なんかをしていると、有沙ちゃんはちょっともじもじしながら私に自分の一番の秘密を打ち明けてくれた。
「ママやパパに言っても信じてくれないんだけど、実は私双子なの」
私ははてなマークが頭の上に浮かんでいるのを感じながら有沙ちゃんに聞き返した。
「なんで双子なのにママもパパも知らないの?」
すると有沙ちゃんはくすくすと笑いながら言った。
「ママやパパには見えないの」
有沙ちゃんはそういってもう一人の家族のことを話し出した。
有沙ちゃんの双子の妹は
すごく恥ずかしがり屋で有沙ちゃんの前にしか姿を現さないんだって。
でもすごく優しくてどんな話でも聞いてくれるし、有沙ちゃんが寂しいときは必ずそばにいてくれるらしい。
ぽわんと夢を見るような眼差しで、だけど真剣に話す有沙ちゃんの話を私は反論することもなく聞いていた。
話し終えた有沙ちゃんは、内緒だよ誰にも話しちゃダメだからねと念を押してきた。
そして私の手をぎゅ、と握りしめた。
「
だけれど私はあんまりにもおかしいから帰ってきてからついついママに話してしまった。
するとママはなんてことはないふうに言った。
「きっと有沙ちゃんはきょうだいが欲しいのね。だから自分で作り出しちゃったんだわ」
「じゃあ本当にいるの?」
ママはにこりと笑った。
「いると思えばいるんじゃないかな?」
そうは言われたが私はずっと半信半疑のままだった。
そんなある日、有沙ちゃんが無沙ちゃんと会わせてくれることになった。
「さぁ、無沙ちゃんご挨拶して」
私はびっくりした。
有沙ちゃんは何もない場所に向かって話している。
どうしたらいいかわからない私だったがあんまり強くいないじゃないなんて言ったら有沙ちゃんを悲しませてしまうかもしれないと思い、見えるふりをした。
「はじめまして無沙ちゃん、私は
そしてふしぎな、おかしな時間が始まった。
おえかきしたり、お菓子を食べたり、いろんな遊びをしたけれどあたりまえに色鉛筆が動くことも、お菓子が二人ぶん以上に減ることもなかった。
私の視線に気づいたのか、有沙ちゃんは
「無沙ちゃんは恥ずかしがり屋さんだからね。初めての人がいると緊張しちゃうみたいなの」
といって頭を撫でるような素振りを見せた。
私にはそれがただただ奇妙なものに見えていた。
帰り際、有沙ちゃんは私に無沙ちゃんが握手をしたがっていると言ってきた。
私はそっと、手を握る仕草をしてみせた。
有沙ちゃんはそれをじっ、と眺めていた。
それから有沙ちゃんは無沙ちゃんの話をしなくなった。
私も無沙ちゃんのことは正直どう扱ってよいものかわからなかったので自分から無沙ちゃんの話をふることもなかった。
それから時は流れ、卒業のときを迎えた。
残念なことに有沙ちゃんとは離ればなれになってしまうことになり、式を終えたあと私たちはわんわん泣きながら連絡は取り合おうね、ずっと友だちでいようねと抱き合った。
しかしいざ離れてしまうとそれぞれ違う環境に馴染み始め、最初のころは頻繁にとりあっていた連絡も途絶えてしまっていた。
十数年後、私は有沙ちゃんとまた会う機会ができた。
待ち合わせのカフェにやってきた有沙ちゃんはすらりと綺麗で落ち着いた女性に成長しており、今は教師を目指しているのだという。
私たちは長年のブランクを埋めるように色々な話をし、いつしか離ればなれになっていたのが嘘のように打ち解けていた。
そこで私はふと、無沙ちゃんのことを思い出した。
「そういえば、無沙ちゃんどうしてる?」
すると有沙ちゃんがカフェオレを飲み込む音がはっきりするくらい大きな音をたてた。
そしてカップをおくと、目を伏せて
「あれね、実は嘘なの」
「嘘」
スティックシュガーの袋をくしゃりとさせて有沙ちゃんは言った。
「うん、奏ちゃんもわかってて付き合ってくれたんでしょ?ごめんね」
袋をくしゃくしゃと揉みちぎる指先を眺めながら私は何も言えなかった。
無沙ちゃんが握手を求めてると言われて伸ばした手を私は握る、ふりをした。
つもりだった。
感触が確かにあったのだ。
握り返してくる確かな暖かみが。
有沙ちゃんがちぎったスティックシュガーの袋の残骸を眺めながら私は答えた。
「からかいたくなっただけでしょ?子供のうちならあるある」
私は震える指先を有沙ちゃんに見つからぬよう、自分のカップをきゅっと両手で包み込んだ。
ありさちゃんのいもうと 佐楽 @sarasara554
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