四十八話 学院地下ダンジョン攻略(4)

 

 地下ダンジョンには、ゴーレムだけでなく罠も設置されている。

 俺の記憶だとそんなに多くはなかったはずなのだが、今回に限っては嫌がらせとしか思えないほどの多種多様な罠が至る所に置かれていた。


 脳裏で高笑いする生徒会長が過り、難易度C+とはこういうことかと納得した。


「そこ、罠ですよ?」


 足下の影からにゅっと顔を出すのはルル。

 寸前でぴたりと足を止めた俺は、右足を後ろへ下げた。


 危うくスイッチだろう床を踏むところだった。

 試しに聖剣を抜いてその切っ先で床を叩いてみる。


 ばっかーん!


 勢いよく床に穴が開いた。


 穴の深さは一メートルってところで落とし穴にしてはずいぶんと浅い。ようするにこれは『本来なら死んでたぞ』ってことだろうか。実際穴の底には生徒会長が書いたであろう文字があった。


『こんな罠も見抜けないのか。馬鹿め』


 一言余計だっての。


 しかし、実際のダンジョンでは侵入者対策として凶悪な罠が無数に設置されている。特に古代遺跡のような場所は。それに罠はダンジョンに限ったものではない。例えば魔法使い同士が戦う戦場。魔法による罠も珍しくはない。

 魔法使いは魔法使いであるが故に、求められる要素が多岐に亘るのである。


 ちなみにルルが影に沈んでいるのは彼の闇魔法の効果だ。

 直接的な戦闘は好きじゃないそうなので、こうして罠を警戒する役目を引き受けて貰っている。


「リタイヤしろって命令されてただろ。俺なんかに付いてきて良かったのか?」

「良くはないでしょうが、このまま逃げてもクリス様はきっと認めてくださらない。カトマンズ派にいるにはボクだけで最下層までいかないと」

「だったら影から出て一人で進むべきなのでは?」

「ウィル様の影に潜めるのも立派なボクの力だと思いませんか」

「・・・・・・見方によってはそうなるな」


 正直ルルが苦手だ。

 不憫な子犬オーラがにじみ出てて父性が刺激されるのだ。

 なにより可愛いしな。だがしかし、こいつは男だ。


 それはそうとさすがルヴェイズ家の次男。

 戦闘面はともかく身のこなし、隠密性、索敵、罠はお手の物だ。

 クリスは彼の価値を知っておきながらその使い方を理解できなかったようだ。ましてや捨てるなど俺がヤツなら絶対にしない。


「敵一体、前方から来ます」


 アイアンゴーレムが向かってきていた。

 ルルがいるので輝石は使えない。使用可能なのは土魔法と聖剣くらいか。


 影から飛び出したルルが右手に魔力を集中させる。


「ボクだって! ディフェンスダウン」


 防御力低下のデバフを敵へ付与する。

 が、前に出すぎたためにゴーレムはルルめがけて攻撃を仕掛けた。


「ぴゃああああああっ!?」

「ルル!?」


 間一髪、間に入り剣で拳を受け止めることができた。

 よほど怖かったのかルルは涙目で俺の背後に隠れてしまう。


「デバフをかけてくれるのは嬉しいが、あまり前に出すぎるな」

「しゅびばじぇん!」

「まぁ、その、おかげで倒しやすくなった」

「ウィルしゃま!」


 モブと認知されている俺がアイアンゴーレムを一撃で倒すのはやはりよろしくないだろう。

 彼のデバフは言った通りありがたかった。


「下がれ」

「は、はぃ」


 ルルを下がらせつつゴーレムの拳を押し返す。

 敵が体勢を崩した瞬間を狙い、一気に斬り込んで胴を横薙ぎに両断した。


「すごい」

「魔力量が少ない分、剣に関しては人一倍鍛えているからな」

「あ、ごめんなさい」

「気にしてない。怪我はないか」

「え?」

「怪我はないかと訊いている」

「あ、はい! ありません! この通りピンピンしています!」


 当たり前のことを質問しただけなのに、ルルは子犬のように見えない尻尾を振っていた。

 心なしか俺を見つめる目もキラキラ輝いているように感じた。



 ◇



「この辺りだったな」

「?」


 三階層の中盤。

 位置的には階層エリアの端の方だ。


 入り組んだ通路を進み、行き着いた場所は行き止まりであった。


 サルマンの地下ダンジョンには隠し部屋や隠し通路がごまんとある。

 その中で未だに発見されていない場所が存在し、サルマンの遺産と呼ばれる貴重な品が今も手つかずで眠っているのだ。


 ちなみにサルマンは『隠した貴重な品は発見者に与える』と遺言を残している。

 生前、冒険を何よりも好んだ彼が学生に残した最後の謎でありロマン。


 俺は目の前の本棚をよじ登り、一番上の棚にある一冊の本を半分ほど引き抜き一気に押し込む。ジャンプをして下に降りると、下から三番目の棚の本の背表紙を視認する。


 これとこれとこれ。


 色の違う六冊の本をそれぞれ奥に押し込む。

 タイトルも内容も実は全く関係ない。ここで見るべきは本の色。一応ダンジョン内でヒントは出るけど俺の頭の中には攻略方法が入っているのでノーヒントで問題ない。


 ごごご。本棚が扉のように開き奥にさらなる空間があった。

 空間の中央には、縦長のロッカーのような物が置かれていた。


「ロッカー? どうしてこんな場所に?」

「これは非常に便利な魔道具なんだ」

「へー」


 その名も『早着替えロッカー』である。


 内部のストレージに衣類や武具を入れいくつかのセットを作る。

 あとは任意の操作で一瞬で頭から足までセットに交換できるようになる優れものだ。

 一応、魔法袋マジックストレージとして活用もできるが、すでに所有している俺にはそっちで使用する予定はない。


 こいつは必須と評価されていたほどのレアアイテムだ。

 あり得ないほど強度があって壁としても使える、ちょっと頭のおかしい道具でもある。


 ロッカーを魔法袋マジックストレージに収納し、隠し部屋を出る。


「開始からちょうど三時間ってところか。そろそろ最下層に到達したものが現れる頃じゃないか」

「一位はどこでしょうかね」

「順当に考えるならA組だろうな。恐らくテオのパーティーにはガウェイン殿下とセルシアがいる。この三人が協力しているなら一位は堅い」

「クリス様のパーティーが一位です! A組なんかに負けません!」

「まだ庇うつもりか。健気だな」


 クリスはともかくC組の動向は気になるところだ。

 グリーンピース家のベックはスターブレイブファンタジーではかなりぶっ飛んだ男だったからな。こちらでも同じ手段で突き進んでいる可能性がある。


「これから俺は最短で最下層に向かうけど、君はどうするつもりだ」

「も、もちろん同行します。い、いえ、ボクが最下層に行くために利用させて貰います」

「利用?」

「ぴゃ!? ごめんなさいごめんなさい! ちょっと格好良く言いたかっただけなんです!」


 怯えた彼は影の中へ身を隠す。

 かと思えば恐る恐る顔を出して様子を窺っていた。


「使えるものは何でも使う。いいじゃないか。貴族ならそのくらいの心持ちはあってしかるべきじゃないか。第一俺も君を利用している。お互い様だな」

「役に立っている・・・・・・ボクが?」

「どんな力も使い方次第だ。クリスは戦闘能力を期待していたみたいだが、能力は一面だけで語るものじゃない。もう少し自信を持ってもいいんじゃないか。ルル・ルヴェイズ」


 きまった。

 俺だってたまにはいいことを言うのだ。


 彼はいずれテオの仲間になる人材。

 迫る敵との戦いに備えて一刻も早く自信を身につけて貰わないと。


「ウィル様が主だったらよかったのに・・・・・・」


 背を向けたところでルルがぽつりと何か言った気がした。



 ◇



 順調に進み三階層終盤にさしかかる。

 この先にあるエリアを抜ければ四階層に行く階段だ。


 テオ達が先行しているはずなので問題ないとは思うが。


「ウィル様、実は黙っていたことがあるんです」

「B組の妨害工作の件か?」

「な、なぜそれを!?」

「君にあんな命令をするくらいだ。クラスメイトにも似たような指示を出していると考えるのはごく自然じゃないか」

「なるほど!」


 いやまぁ最初から知ってたんだけどな。

 B組の奴らが階層ごとにA組とC組の妨害工作を行っているのは。


 ただ、ゲーム通り上手くいっているのかは怪しいところだ。

 なんせ罠の数がな。妨害しようとして逆に行動不能になっている可能性もある。ここに来るまでにB組とC組の2パーティーが粘着床に捕まって動けなくなっているのを目撃している。もちろん嫌がらせで木の枝でツンツンしておいた。


「あれは、クリス様?」

「げ」


 広いエリアへと出ると見覚えのある顔が待っていた。

 そう、クリス・カトマンズである。


 予想に裏切られ思わず声が出てしまった。


「なぜこんな場所に貴様がいる。スターフィールド」


 クリス・カトマンズとそのお仲間は、奥にある階段も降りず誰かを待つように道を塞いでいた。


 こっちの台詞だ。

 どうしてピンピンしている。


 お前達は


 あれ、もしかしてまだ来てないのか??

 てっきりもうクリスとの戦闘イベは終わっているものと。


 今回のダンジョン攻略イベでは二人のボスと戦うことになっている。

 一人は三階層で待ち構えるクリス・カトマンズ。もう一人は五階層で追いかけてくるベック・グリーンピースである。


 戦うのが嫌だからわざわざ時間をかけてやってきたのに、まさかテオよりも早く到着してしまうなんて。想定外だ。


 引き返すか?

 テオにとっては大事なイベントだし俺が出しゃばる必要は――。


「まぁいい。貴様も気に入らないと思っていたのだ。ここで力の差をはっきりさせ二度と生意気な口をきけないようにしてやる」

「クリス様おやめください」


 俺を庇うようにルルが影から飛び出した。


「ウィル様は名家のご子息にふさわしい素晴らしい御方です。どうかこのような無益な争いはおやめください。お願いします」

「もう鞍替えしたのか。ずいぶんと安い忠誠心だな。このコウモリめ」

「ち、ちがいます。ボクはクリス様の身を案じて――」

しかできぬ名だけの貴族が。やはり所詮はの子孫か」


 俺の脳裏に必死で頭を下げるルルの両親の姿が過った。

 直接目にしたルルがその場面を思い出さないはずがない。


「ボクは・・・・・・ボクは・・・・・・!」


 拳を握りしめるルル。

 彼の肩は僅かに震えていた。


 ここで逆らえばカトマンズ派から追放されるどころか徹底的に潰される。

 そうなれば確実に彼の家族は路頭に迷うだろう。学院にだっていられなくなる。プライドか明日の生活か、拳を振り上げるか彼は迷っているようであった。


 俺はルルの肩にそっと手を乗せた。


「ウィル様?」

「手合わせがお望みなら受けてやるさ。後悔するなよ?」

「叩き伏せてやる。スターフィールド」


 クリスと言葉を交わした後、ルルに「退いていろ」と下がらせる。


 噛ませのくせに喋りすぎだ。

 おかげで気が変わってしまった。


 生意気なガキにはお仕置きが必要だな。


「!???」


 寒気を感じたようにルルがぶるっと身体を震わせた。


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