四十六話 学院地下ダンジョン攻略(2)

  

 階段を下りた先には巨大な縦に延びる円柱状の空間があった。

 俺達が足を踏み入れたのは、円柱状の中程にある浮かぶように一本の通路にのみ支えられた円形のエリア。印象としてはダンジョン手前にあるホールといったところか。ホールには中心を囲むように十二枚の扉が浮いていて、中央には監察役である教師のハチミーが立っている。


「ようこそ。皆様にはこれから学院が誇る地下ダンジョンに挑戦していただきます。難易度Cとはいえ学生である貴方がたにはまだまだ難しいレベルでしょう。ですが気負わず無理だと感じたらすぐにこちらへ戻ってきてください」


 ハチミーは話を続ける。


「ここにある扉は全て一階層のどこかに繋がっています。出現する魔物は全てこちらでコントロールするゴーレムとなり、戦闘不能と判断された場合は即時攻撃停止、リタイヤとなります。皆さんには二十四時間以内にゴーレムを破壊するか上手く躱しながら最下層を目指していただきます」

「一ついいか」

「はい。どうぞガウェイン殿下」

「聖剣の持ち込みを許可したということは、刀剣奥義ブレイクアーツの使用も認められると考えて良いのか?」

「ダンジョンの強度を心配なさっているのでしょうか。ここは異空間に創られた特殊な場です。どれほどの破壊力があろうと上にある学院に一切の影響はありません」

「そういうことか。先ほどくぐった扉は魔道具、と」


 納得したのかガウェインは沈黙する。

 次の手を上げたのはテオだ。


「僕らはチームで動くのですか。それとも個人?」

「どちらでもかまいませんよ。ただし、一つの扉につき最大五人しか通り抜けることができません」

「じゃあ二十五名の僕らは五グループで動くべきかな」


 A組の人数は二十五人。安全かつ効率よくクリアを目指すなら五人五グループに編成するのが無難だろう。しかし、それはあくまで理想である。このクラスには俺のように周囲に合わせるのを苦手とするものもいれば、集団ではなく個人プレーを得意とする者も存在する。それこそガウェイン自体に興味がなく勝負の行方に端から関心を持っていないヤツだっている。


「俺は誰かと組むつもりはねぇ」


 最初にソロ宣言をしたのはアーシュ・ダリスであった。


「危険だアーシュ。ゴーレムでも大けがをする可能性だって――」

「俺はこのダンジョンに本気で挑むつもりだ。レオンとやり合ってはっきり分かった。名家の座を取り戻すにはこれまでのやり方じゃダメだ。これまでのような生ぬるいやりかたじゃ百年経ってもあいつらには届かねぇって気がついちまったんだよ」


 彼はたった一人でドアをくぐって行く。

 それに続いてソロを希望する者達が扉の向こう側へと出発した。


「他にソロで挑戦する人は?」

「俺も」


 どこかのグループにねじ込まれる前に俺も挙手する。

 意外だったのかテオを始めとする比較的仲の良い連中が驚いていた。


「本気なのかい。僕らと一緒に行動すれば少なくともリタイヤせずにすむ」

「俺の魔力量は知っているだろう? アーシュじゃないけど俺もここらで頑張っておかないといずれ授業にすらついて行けなくなる。助けてもらってばかりじゃ成長もできないしな」

「・・・・・・それもそうだね。だけど気をつけて」

「二十四時間後に会おう」


 適当にでまかせを吐いて一人でドアを開く。

 今のテオの力なら問題なく最下層までたどり着けるだろう。だったら俺は保険として別行動を取った方がいい。決してハブられる前に一人になったのではない。




 ――後ろでドアが閉まる。


 ゲーム画面とは違ったリアルな光景はしばし足を止めさせた。


 両側に壁のようにあるのはみっちりと本で埋められた本棚である。

 背の高い本棚が迷路のように複雑に並び、天井からはダウンライトのように光が降り注いでいた。まるで巨大な図書館。


 興味本位で棚にある本を一冊抜き取る。

 ぱらりとめくってみるが案の定全てのページは白紙であった。


「ダンジョンを構成するオブジェクトにわざわざ本物を使う必要はないか。どんな本が並んでいるのか楽しみにしてたんだけどな。残念だ」


 学院の地下ダンジョンは周回プレイで何度も通った場所だ。

 ここへ来る度に本物か偽物か疑問を抱いていたわけだが、幸か不幸かこうして確かめる機会が与えられた。


 本を棚へ戻しポケットへ手を入れる。

 取り出すのは六つの輝石だ。


 ずん。ずん。ずん。重く響く足音。


 通路の先からやってくるのは身の丈五メートルにもなる石でできた人形であった。無骨な見た目通り動きは遅く真っ直ぐにこちらへと向かってくる。人工的に生み出された魔物ロックゴーレムである。


「どちらの硬度が上か勝負しようじゃないか。舞い踊れ我が輝石」


 手の中にあった輝石が宙に浮く。

 六つの星は三三に別れ攻撃と防御の配置についた。


「穿て、シューティングスター」


 輝石の一つが静から動へ移行する。停止からほんの一瞬、音速にも届く超加速へと至る。星はロックゴーレムの胴体をたやすく貫き、遅れて衝撃波と轟音が響いた。


「ゴゴゴ!」

「あれ、停止しないな」


 だがゴーレムは穴を開けたまま歩みを再開する。

 どうやら貫通力が高すぎて逆にダメージが抑えられてしまったようだ。


 至近距離で振り下ろされる岩の拳。

 俺に当たる前に三つの輝石によって張られた簡易障壁がたやすく防いだ。


 貫通力が高すぎるのなら今度は弱めてみるかな。


 戻ってきた輝石がゴーレムの右肩へ直撃する。

 速度は破壊できるギリギリまで落とし貫通しないよう調整している。

 

 ぴし、ずがぁああ。ばらばらっ。


 破砕音と共に半ばから砕けた右腕が床に落ちる。


 威力としてはこのくらいがよさそうだ。

 腰にある聖剣『砂塵剣』を抜き放ち一息で十字に斬る。


 ロックゴーレムは四つの塊となって床に転がった。


「良いなぁこの感じ。手を抜かなくて良い開放感」


 砂塵剣を手元でくるんと回して鞘へ収める。

 ここしばらく試験に注力してたからストレスが溜まってたんだ。今日くらいは純粋にダンジョンを楽しませて貰おう。


 さ、アイテムアイテム~。このダンジョンにはレアアイテムがあったんだよな。

 あのアイテムをこの手で触れるなんて。ぐへ、ぐへへ、たまんないな。おっと、涎が出てたぜ。ふきふきっと。


 足取り軽く先を進む。



 ◆



「くっ、堅い!」

「いったん下がれ、テオ」


 ガウェインの指示に従いテオドールは後方へと飛び下がる。

 刃を防いだのは正面にいるロックゴーレムであった。


「こっちも来てるぜ! どうするよ!?」

「挟み込まれたみたいだ。セルシア、君の魔法で足止めできないか」

「やってみるわ」


 ガウェインとテオドールの後方では、デンター、マーカス、セルシアの三名が迫り来る四足獣型のゴーレムの群れを目前にしていた。人型のロックゴーレムと比べ強度こそ劣るもののその移動速度は段違いに速い。加えて群れで行動することで人型ゴーレムよりも対応は難しくなっていた。


 セルシアが攻撃魔法を放つ。


「アクアウェイブ」


 大量に生み出された水が一気に群れへと押し寄せる。

 ゴーレム達は水圧によって押し流され通路のはるか先へと姿を消した。


「ほう、その歳で中級魔法を扱えるとはさすがレインズ家の娘といったところか」

「殿下にお褒めいただけるなんて恐縮です」

「昔と変わらぬな。面白みのない返事は相変わらずか。しかし、仲間が頼もしければその分攻略も楽になる。もちろん私とて一方的に背負われるつもりもない」


 セルシアの魔法に感心したガウェインは素直にその腕を褒めていた。

 中級魔法の習得は初級魔法からぐんと上がり、卒業までに習得できる者はおよそ半分と言われている。さらに扱いの難しさと消費魔力量の大きさから入学して日の浅い一年生が撃てるような魔法ではないと認知されていた。

 セルシア・レインズは生まれ持った才能と膨大な魔力量によりその壁を軽々と飛び越えていた。


「来るぞ。デンター、補助魔法を僕たちに」

「あいよ! アタックブースト」


 デンターによるバフがテオドールとガウェインへ付与される。

 物理攻撃力が上昇した二人は、ロックゴーレムの振り下ろした拳を躱し、それぞれが渾身の一撃を入れる。


 連携攻撃 クロスフィニッシュ


 横薙ぎに撃ち込んだガウェインの剣へテオドールがさらに上から撃ち込む。

 その瞬間、威力が爆発的に跳ね上がり、ロックゴーレムの身体を十字に切り裂いた。


「連携攻撃・・・・・・今は二人だったけど、三人ならもっと強い攻撃ができるかもしれない」

「五人ならばより強力に。レオンはこれを教えたかったのかもしれぬな。よし、次はマーカスとやるぞ。次の敵から私に呼吸を合わせろ」


 ガウェインは意気揚々と先を進む。

 慌てたマーカスが彼の背中へ声をかけて引き留める。


「殿下、まだ先も長いですしゆっくりと」

「なにをしている。早く来い。それから私のことはガウェインで良い。いちいちかしこまっていてはリラックスできぬだろう?」

「で、では、ガウェインと」

「それでいい。しかし、ダンジョンとは楽しいな。やはり外は王宮とは違うな」


 五人は三階層のさらに奥へと進む。

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