三十五話 運命の日・死亡イベント(5)
俺の姿を見た者は片っ端から斬り殺す。
「こいつっ、何者――!?」
「速すぎて見えないだと!?」
「強化体をぶつけろ!!」
敵の姿すら視界に収めることができず、黒マントの連中は抜き身の剣を握ったまま視線を彷徨わせる。やはり組織の末端――序盤の敵は弱い。だが、いかんせん数が多い。
今回のイベントは奴らにとって重要度が高い。
王国に潜ませていた大半の戦力をかり出し投入している。奴らの目的は三つ。テオドールやセルシアを初めとする素材の確保。新型の
ゲームではぎりぎり集落を守り切る流れだが、結果的に少なくない犠牲者を生み出してしまう。その中にはウィル・スターフィールドの名も。
恐らく俺は死亡ルートから外れた。チームに入れなかった時点でイベは通常ルートから外れたのだ。
つまり未知のルートに入った可能性がある。それこそが生存ルート。
だが、それだけじゃ足りない。
こいつらがいる限りフラグが立つ可能性は大いにある。
運命力(?)がルート修正をしないとも限らないしな。故に俺はこいつらを完膚なきまでに叩く。この生存ルートを絶対手放さない為に。
「グォオオオオオ!」
「オオオオォォォオオオオオ」
「ア゛ア゛アアアアア!」
腐っても強化体。この速度でも目視できるのか。
なら――!
青いエフェクトが全身を包み砂塵剣から土の魔力がほとばしる。
刀身に微小な砂の渦が発生し、振ると同時に砂は渦を巻きながら大蛇のごとく敵を飲み込んだ。内部では微小の刃が敵を切り刻み極小ダメージを与え続ける。
これこそゲーム中のウィル・スターフィールドが死の間際に放った真の才覚である。
俺が放ったデッドストームは俺が知るものより数倍強化されていた。
極小ダメージのはずが
え・・・・・・強すぎ、というかグロすぎ。
おかしいな。ゲームだと中の上って感じだったんだけど。
魔力と生命力を込めすぎたかな。
「ばかな、我々の強化体が!」
敵が頼りにしていた戦力を失い困惑していた。
ちょうどいい。ここには試せる相手が山ほどいる。
手加減できるまで奥義を撃ちまくるとしよう。
「ぎゃああああああああ!?」
「ひぃいいいいいい!??」
「にげ、あばびぼげぇえええ!???」
デッドストームをしつこいくらい撃つ。
◆
生徒を狩りに送り出した教師達は強襲した謎の敵と戦闘を行っていた。
「フレイムボール! くっ、どれだけいるんだ!」
「ロックプレス、ロックプレス! 何なんですかこの敵!?」
ナダルとハチミーは宿舎の窓から攻撃魔法を撃ち続けていた。
黒いマントの敵は留まることを知らぬように幾人も森から出現する。さらに土魔法で防御壁を形成され大半の攻撃は防がれていた。
「二人とも少し休んで。ここはあたしが」
同じく攻撃魔法を撃つのはシフォンであった。
彼女は光弾で的確に敵を撃つ。
「私は問題ないがハチミー君が限界のようだ」
「魔力が枯渇して、なにこれ、立てないくらいしんどい・・・・・・」
「いいからハチミーは休んでて。ナダル先生、左側をお願い」
「承知した」
炎が岩壁ごと敵を吹き飛ばす。
すかさず聖剣を握った二名が突入した。
「どうしたどうした、抵抗もせず逃げ出すのか! 男らしくもっとあがいて見せろ! これでは手応えがなさ過ぎてフラストレーションが溜まる一方ではないか!」
鬼神のごとく聖剣【紅蓮・焔】を振るうのはアデリーナ・アグニスであった。
一閃するだけで炎と衝撃波が敵を岩壁もろとも吹き飛ばす。
敵の注意が彼女に集中した瞬間を狙い、アルベルトが流れるような動きで敵の間をすり抜けて行く。刃は線となり最小限かつ確実に敵の喉だけを切り裂いていた。足を止めた彼の後ろには死体だけが残る。
「会長、今は生徒の保護が最優先です。熱くなりすぎないようにお願いします」
「この程度で燃えるものか。ナダル先生、帰還した生徒の数は?」
アデリーナは顔を上げ、宿舎の二階へ声をかけた。
「あと四名、戻ってきていない」
ナダルは振り返り廊下を確認する。
そこでは疲労困憊や負傷で動けなくなっている生徒達が座り込んでいた。
エマを始めとしたエルフは光魔法を用いて回復を行う。
シフォンがナダルへ提案をする。
「ここはもう保ちません。集落の方へ避難しましょう」
「しかし、未帰還者が!」
「ナダル先生のお気持ちは重々承知しています。ですが、このままここに残っても全滅するだけです。残酷だとしても我々は選択しなければなりません」
「くっ・・・・・・全員を集落へ避難させる!」
指示を出したナダルは怪我をした男子生徒を背負う。
シフォンもハチミーを背負い、教師と生徒の移動が開始された。
◆
教師と生徒の列は宿舎の裏にある集落へと向かっていた。
行き来にのみ使用される為か、道は整備がされておらずボコボコとしており、地面がむき出しであった。
「もうすぐです! もう少しだけ頑張って!」
「あれね! 皆、集落の扉よ!」
シフォンが指し示した先には堅牢な外壁と門があった。
外壁の上にいた男性エルフがシフォン達を視認し、下の者へ大声で指示を出す。
ごごごご、門が開き始め隙間から生徒達が飛び込むように入って行く。
シフォン、アルベルト、アデリーナはこの間の無防備な状態を守るべく、剣を抜いて周辺を警戒していた。
「ア゛ア゛ア゛アアアアアアアア!!」
どすんどすん、と足音を鳴らし向かってくるのは、一体の
「異形の化け物とは、やはり奴らは父上と兄上が戦っている敵。まさか後輩共を可愛がるつもりで同行したら遭遇するとはな。これもアグニス家の宿命か」
アデリーナは『紅蓮・焔』に魔力と生命力を注ぎ込む。
青いエフェクトが全身からふわりとにじみ出した。
「どりゃああああああああああああっ!!」
真上から落下してきた大きな塊が、
ぶしゅううう、両断された
「なん、だ? あれは!?」
分厚く大きな剣。それを握るのは禍々しいデザインの全身甲冑だ。
身の丈は五メートル近くあり、どことなく鳥を模した外見であった。
鎧が動き出し大剣を肩に担ぐ。
アデリーナは最大の警戒で剣を構えた。
「・・・・・・アデリーナ・アグニスか。お前に用はない」
「なぜ私の名を!?」
甲冑は背を向ける。
「待て! 貴様は、何者だ!」
彼女の問いかけに応え、甲冑は足を止めて僅かに振り返った。
「アニマル騎士団のバード」
「バード・・・・・・敵なのか、味方なのか?」
「それはお前達次第だ」
そう言い残しバードは、見た目からは想像できないほどの高い跳躍力で森の方へと跳んだ。
見送ったアデリーナは「アニマル騎士団、バード」と呟く。
「会長、扉を閉めます。早く中へ」
「いま行く」
マントを翻したアデリーナは集落の中へと入った。
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