三十四話 運命の日・死亡イベント(4)
宿泊学習四日目――早朝。
ここに来て初めて聖剣を帯刀しての集合となった。
周囲には教師だけでなく屈強な男性エルフが顔をそろえ、明らかに昨日までとは空気が違っていた。
いよいよ本番。魔物との戦闘である。
身につけていた重りもすでに外しており初日以来の身軽な状態だ。
朝礼台にナダルが上がる。
「本日から最終日まで君達には魔物狩りを行って貰う。一人につき三種、魔物を仕留めて持って帰ってくるように。サイズはホーンラビット以上とする。ここでの結果は成績に反映される。心して挑むように」
「それでは割り振りを発表します。名前を呼ばれた方は指定された番号札を持つ指導役の方の元へ移動してください」
ハチミーが人名と番号を読み上げる。
チームメンバーは関係性と実力を考慮して決定されている。円滑なコミュニケーションとチームワークを期待してのことだが、一番は一度森に入ると自己紹介などしている暇などないという点だ。
これまで散々三人や四人などと組ませていたのは、教師達が関係性と相性を測っていた為であり、生徒同士においては新しい人間関係の発見と顔合わせを兼ねていた。その結果が今回発表されるチームメンバーに大きく影響しているのだ。
「やった、一緒だよ!」
「頑張ろうね!」
同じチームになれて喜び合う者をちらほらみかける。
そんな光景を横目に俺は『テオとは一緒にしないでテオとは一緒にしないで』と心の中で念じていた。
同じチームになれば確実に死亡ルートに入る。
そうでなければ何のためにこれまでモブ顔でほどほどの距離を保ってきたのか。
チームは三人一組。そこにガイド兼指導役の男性エルフが同行する。
順当に考えればテオのチームには、マーカスとデンターが入るはずだ。もしくはテオとセルシアに他一人の組み合わせ。脱走首謀者であるデンターは現在クラスメイトから嫌われているので高い確率でテオと組まされるはずだ。
ついに運命の瞬間が訪れた。
「テオドール、一番チーム。マーカス、一番チーム。セルシア、一番チーム」
うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!
やっっっった! やったぞ!!
死亡ルート回避、生存ルート確定!!
生きられる! 生きられるんだ!!
「ウィル、三番チーム。デンター、三番チーム。オリビア、三番チーム」
は・・・・・・?
喜びもつかの間、知らされたメンバーに俺は目を点にする。
なぜかデンターが俺のところに。おまけに同じく脱走者で我が儘娘としてクラスメイトから嫌われているオリビアまで一緒だ。
「なんだウィルと一緒か。よろしくな」
「あ、ああ」
馴れ馴れしく肩を組んでくるデンター。
「名家の出来損ないと一緒のチームとだなんて最悪。せいぜい足を引っ張らないで頂戴ね」
「あ、ああ・・・・・・」
ブロンドのミディアムヘアーが特徴的な少女。
水の属性を有するピグザリオ家の令嬢だ。
クラスで見ている限りでは魔法も剣も中の中なので特にこれといって目立つ要素はない。ゲームでもモブなのでほとんどデータがない。強いて言うならセルシアをライバル視しているってところかな。
これはこれで面倒臭そう。
◇
狩りを行うのは『ウジュダの森』と呼ばれる十数キロにまで及ぶ森林域だ。
この森に生息する魔物は王都周辺より一段階強く、あちらでは比較的少ない毒持ちの個体も多く生息している。
特に注意すべきは植物系と昆虫系の魔物だ。
毒だけでなく麻痺や混乱を引き起こす個体がいて油断すればあっさり死ぬ。
もちろんこの数日に行われた座学でその辺りは耳にたこができるほど教えられた。それでも不測の事態は起きるし、全く聞いていなかった奴らもいたりする、そこを補うのが同行する男性エルフってわけだ。
彼だけではない。周囲には複数のエルフが展開しており常に監視を行っている。不測の事態への備えは万全だ。
「ダミーイリュージョン!」
「ギョワワ!?」
デンターの幻影魔法によって人食いフラワーが混乱する。
すかさず刃を走らせ斬り殺した。
「案外チョロいよな魔物ってさ。つーか俺が強すぎるのか」
「ばっかじゃないの。たった一匹を複数ではめただけじゃない。狩りってのはねこうするの。よく見てなさい」
オリビアは水を創り出し周囲の地面に落とす。
なるほど。水魔法の『スイッチスピアー』だな。
「グギャ、グギャギャ!」
茂みから現れたゴブリンは水たまりへ足を踏み入れた。
次の瞬間、水たまりから鋭い棘が突き出しゴブリンを真下から刺し殺した。
スイッチスピアーは自動反応型の罠だ。
攻撃力はそこまで高くないが不意を突くのには最適である。
「ほらね。コツさえ掴めればあんたなんかよりよっぽど上手くできるわ」
「オリビア・ピグザリオ。今の魔法はとても良かった。周囲の環境をよく観察し敵に違和感を抱かせない罠を張ったところは高評価だ」
「ふふん、分かってるじゃない。そこの不細工二人よりよっぽど良いわ」
同行するエルフは仏頂面の男性だ。
白い肌に引き締まった肉体、左手には常に使い込まれた弓を握っていた。
しかし、誰が不細工だ。地味なだけだ。
ちゃんとよく見ろ、デンターはともかく俺は不細工じゃない。
「俺はさっきので三匹目。オリビアも三匹。ウィルもそろそろ狩った方がいいんじゃないのか。そだ、手伝ってやろうか」
「大丈夫だ。もう決めてある」
「決める?」
俺は聖剣を抜いて木の幹に突き立てる。
一見すると何もいないように思えるが・・・・・・。
すぅと、体長一メートル程度のサソリとカメレオンを掛け合わせたような生き物がそこに現れる。魔物のカメレピオンだ。魔力で光の屈折を創りだし周囲の景色に溶け込む割とレアな魔物だ。
「なんだよそれ!?」
「何もないところから魔物が!??」
驚く二人を余所に、さらに俺は太い木の枝を切る。
直後に枝は血しぶきをあげてぼとりと幹から剥がれるように落ちた。
枝に擬態して獲物を狙うウッドスネークだ。
最後に土魔法で石を創り出し、空に向けて放つ。
真っ逆さまに落ちてきたのはレッドハニービーである。
俺くらいの命中精度なら飛んでいる魔物もこの通り。
わざわざ戦わなくとも狩れる魔物は山ほどいる。汗水垂らして森を駆け回る必要はないのだ。
「素晴らしい。よく擬態を見破った。だがしかし、カメレピオンについては座学で教えていなかったはずだ。なぜそこにいると察知できた?」
同行するエルフから疑問が飛んでくる。
当然の疑問だ。彼の言うとおり座学ではこれは出てこなかった。
「以前より魔物の生態には興味があったので。独自に知識を蓄積して対処法を心得ておりました。この答えではご不満でしょうか」
「いいや、ますます感心した。森を知りそこで生きる魔物を知ろうとすることは正しい行いだ。ヒューマンの社会においておくのはもったいない。どうだ、我が娘と婚姻を結ばないか」
「娘さんの年齢は?」
「六歳だ」
「魅力的なお話しですが遠慮させていただきます」
このエルフ頭おかしいのか。
この世界だと十二で婚姻も珍しくはないけど六歳はない。
俺の社会的立場が死ぬ。
ドガァァアアアアン。メギメギメギッ。
突如として遠くにあった木が倒れた。
響く轟音。そして、おぞましい唸り声が森中に響いた。
来たか。
「なに、なんなの!?」
「やべぇ魔物でもいるのか?」
「全員施設へ戻れ!」
呆然とするデンターとオリビアへ男性エルフが指示を出す。
だが、半ばから折れた大木がすでに宙を舞っており、こちらへと飛んできていた。
二人は・・・・・・こちらを見ていないな。
ポケットから輝石を取り出し射出する。
輝石は大木を撃ち抜き粉々に砕いた。
「今のは――!?」
「シフォンの仲間だ。二人を避難させてくれ」
「・・・・・・承知した。ご武運を」
彼は強く頷き二人を連れて行く。
デンターとオリビアは「ウィルは!?」「どうして置いて行くの!?」と騒いでいるようであった。
事前にシフォンはエルフ達にこう伝えていた。
『敵が攻めてくる。だが、強力な仲間がいる』と。
彼らには俺が何者かまでは分からないだろう。
それでいい。明かす必要はない。知る必要もないのだ。
砂塵剣を構える。
ざざっ。ざざっ。ざざっ。
嫌な足音が聞こえた。
その中で一際重い足音がいくつか混じっていた。
茂みから、黒いサークルマントを羽織った何者かが現れる。
フードを深くかぶり顔は確認できない。
がさ、がささ。
次々に同じような者達が現れ茂みから抜け出す。
「オォオオオオオオ?」
奇妙な声を発しながら歩くのは異形の生物、
構成員の数は現時点で百を超えていた。
「なんだ子供か。都合が良いさっそく捕まえるぞ」
「この先にいる奴らはどうする?」
「皆殺しだ。男も女も全て。ペリドット様のご命令だ」
「もったいねぇ。エルフは上玉揃いなのにな」
敵は俺を目の前にしながら暢気に会話をしていた。
まるで自分達が狩る側のように。
ざしゅ。
刹那に駆け抜け俺は一人の首を切り落とした。
「お前らの死亡イベの始まりだ」
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