二十四話 雑魚モブに返り咲く俺
それぞれ好きな席でノートを取るクラスメイト達。
俺は後ろから二列目の席で頬杖を突いてあくびをしていた。
「――君達も知るように属性は六種類存在する。だが、これは我々ヒューマンが定めた大別に過ぎない。かつて遙か南方にはクレアヘルンという大国が存在した。そこでは魅了属性と呼ばれる特異な枠が存在しており、エルフの女性達は、長命種が故に生殖本能が衰えた男性エルフを度々誘惑していたという。いやはやドスケベで興奮し・・・・・・おほん、このように種族や文化によって魔法のあり方も変わると言われている」
口を滑らせた男性教諭へ女子の冷たいまなざしが刺さる。
逆に男子達は妄想がはかどるのか興奮していた。
「ふわぁ」
眠い。ここ数日、リンと一緒にとあるものを作っていて寝不足気味だ。
完成すればもう少し今の生活が楽になると思うのだが、いかんせんリンにとっても初の試みなわけで、あーでもないこーでもないと試行錯誤をしている。
不意に視線を感じる。
「・・・・・・?」
セルシアの方を向くと、かりかりとノートをとっていた。
気のせいみたいだ。
寝不足で神経がおかしくなっているのかも。
「エルフは良いぞ。特にロリエルフなんかはたまらん。しかし、落ち着け。我々は貴族だ。紳士でなくてはいけない。触れず目で愛でるのだ」
「シフォン先生も素晴らしいと思います」
「そうだな。シフォンさんも別の方向で良い。エロさが脊髄にくる」
いつの間にか魔法属性の担当教諭は性癖について熱弁していた。
男子生徒は前のめりで教師の授業(?)を聞き入っていた。
だめかもしんない、この国。
「やあ」
授業が終わり荷物をまとめているとテオが寄ってきた。
背後にはデンターとマーカス、他にもセルシアや数人のクラスメイトがいる。
「これから対人戦について指導をしてくださっている先生のところに行くんだけど、もしよければウィルもどうかな。もちろん用事があるのならまた今度にするけど」
「対人戦の指導・・・・・・」
これはまたとないチャンス。
テオに雑魚モブだと再認識させる絶好の機会だ。
運命なんかに負けない。よぼよぼのじいさんになるまで生きてやる。
俺は笑顔で返事をした。
「君がかまわないのなら行かせて貰うよ」
「じゃあ決まりだね。僕の先生はすごい人なんだ。きっと今日の出会いは君達の成長に繋がると思う」
おおよそ誰か見当は付いてるけどね。
ゲームでもこの辺りで修行パートがあったし。
◇
学院を出た後、軍が管理する訓練場へと訪れる。
建物の裏側へ行くと、整地された運動場のような場所で騎士達が黙々と訓練に励んでいた。
「ぼーっとするな。相手の動きを常に意識しろ」
「申し訳ありません!」
赤毛の男性が若い騎士と木剣で模擬戦闘を行っていた。
彼の鋭く重い一振りは、騎士の手から木剣をたたき落とす。
「自分の負けです。団長直々にご指導してくださったのに。不甲斐ない」
「そう落ち込むな。貴殿は充分強い。私が強すぎるだけだ。よし、そうだ。今日の帰りに一杯おごってやろう。女の落とし方を伝授してやる」
「うぉおおおおお! ありがとうございますっ!」
「はははは、男はそうでなくてはな!」
さっぱりとした赤い短髪。鼻筋の通った男らしい顔立ち。
歳は二十代後半だろうか。中肉中背ながらがっちりと詰まった肉体は一回りも二回りも大きく錯覚させる。そして、肉体からにじみ出る魔力に一切の揺らぎがない。すなわち完璧に魔力をコントロールしている証明。
この男、強い。
「レオンさん。今日は友人を連れてきました」
「いらっしゃい。君達がテオドールのご学友だね。話は彼や妹から聞いているよ」
レオン・アグニスは爽やかな笑顔で全員に挨拶をする。
レティシア王国最強戦力【奉剣十二士】のレオン・アグニスか。
やっぱ外見はゲームと同じなんだな。
奉剣内でも三本の指に入る実力者。未だに成長途中というアグニス家自慢の息子だ。
「すげぇ、あのレオン様と知り合いなのかよ! 平民じゃなかったのかよ!?」
「平民だよ? 父さんとレオンさんが知り合いらしくて、その関係でここしばらくお世話になってて。僕じゃなく父さんがすごいんだ」
「テオドールの父上にはここでは語りきれないほどお世話になった。恩返しというわけではないが、少しでも彼の手助けができればと思ったんだ。もちろん君達もこの国の未来を担う才能豊かな若者達。遠慮せず私を頼ってくれ」
レオンはテオとデンターに語りかけながら、この場にいる全員に気さくに接しようと努めていた。名家の次期当主にふさわしい大きな器の持ち主なのだろう。同行した女子はトゥンクしたのか恍惚とした表情だ。
あれ?
セルシアだけ表情が変わっていない。
あれだけのイケメンオーラを受けて変化なしなんて。
やはりテオ一筋なんだな。さすがメインヒロイン。
「早速だが、君達の実力を知りたい。二人一組のペアに分かれて模擬戦を行って貰う。学院のような魔道具はないので怪我には注意するように」
全員が返事をして持参した木剣を抜く。
さて、俺とペアを組んでくれる相手は・・・・・・。
「良かったら僕と組もう。前々からウィルと模擬戦をしてみたかったんだ」
「あ、うん」
テオに捕まってしまった。
なんて運が悪い。
違う。そうじゃない。これはチャンスだ。
彼に俺の雑魚っぷりを刻みつけ『なんだこいつ弱々じゃないか』と蔑まれる好機。どう負けるか楽しくなってきた。
「まずはテオドールとウィル」
「はい」
「よろしく」
互いに一礼して木剣を構える。
十秒で決着を付けてやる。
負けるのは俺だ。
開始が告げられ俺とテオは同時に飛び出す。
木剣と木剣が衝突し、俺は腕がしびれて体勢を崩す。
バックステップで下がると追随してテオが脇腹へ鋭い斬撃を撃ち込んだ。
「こんな、はずじゃ」
「ウィル!?」
両膝を屈し、それでも木剣を杖代わりにして立ち上がろうとする。
だが、力が入らずついに地面に両手を突いてしまった。
「俺の負けだ」
「ウィル・・・・・・」
「そんな顔をするな」
完璧な模擬戦だった。
文句の付けようがないくらい完璧に秒殺。
いやはや自分の才能が恐ろしい。
「・・・・・・・・・・・・」
レオンは何かを考え込むように黙り込んでいた。
「レオンさん?」
「あ、ああ、申し訳ない。少しだけ気になったことがあってね。ウィル君は残念だったね。だけど動きは良かった。あとでアドバイスをするから少し休んでいなさい」
感謝を伝え俺は下がる。
だませたぞ!!
俺は再び雑魚モブの座に返り咲いたんだ!!
ひゃっはー! モブだモブ!
内心でクラッカーを鳴らしながらお祝いしていた。
◇
レオンとの訓練が終わり学院へと戻る。
正門を越えると女子達は女子寮へ戻るために男子寮の反対側へと向かった。
「腹減ったー。騎士の訓練ってめちゃくちゃ厳しいのな」
「レオン様の騎士団は精鋭中の精鋭だからね。あれくらい当然だよ」
「なんでおめぇが自慢げなんだよ」
先頭を行くのはデンターとマーカスだ。
その後方ではテオとセルシアが話をしながら歩いている。
俺は、そのさらに後方で四人を追っていた。
時刻は夕暮れ。
あかね色の空が印象的だ。
(この風景どこかで見覚えがある)
夕日くらい転生してから何度も見てきた。
ただ、今日の景色は何かが違っていた。
そうだ。ゲームだ。
この寮へ帰るシーンを俺は見た。
先にある校舎横の道にさしかかると――。
俺は咄嗟に走り出し、デンターを押しのけながら剣を抜いた。
反響する金属音と散る火花。
デンターを狙った剣は俺の剣によって止められた。
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