二十話 生徒会長の依頼その1(3)

 

 王都の外に向かって商業区の大通りを行く。

 振り返ると木製の人形が同じ動きでついてきていた。


 道行く住人や商人達は立ち止まり物珍しげに凝視している。

 案の定、俺は目立ちまくっていた。


 リンに依頼されたのは、コイツを連れて適当に散策し、さらに王都の外で魔物と戦闘を行って貰うって仕事だ。つまり稼働実験、デバッグだな。

 それに内心ではわくわくしていたりする。人形をただ操るだけなら現在の魔法使いでも可能だ。これの素晴らしい点は極めて少ない魔力で起動し、尚且つ知識も技術も必要ないところにある。素人がその日のうちに精細な動きで操れるようになるのだ。


 口と態度はあれだけどあの少女は確かに凄腕だ。

 生徒会長には感謝しないとな。


 案外、会長の犬になるのも悪い話ではないかもな。


 クソ性格悪いがなんだかんだ名家の長女だし顔は広そうだ。それに美人だからなぁ。上手くいけば平凡フェイスの俺でも三番目や四番目の夫に。いや、止めておこう。


 懇意にさせて貰うのはありだがその先はないな。

 鞭で叩かれて踏みつけられる未来が見えた。


 大通りを進みそのまま王都の門を出る。



 ◇



 王都の近くにカラ草原と呼ばれる地帯がある。

 ここに出没する魔物は非常に弱く、なりたての冒険者の狩り場となっている。


 主に出没するのはスライムだ。

 それからホーンラビットもちらほら見かけるかな。


 ぷにょん。さっそくスライムと遭遇。戦闘開始!


 人形を前に出し鉄の剣を抜かせる。

 操作石は脳波を読み取っているのかイメージだけで思い通りに動いてくれる。距離が近いからなのか遅延はほぼない。


 人形は一撃でスライムを殺した。


「意外にパワーがあるな。デバッグだしもっと激しく戦わせた方がいいのかな」


 ゴブリンを見つけると即座に斬る。

 続けてホーンラビットも殺し二十匹ほど魔物を殺した。


 ばぎっ!


 無理をさせすぎたのか右腕が折れてしまった。

 剣は止めて格闘戦へと移行する。


「空中回転かかと落とし!」

「ぶぎゃ」


 かかと落としを喰らわせたゴブリンは脳天を割られ絶命。

 直後に人形の足は半ばから砕けてしまった。


 調子にのって遊びすぎた・・・・・・怒られるかな。


 とりあえず持って帰るか。



 ◇



 どさっ、と作業台の上に壊れた人形を置く。

 リンはぎょっとした表情となった。


「うそ、壊れてる。頑丈な木材を使用したのに。早々壊れることなんか」

「遅延はなかったし再現度もかなり高かった。ただ、個人的にはも少し強度強めの素材で作って貰いたかったな。脆すぎて自分自身の攻撃に耐えられていない」

「人形のスペックが操作者のイメージに追いつけていない・・・・・・?」


 いい発明品なんだけどな。

 いかんせん脆すぎる。二、三割の力であれだ。パワーは充分あるけど構成する部位が弱すぎた。これじゃあ戦闘とかでは使えない。


 ふと、二人は何をしているのかと目を向ける。


 テオは金属の馬にひたすら話しかけ、セルシアはふわふわと低空飛行を続けていた。

 これで本当に実験できているのか。いささか疑問だ。


「うーん、強度を上げると出力も上げなきゃいけなくなる。だけどこれ以上の蓄魔石となると簡単には手に入らないし。単純にサイズを上げると重量オーバーになる」

「ふむふむ」


 リンは人形の胸を開いてあーでもないこーでもないと思案していた。

 人形の胸の奥には青い荒削りの石らしきものが収められており、うっすらとだが魔力を帯びて発光していた。


 これが蓄魔石? ほう、意外に普通の石だな。

 ゲームでは巨大なサイズを何度か見かけたことがあるけどリアルはこれが初めてだ。蓄魔石はその名称通り魔力を貯める性質を持つ鉱石だ。このレティシア王国では豊富に採掘され一大産業となっている。


 で、彼女はこのエネルギータンクである蓄魔石をどうにかしたいらしい。


「これよりも大量に魔力を貯められる石があればいいのか?」

「ひぃ、急に話しかけないでください。衛兵を呼びますよ」


 飛び退くように離れたリンは涙目でふるふる震える。

 興味本位に一歩近づくと、彼女も一歩下がった。


 ・・・・・・本当に小動物だな。


「それでどうなんだ」

「あれば今より遙かにパワーも強度も向上しますけど、肝心の良質な蓄魔石がとんでもなく高価なんです。あたしの収入じゃとても買えません。は、まさかこれは資金を援助する代わりに妾になれという流れ!? 美少女エルフに生まれてしまったばかりに。およよよ(涙)」

「シフォン先生くらいあれば考えたけど。まな板じゃあな」

「まな板って言いましたか? 今、まな板って?」


 地雷を踏んだらしく殺意の目で俺を見る。

 俺はテトとセルシアがこちらから意識を外している隙に彼女に小さな石を渡す。


「これは? 虹色に輝く鉱石?」

「蓄魔石と同じく魔力を貯める性質がある。使えるか調べてみてくれないか」

「似た性質の石、ふーん。嘘だったら承知しませんよ」


 彼女は石を金属で造られた筒の中に投げ入れ蓋を閉める。

 スイッチを入れると、がうんがうんと筒に繋がったボンベから何かを引き込み始めた。


「これは?」

「自動魔力充填装置です。ボンベには大量の蓄魔力が収められていて、スイッチを押すだけでボンベから魔力をくみ上げ限界まで魔力を充填してくれます」

「・・・・・・時間がかかるものなのか?」

「メーターは動いてる。吸収は確かにしてる。だけどこのサイズの蓄魔石ならもう充填は終わってる頃。なんですかこの石。ずっと魔力をため続けてますけど」


 だろうな。なぜならその石は俺が星属性で創った鉱石だからだ。


 星属性は属性昇華させる属性だ。

 そして、生み出されるのがより上位の属性。土属性を超える土属性だ。


 星の属性を帯びた土属性は、新たな性質が追加される。そのうちの一つが『蓄魔力』である。


 俺が輝石をわざわざ創らずコートの内側に隠せているのもこの性質があるからだ。

 これにより蓄えた魔力を使用して攻撃防御が行えるのだ。

 まぁ、事前に魔力を補充してやらないといけない欠点はあるが、使い勝手も良いし今のところ特に気になっていない。


「なにこの数値!? 良質な蓄魔石を超えたんだけど!?」

「じゃあこれで問題は解決だな」

「どこで、どこでこれを手に入れたの!?」


 リンは飛びつくように俺の胸ぐらを掴んでくる。

 その際、左腕の長袖が少しずれ、その下の赤黒い肌を露出させた。


 ばっ、彼女は慌てて左腕を隠す。


「この鉱石は?」

「悪いが俺も知らない。ウチの近くの湖に落ちていたものなんだ。魔力を貯めるってことは気づいていたんだがそんなにすごいものだったとは」

「未発見の鉱石を偶然発見した・・・・・・?」

「たぶん」


 ブザーが鳴り、装置は充填が完了したと知らせる。

 石を取り出した彼女は、試作で作った金属製の人形に石を取り付け起動した。


「動かしてみて」


 指示に従い人形の左腕を動かす。

 遅延はない。動きもスムーズ。

 立ち上がらせて歩いても動きによどみがない。


「このサイズでこの出力、拳サイズなら長期稼働も夢じゃない。まさしくあたしが求めていた石だ。欲しい。もっと欲しい。この石さえあればあたしにも戦う力が」

「誰かと戦うつもりなのか?」

「ひゃあ!? な、なんですか! 物騒だから自衛手段があればいいなって話なだけですよ! 近づかないでください。妊娠するじゃないですか」


 俺をなんだと思っている。

 だが、人には言えないがあるなら他人を怖がるのも当然か。

 自己主張が強いくせに隠れるように店を出している理由も理解できた。


「満足できたのなら実験テストは終わりか?」

「とりあえず今回は。二日後に改良した人形のテストをして貰います」

「また操って戦うのか」

「いえ、次はあたしが操作する人形と戦闘して貰います」

「なるほど」


 今日は前段階。次回から本番と。

 しばらく予定もないし別に良いけど。


 リンはテオとセルシアの元へと行く。


「一緒に過ごせてかなり懐いたみたい。次回はこの馬に乗って王都の外周を走って貰えますか」

「君の実験に貢献できているのかはわからないけど指示に従うよ」

「セルシアさんは次回までその靴を履いて過ごしてください」

「えぇ!? ずっとですか!?」

「困ったら彼に頼んで助けて貰ってください」


 なぜか俺が指名される。

 セルシアは「教官が・・・・・・」と若干嬉しそうだ。


 金属の馬も良いけど浮遊できる靴か。

 あとでセルシアに頼んで履かせて貰おうかな。


 この日は解散し、俺達は帰りにカフェに寄ってお茶とケーキを堪能した。


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いつもお読みいただきありがとうございます!

皆様の一つ一つの応援が大きな励みになっております。このような末尾にですが感謝を。引き続き本作と徳川レモンにお付き合いいただけると幸いです。

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