十九話 生徒会長の依頼その1(2)
王都の商業区に入り、大通りから狭い路地に入ると『スズランの道具屋』という小さな魔道具店が存在する。
近隣の住人によるとこの店はエルフが経営しているらしく、優れた魔具師として評価をされている一方で、奇抜で奇天烈な道具を販売することでも有名だそうだ。
「ここだよね?」
「看板にはそうありますけど」
「・・・・・・」
テオ、セルシア、俺は揃って小さな木造の店の前にやってきていた。
ぶら下げられた看板には『スズランの道具屋』と確かに表記されている。しかし、とてもではないが凄腕魔具師が経営しているとは思えない雰囲気だ。それにひどく主張のない外観。まるで隠れながら経営しているようにすら感じる。
カラン。テオがドアを開けるとベルが鳴った。
「お邪魔しまーす」
「中は意外に明るいな」
「魔道具が沢山」
店内は外観からは想像もできないくらい幻想的であった。
棚には魔道具らしきアイテムが置かれ、壁には剣や魔物らしき頭蓋骨、天井からは無数のランプが吊り下げられ全体的に琥珀色だ。
店主は奥にいるのか出ているのかカウンターにはおらず。
たまたまなのか客もおらず静かだ。
俺達は初めての魔道具屋に心躍らせ商品を眺め始める。
「これって使い道あるのかな。『疲労の指輪』『激痛の指輪』『花粉症の指輪』とか変なのばかりなんだけど。それとも僕がまだ経験の浅い子供だから?」
「こちらには寒さを軽減する帽子がありますよ」
「ダメージカットのお守りがあるな。十分の一しかカットしてくれないが、あるとないとでは地味に差が出そうだ。しかも結構安い」
「「欲しい!」」
二人が血走った目で食いついてきた。
ダメカ装備は比較的高価だし生産される数も少ない。沢山の道具店が出ている王都だから同じようなのは探せばあるだろうが、恐らくこの値段で手に入れることはできない。ここの店主は儲ける気がないのか相場を知らないのか。間違いなく穴場だ。
「あら」
店の奥から出てきたのは見覚えのある妖艶な女性だった。
ウェーブのかかった長いブロンドの髪にエルフ特有の長い耳。美しいまでに整った顔立ちと微笑みを絶やさぬ柔らかい雰囲気。そして、とびっきり目を引くのが自己主張の激しい胸だ。彼女の服は胸元の大きく空いており、これでもかと色白の深い谷間を見せつけてくる。
歩く度に揺れるスイカに、テオもセルシアも目が釘付けになっていた。
「こんなところで奇遇ね。皆さんおそろいでどうしたのかしら」
「「シフォン先生!?」」
現れたのは魔法学院魔導工学教諭シフォン・アルビーであった。
彼女はカウンターを抜けてこちら側へとやってくる。
「僕らは生徒会長の依頼で来たのですが。シフォン先生も実験に?」
「あたしは遊びに来ただけ。ここの店主さんとはお友達なのよ」
「そ、そうなんですか」
楽しそうに話すシフォンにテオはゴクリと喉を鳴らす。
なぜなら彼女が動く度に胸が揺れていたからだ。
セルシアも凝視しており「すごい、おおきい・・・・・・」と呟いている。
シフォンは絶大な人気を誇る生ける女神。学院にいる全ての男性の憧れの的だ。
溢れんばかりの色気と慈愛に満ちた微笑みは、男子生徒だけでなく女子生徒すら魅了し道を踏み外させるともっぱらの噂だ。
ちなみに一年生の科目に魔導工学の授業はない。受講は二年生からとなっているのだが、その余りの人気ぶりから特別教室へ突撃する一年が後を絶たず、学院内で彼女を知らない者はいないと言われているほどだ。テオもデンターとマーカスに連れられ突撃したのか面識があるようだった。
「そちらの彼女と彼は初めて見る顔ね。どうもシフォンです」
「セルシア・レインズです。魔導工学のシフォン先生ですよね。遠巻きですが一度だけ拝見させていただいたことがあります」
「初めましてウィル・スターフィールドです。ご挨拶いただき恐縮です」
「二人ともよろしくね。困ったことがあったら何でも相談に乗るから」
セルシアの手を取ったシフォンはずいっと接近して胸を押しつける。
押しつけられたセルシアは「お、おっきい!」と冷や汗を流しながら驚愕していた。
確かにでかい。何がとは言わないが。とにかくでかい。
「シフォン様、誰とお話を――あ、客様でしたか」
遅れて奥から現れたのは同じくエルフ女性であった。
くすんだブロンドの前髪で片目を隠した俺達とさほど年の変わらない少女。
恐らく彼女がこの店の店主だ。
そう感じ取った俺はテオに目配せする。
「貴方は魔具師のリン・ハリアさんでしょうか?」
「は、はい。その制服、もしやアデリーナさんが寄越して貰った実験動物でしょうか」
「実験動物!?」
「すみません! つい本音を! 実験に付き合ってくれる都合の良い生き物でした!」
「「「なんなんだこいつ!!」」」
揃ってツッコんでしまった。
せめてオブラートに包め。ストレートすぎるだろ。
「うふふ、楽しそうでいいわね。じゃああたしは戻るから」
「はい。また」
カランとベルを鳴らし出て行くのはシフォンだ。
リンは召し使いのごとく彼女へ見送りの一礼をした。
◇
店の奥に連れて行かれた俺達は、ドライバーやトンカチが置かれた作業場らしき部屋へと通される。
「改めて自己紹介を。魔具師のリン・ハリアです。見ての通り超絶有能な美少女エルフです。可愛すぎるからって惚れないでくださいね。あと、大きい声も出さないでください。それからそれから・・・・・・えっと」
小動物みたいに臆病なのに妙に自己主張激しいな。
確かにエルフらしく容姿が整っていて美少女だけれども。
こいつアデリーナとどういう関係だ。
いつまでも話が進まないと感じたのかセルシアが場の主導権を握った。
「実験に付き合ってほしいとのお話しでしたが、先にどういった内容なのかをお聞かせくださいませんか。危険はないとは窺っておりますけど万が一もあります」
「そうだね。報酬の方も気になるけど、まずはハリアさんのやっている実験について教えて貰いたいかな。そういえば三人とも実験内容はばらばらって言ってたけど」
「ふぇ、実験動物のくせに注文が多い・・・・・・!」
リンは目をうるうるさせて怯える。
本当になんなんだコイツ。
「じゃあ説明しますね。貴方達にはそれぞれ開発中の魔道具を使用して貰います。使用後は良かった点と悪かった点をあげてもらい終了です。安全性は確認済みなので命の危険はない、と思う。たぶん」
めちゃくちゃ目が泳いでるのだが。
こえーよ。もう帰りたい。
「テオドールはこれ。セルシアはこっち。お前はこれ」
「俺だけ扱いが雑だな」
それぞれ魔道具を受け取る。
受け取ったのは俺と身長がほぼ同じの木製の人形だった。
「これは『遠隔操作型駆動人形』です。操作石を額に貼り付けることで人形を離れた位置からでも操作できる超絶すごい試作品です。お前にはこれで王都の中を散策して貰い、できれば外で戦闘も行って貰います」
「これを額に・・・・・・うおっ、腕が動いた!?」
小さな石を額に貼り付け人形を意識すると、俺の動きがそのまま人形へトレースされた。
さらに視界情報も脳に直接送られ頭の中では俺が正面に立っていた。
これ、すごい発明だよな。
なんかわくわくしてきたぞ。面白すぎる。
「すごい、すごいよこれ! 本物みたいだ!」
「それは『人口知能型騎獣:タイプ馬』」
テオは金属製の馬に乗ってはしゃいでいた。
「これは、浮いている?」
「その名も『浮遊靴』」
スニーカーのようなゴツい靴を履いたセルシアが天井に向かって浮かんでいた。
だが、バランスを取るのが難しいのか、彼女は「きゃぁ!?」と悲鳴を上げると、くるんと上下逆さまとなってスカートの下を露出させた。
「うそ、こんな恥ずかしい格好――ウィル君にだけには!? いやぁぁああああああああああああああああああああああっ!!」
セルシアの悲鳴が店中に響いた。
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