十四話 ハウライトの罠(4)

 

 銀河剣を引き抜く。

 夜空のような刀身にハウライトは目を見開いた。


「聖剣、だと? 魔法使いなのか。しかし、なんだその剣は。長年に亘り数多くの聖剣を見てきたがそのような異様な剣は記憶にない。貴様、本当に何者なのだ」


 さて、話は終わったし始めるとしようか。

 今回は銀河剣の初お披露目だ。試し切りもかねてまずは準備運動をと。


「お前達は人間を相手しろ。アレとは俺が戦う」

「承知しました」


 キャットがシープとウルフを連れて戦闘を開始する。


 一方、こちらのいびつな人型のクリーチャーは牙をむき出しにして吠えていた。

 数は十体。表面は赤黒く一つ目の個体もいれば複数個ある個体もいる。


 こいつらは『不完全強化体ロストナンバーズ』と呼ばれる実験体のなれの果てだ。元となったのは人間。身体的魔力的に優れた人種族の子供を素材として造られた最低最悪の失敗作だ。

 こうなってしまっては二度と人に戻れない。

 殺してやることだけが救いなのである。


「キシャアアアアアア!」

「今、楽にしてやる」


 すさまじい膂力で腕が振られる。

 俺は最低限の動きで躱しつつ胴体を斬った。


 すでに人間性を失った獣も同然の存在だが、単純な戦闘力においては人を凌駕する。物理防御力と魔法防御力もそこそこ高く下手な攻撃は通じない。もちろんその他大勢にとっての話であって俺には関係ない。


 肉薄する敵の首をはねる。ほぼ同時に隣の個体も両断。

 迫る三体を刹那にみじん切りにする。


「ありえん。不完全とはいえ人の何倍も強化された怪物だぞ。なぜ戦える。なぜ殺されんのだ」

「舐めているのか。序盤の雑魚相手にやられるわけないだろう」

「じょ、じょばん??」


 残り三体。

 もう面倒だな。一気に片付けてしまおう。


「舞え、輝石よ」


 ロングコートから無数の光が飛び出す。

 一つ一つは小さな石のかけらだ。欠片は光の尾を引きながら宙を舞う。


 ハウライトは光を見上げていた。


「目映いほどの輝き。このような魔法は目にしたことがない」

「星魔法スターダスト。敵を撃ち滅ぼせ」


 輝石はレーザーのごとく三体の不完全強化体ロストナンバーズを貫く。

 一瞬にして肉体は穴だらけとなり肉塊と化した。


 舞い戻った輝石は俺の真上で星座のごとく停滞する。


「最終戦だ。ボス同士正々堂々と戦おうじゃないか」

「た、戦う? 私と貴様が?」

「勝てる勝負じゃないと戦えないのか?」

「くっ、いわせておけば!」


 ハウライトは自身の聖剣を抜き放つ。

 名は【六身剣】。土で創り出された精巧な自身のコピーを刀剣奥義ブレイクアーツとする土属性の聖剣だ。

 最大五体のコピーは魔法を使用できる代わりに魔力量は六分の一となる欠点がある。あと水属性に弱い。欠点さえ目をつぶれば非常に有能な技だ。


 床からもこもこと土が盛り上がり、五体のハウライトが出現した。


「これでも王都支部を預かる幹部の一人。貴様なんぞにむざむざやられはせぬ」


 戦闘が再開される。


 俺は一体の剣を剣で受け止めると、左右から飛びかかってくる二体の剣を飛び下がって避ける。別の二体が土魔法で岩を飛ばしてくるので、さらに躱し、時間差で飛んできた岩を一息で真っ二つにした。


「こんなものかアース。先ほどの威勢はどうした」

「ん? ああ、少し考え事をしていた。続けてくれ」

「ぐぎぎぎ、どこまでも舐め腐りおって!」


 彼の刀剣奥義ブレイクアーツは実に面白い。だから通常の魔法で再現できないか考えていたのだ。すぐには無理だが工夫すればかなり近いものが作り出せるのではないだろうか。


 五体は無理だとしても、せめて一体だけでもあれば、学生生活と組織の活動の往復が楽になる。


 それかいっそのことコイツを捕まえて作らせようか。

 いや、さすがに無理か。舌をかみ切って死にそうだもんな。


「大変勉強になった。邪魔なので片付けさせて貰うぞ」

「なっ」


 一瞬で五体を斬る。

 人形はぼろぼろと崩れ元の土塊へと戻ってしまった。


「私の、私の刀剣奥義ブレイクアーツが!」

「お礼ってわけじゃないが俺の奥義を見せてやる。喜べ。お前は記念すべき最初の一人目となるのだ。なにせ俺すらどんな技なのか知らないんだからな」


 抑えていた魔力を放出し銀河剣に流し込む。

 刀身がキラキラ瞬き銀河を映し出しているかのようだ。


 俺の肉体に青いエフェクトが出現する。


「なんだこの魔力量は!? これではまるであの方々を相手に――」

刀剣奥義ブレイクアーツ




 ――ギャラクシー斬り!!!




「虹色の光が。おおお、なんと美し――ぎゃあああああああああああああああ!!!」


 虹色の閃光がハウライトを飲み込む。


 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 その背後の壁も天井も全てを吹き飛ばし轟音と共に光は駆け抜けた。


 がらがら。

 瓦礫が落ちる。


 大きな穴の向こうでは森の一部が直線状に消え、大地も真っ直ぐえぐれていた。地平線の彼方まで。


 ・・・・・・ナ、ナニコレ。


 俺の予想だと主人公の奥義と同等もしくは少し強いくらいのはずなんだけど。

 馬鹿みたいに超超高火力じゃないか。怖っ。


「さすがですマスター。天上のごとき隔絶したお力とくと拝見させていただきました」

「我ら一同あなた様によりいっそう深い忠誠を誓います」

「自分達になんなりとお命じください。マスターについて行けるのならなんだっていたします」


 三名が片膝を突き頭を垂れていた。

 その背後では敵が無残な死体となって横たわっていた。


 ひとまず聖剣を鞘に収める。


「ハウライトは倒した。すぐさま撤収、といきたいところだが。この拠点には今後、非常に重要となる武器が保管されている。実のところ今回の目的はそれだった」

「武器ですか。それはどのような――」


 ばぁん。扉が勢いよく開けられうっきうっきのドラゴンが飛び込んできた。


「皆の者、見るのじゃ! 素剣じゃぞ!」

「ドラゴン。ちょうど今、大事なお話を・・・・・・なんですって?」

「素剣じゃ! 沢山あるぞ! 妾も聖剣を手に入れられるのじゃ!」


 彼女は小柄な身体で素剣を何本も抱えていた。


 キャットの『もしや』の意味が込められた視線に俺は頷いた。

 そう、この拠点では組織に横流ししていた素剣が保管されているのだ。ハウライトがちょろまかしていた素剣を俺達がいただく。全て計画通り。


「ドラゴン、どこー?」

「こっちじゃ」

「いたいた。先に行くなんてひどいじゃない」


 合流したバニーは素剣の山を大きな布で包み背負っていた。

 ざっと見ても百は超える。


 今は五人だけだが。いずれ団員も増えることだろう。

 その時の為に素剣の確保は急務だった。


 敵は強大だ。ハウライトは所詮末端の駒でしかない。

 運命の日を乗り越えたとしても奴らとの戦いは終わらないのだ。

 今はひたすら備え続けるしかない。


 ゲーム知識をフル動員して。


 ごごご。突如として砦が揺れ出す。

 少し前までの揺れとは比較にならない大きさだ。


「ドラゴン、貴方どれだけ破壊したの!」

「違うのじゃ。今回はマスターもおるから控えめにしたのじゃ。あれくらいで壊れるはずがない。濡れ衣じゃ」

「たぶん俺だ」

「ほら、マスターが犯人じゃ!」


 俺の刀剣奥義ブレイクアーツが原因だな。

 ドラゴンの鞭打った砦にギャラクシー斬りでとどめを刺したんだ。


 揺れはさらに大きくなる。


 はぁぁぁ、ハウライトが溜め込んだ金貨とか宝石とかいただく予定だったんだけどなぁ。他にも組織に関する情報とかさ。けど、ハウライトは倒したし素剣も手に入れられたから今回はよしとしよう。


「撤収だ」

「はい」

「御意」

「了解なのじゃ」

「分かりました」

「はーい」


 配下と共にオムリス砦から脱出する。

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