二話 星属性
スターフィールドはウォルデフ地方を治める領主の家である。
このレティシア王国で知らぬ者はいない風魔法の名家だ。
この世界では魔法は重要な地位を占めている。
貴族のほとんどが魔法使いであり、先天的に得た属性と魔力量によって優劣が測られる。
「踏み込みが甘いです坊ちゃま」
「はぁはぁ、まだまだ! 今度こそ!」
庭で木剣を打ち合うのは次男のキアリスと騎士団長だ。
俺はその様子をじっと見つめる。
スターブレイブファンタジーの魔法使いは剣を使う。近・中・遠の全てをカバーするのがこの世界の魔法使いであり、学院を卒業した者にはさらに聖剣と呼ばれる強力な武具が与えられる。故に魔法使いは恐れられ敬われている。
この戦闘スタイルは我が国独自であり他国ではまた別のスタイルが主流なのだが、まぁ今は関係ないので当分の間は無視していい。そもそも死亡イベを乗り越えなければ目にすることもない。
とまぁ魔法使いは剣の腕も磨く必要があり、文官を目指すにしても武官を目指すにしても、貴族である以上はたしなみとして鍛練は欠かせない。
「参った。僕の負けだ」
「素晴らしい成長ですよ。ついこの間まで剣を振ることすらままならなかった坊ちゃまがこうして私と打ち合えているのです。いずれ必ず追い抜かれるでしょう。どうか自信をお持ちください」
「慰めはいい。負けは負けだ」
キアリスは悔しそうに立ち上がり汗を袖で拭う。
指導役の騎士団長は老年にさしかかろうかという歳の人物だ。剣の腕は一流。そこそこ名が知られた騎士の家系の魔法使いである。
「ウィル坊ちゃまもどうですか。そろそろ剣を覚えるお年かと」
「やめておけライアン。あいつは魔力量が乏しく属性も我が家にふさわしくない土だ。鍛えたところで無駄骨に終わるだけだぞ」
「魔法を使えなくとも剣技が優れていれば開ける道もございます。過去には剣の技量のみで名を残した偉人もおりますゆえ」
「好きにしろ。どうせあいつには父上も期待はしていないからな」
珍しく鍛練に誘われた。
まぁキアリスの言うとおり俺は生まれつき魔力量が乏しく、おまけに防御主体の扱いづらい土属性だ。風の名家として名高いスターフィールド家からすれば紛れもなき出来損だ。そのせいで早くから父親に見放され二人の兄からも家族とは認められずにいる。
ちなみにだが、別に俺は現状に何の不満も抱いていない。
見放されているおかげで何をしても自由だし、寝床も食事も衣類も全てタダで手に入る。調べ物があれば書庫に籠もって好きなだけ本を読めるのも最高だ。むしろこの状況を維持したいまである。
下手に期待されて行動が制限されるようになるのは好ましくない。
本編が始まるまでの準備にも不都合が出る。
「キアリス兄上ほど上手くは立ち回れないでしょうが精一杯やらせていただきます」
兄上の木剣を拾い上げ一礼する。
騎士団長殿と兄上はぽかんと口を開けて固まっていた。
「ウィル坊ちゃまはいつも砕けた態度と口調をされる方だと存じておりましたが。実はそのように礼儀をわきまえておいでだったのですな。いやはや驚きました。まだ五歳だというのに」
「・・・・・・本当に、ウィルなのか?」
そういや以前の俺は礼儀も礼節も知らない子供だったのを忘れてた。
今さら訂正もできない。このままで押し通そう。
「私に一本入れられたらウィル坊ちゃまの勝利といたしましょう」
「よろしくお願いいたします」
騎士団長殿と向き合い木剣を構える。
合図はない。俺から踏み出し木剣を打ち込んだ。
「ほう、筋が良い。初めてとは思えないほどです」
「キアリス兄上と騎士団長殿の鍛練をずっと見てきましたからね」
「なるほど。しかし、これは」
こう見えてすでに実戦は幾度もこなしている。
暇さえあれば屋敷の外に出て魔物狩りを行っているのだ。
加えて前世の俺は剣道の経験者にして大体のことは見るだけで覚えられる人間であった。そのおかげで鼻につくと度々やっかみを買ったりして、いつしか俺はほどほどに偽装するのが得意になっていた。
騎士団長の動きや癖はすでに記憶している。
一本を取ることは造作もない。だが、今の俺は初めて剣を握った子供だ。できすぎては変に注目を浴びることになる。
団長の木剣が俺の木剣を弾き飛ばした。
「坊ちゃまの負けです」
「さすが騎士団長殿。こうして一戦交えてみるとよく分かります。俺ごときでは兄上の技量は遠く及ばないようですね」
「当然だ。だが、お前にしてはなかなかだった。ライアンもそう思うだろ」
「え、ええ・・・・・・キアリス坊ちゃまの仰るとおりです」
うん、違和感は抱かれていないようだ。
ここでキアリスをべた褒めしておけば兄弟仲がこれ以上険悪になることもないだろう。
なんせスターブレイブファンタジーのウィルは、キアリスに嫌われすぎてひどく肩身の狭い幼少期を過ごしたそうだ。本編となる学院生活においても度々上級生のキアリスがウィルをいじめていた。
目的を果たす為にも余計な障害はできる限りなくしておくべきだ。
「用事がありますので俺はこれにて。失礼します兄上」
「次は直々に相手してやる。それまでに少しくらい鍛えておけよ」
「はい。それでは」
一礼してその場を後にする。
そういえば騎士団長の反応が少しおかしかった気が。
まぁ気のせいだろう。偽装は完璧だったし兄上もしっかりだませたからな。
◇
鋼の剣でゴブリンを一閃する。
一息つくと辺りには無数の死体が散乱していた。
屋敷から数キロほど離れた森の中。
俺はとある目的から森の奥をひたすら目指していた。
スターブレイブファンタジーにおいて属性は重要な要素となっている。
基本的な属性は六つ。火・水・風・土・光・闇。
他にも稀少属性と呼ばれる雷・氷・樹・鉄があり、いずれにも該当しない魔法は無属性として扱われている。
属性にはそれぞれ特色があり得意と不得意がはっきり分かれていたりする。例えば火属性の魔法はいずれも高い攻撃力を有しており、水属性なら罠や持続攻撃、風なら範囲攻撃、土なら地形変化や高い防御効果、光は浄化や回復にバフ付与、闇なら隠蔽効果やデバフ付与と役割が決まっている。
だが、実はこの世界には隠し属性と呼ばれる属性が存在している。
隠し属性はいくつかありその中でも最強と呼ばれている属性が【星属性】だ。
星属性の入手方法は非常に簡単だ。とある場所に落ちているアイテムを使用するだけでいい。ただ、それだけに入手時期はシビアだ。ゲームでは序盤のごく短いタイミングで解放されるマップでのみ取得が可能で、そこを逃せばエンディングまで手に入れる機会はない。
しかし、あくまでそれはゲーム本編の主人公においての話だ。というのも限定マップはこのスターフィールドの屋敷があるウォルデフ地方だからである。ウィルとして転生した俺にとってこの地は庭でありいつでもどこでもふらつける場所なのである。
「ここだ。間違いない」
俺は森の奥にある湖へと到着する。
クレーターのように丸い円形の湖には深く青い水が磨かれたガラスのように広がっている。中をのぞき込むと数匹ほど魚影を確認でき、魔物は生息していないのか大きな影は見かけなかった。
衣類を脱ぎ捨て全裸になると湖へと飛び込む。
湖の中央辺りまで泳ぎ、底で輝く石を発見した。
石を掴むと岸まで戻り陸に上がる。
右手には野球ボールほどの石があった。
石は水晶のように透明でその中心では未知の魔力が目映く虹色の光を放っていた。
「遠き果てより来たりし星の魔力よ我が身に宿れ。我は知を求め力を求める者なり。定められた運命を打ち砕き世界に変革をもたらす光である。我が名はウィル・スターフィールド。星の魔法使いだ」
石から虹色の光が抜け出し俺へ絡みつく。
光は胸へと吸い込まれ俺の中で新たな魔力の流れが生み出された。
星属性そのものに攻撃力はない。わかりやすく説明するなら星属性とは、『属性を上位の属性に昇華させる属性』である。土属性などの主となる属性と一緒に使って初めて真価を発揮するというかなり特殊な属性だ。
右手の石に星の魔力を込めると輝きを取り戻し宙に浮いた。
石は無数の欠片に砕けると、輝石となって俺を中心に高速回転を始める。
「星属性は手に入れた。次は魔力量か」
本編開始まで残り九年と十ヶ月――。
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