Emerald Sword13

地を揺らすような太鼓とラッパの音が荒野の遠くから響く中、俺はメイドのリザに髪を梳かされ、曲がった襟を整えられていた。



「リザにも世話になった、これからも達者でな」


「ご武運を。いつでもお茶を入れられるよう、薬缶は忘れずに持っていきます」


「あっちにも薬缶ぐらいはあるだろう、いい加減に自分でも茶の入れ方を覚えて、のんびりと待つよ」


「錬金術師のフシャ様の入れたお茶、どのような味か楽しみでございます。その時はぜひ私にも飲ませてくださいまし」


「味は保証しないよ。それとリザ、これをあげる……」



俺は紐で首に下げていた鍵を取って、彼女に握らせた。


他の女子供は皆今朝すぐ港へ発って船でこの地を逃れたのだが、彼女だけは出陣前の俺の世話をすると言って残ってくれたのだ。


その献身にこれぐらいで報いられるとは思わないが、他に渡せる物もなかった。



「研究室の宝箱の鍵だ、もう中身も少ないけど欲しい物があれば持っていって」


「忝のうございます」



生まれた時から俺の世話をしてくれていたという彼女に、最後の最後まで世話になってしまったな。


一番綺麗なコートを着せられ、城門前まで向かうと……


そこには俺の出陣を見送ってくれる人たちが待っていた。



「フシャ様! やはりお考え直しを!」


「今からでもお逃げくださいませ!」


「くどい。決めた事だ」



騎士たちは未だに俺を逃がそうとしてくれるが、大地を埋め尽くすほどの敵がやって来た以上、俺が逃げれば船で発った女子供までもが追われる可能性がある。


この上は、死中に活を求めるしかなかった。



「フーシャンクラン、武運を祈る……」


「ありがとう、父さん。後はお任せします」



父と最後の抱擁を交わし、イサラに介助されて城で一番大きな馬の鞍へと跨る。


その轡を、キントマンの手が取った。



「フシャ様よう、今度は置いてけぼりはなしだぜ」


「約束があったしなぁ……じゃあキントマン、悪いが一緒に死んでくれるか」


「フ……ハハハハハッ! ハーッハッハッハハッハッハ!!」



俺がそう言うと、彼は笑った。


滂沱の涙を流しながら、天を仰いで高笑いに笑ったのだった。



「イサラ、お前には本当に世話になったな。達者でいろよ」


「何を仰るんですか、私も行きますよぅ」


「そりゃあ駄目だな、父の騎士を俺の尻拭いに突き合わせられんよ。お前は残れ」



こんな自殺行為、本当は俺一人でやればいいのだ。


腕の立つ騎士が付き合うような事ではない。


だがイサラはふらふらと数歩後ずさったかと思うと、腰から剣を外し、父の前に跪いてそれを掲げた。



「デントラ様! 誠に身勝手なお願いではございますが! このイサラ、暇を頂きとうございます!」



周りの騎士が固唾を呑んで見守る中、父はそう言った彼女の剣を受け取り、大きな手でその肩を叩いた。



「そうか、イサラ……道を見つけたか。よかろう、行くがいい」


「忝のうございます! このイサラ、フーシャンクラン様の列に連なりまする! 然らば、おさらばにございます!」



イサラは立ち上がり、キントマンの反対側へとやってきた。


その後ろには、いつの間にかキントマンの部下たちの列ができていた。



「お前たち、ついて来ても得する事なんか何もないんだぞ」


「何を仰るやら、我々はゴドル傭兵団の生き残りですぜ」


「そうそう、俺たちはキントマンの行くところについていくだけです」



あっという間にお供が増えたな……


そしてその中には、先日召し抱えた商人のメドゥバルもいた。



「私も直臣でございますから、置いていかれるいわれはございません」



彼は顎髭を擦りながら、ぬけぬけとそう言い放った。


まあ、通訳がいてくれるのは心強いか……


ぐずぐずしていて、これ以上付いて来る人間が増えたらたまらない、俺は深く考えるのをやめてさっさと馬を出す。


そしてなんとなく横を歩くイサラを見ると、彼女は親父に剣を返したままで丸腰のままだった。



「おいイサラ、剣がないぞ」


「別にいいですよぅ、あんなに相手がいたんじゃあ、いくら振るったところで焼け石に水ですから」


「騎士が丸腰じゃあ格好がつかんだろう」



俺は腰からエメラルド・ソードを鞘ごと外して、彼女の前に突き出した。


これも敵の目標物の一つかもしれないが、別に必ず俺が持っていなければならないという事もない。



「いいんですか?」


「マッキャノ族が欲しがったらくれてやれ、そうじゃなかったらそのままお前にやる。俺にはまだ剣は早いよ」



普通の剣と比べれば破格の軽さと言えるだろうが、それでも俺には少し重かったのだ。


イサラは腰に鞘を吊って、剣を抜き放った。



エメラルド・ソードは今日も薄緑色の光を放ち、タヌカン領は今日も荒れ果て、砂埃が舞っている。


俺が死んでも、タヌカンが滅びても、きっとそれは変わらないのだろう。


そう考えると、今日死ぬことなんか、大きな流れの中の些事に違いない。



「さぁて、今度は迷わねぇぞ。地獄で閻魔と笑ってやる」



そうつぶやいた俺を、イサラは不思議そうに見つめたのだった。






そんな俺達を迎えてくれたのは……殴打でも、罵倒でもなく、マッキャノ語の挨拶ラッシュだった。



ルブアルク悪魔の地の フー! ヘパリン ドンゲ!ごきげんよう


ルブアルク悪魔の地の フー! ヘパリン ドンゲ!ごきげんよう


「ブ……ブルマッキャノ族の マッキャノン皆さん ヘパリン ドンゲごきげんよう


ルブアルク悪魔の地の フー! ヘパリン ドンゲ!ごきげんよう


ルブアルク悪魔の地の フー! ヘパリン ドンゲ!ごきげんよう



なぜルブアルク悪魔の地の フーと呼ばれているのかはイマイチわからないが、とにかく問答無用で殺されなかった事は幸いだった。


俺は政治家にでもなったような気分で、マッキャノ族へ目を合わせて挨拶を返していく。


そして挨拶が止んだ頃に始まったのは、なぜか俺へ対してのマッキャノ族からの丁重な謝罪だった。



「……ラオカン大王の生まれ変わり、荒れ地のフー様に不届きにも剣を向けた物の首をお持ちしました……と言っています」



困惑した様子のメドゥバルがそう訳す中、大軍を引き連れてやって来た将軍は、俺の前で片膝立ちになっていた。


その周りには首を詰めているのであろう、塩で満たされた壺がいくつも並べられている。


何がどうなってこうなったのだろうか?


二コマ目に落ちが来る漫画を読んだような気持ちになる俺の肩を、誰かが揉んだ。



「うおっ!」


「小童は怖い事をしたからのぉ。まさか紺碧剣チヨノヴァグナでマッキャノ族に斬りかかるとはのぉ。そりゃあ、奴らも怯え上がって当然よ。黒髪で……金髪のむすめを連れて……マッキャノ語まで操るとは……おお、まさにヒラオカンの小僧の再臨よ、怖や怖や……」



俺の背後から耳元でそう言って笑ったのは、耳長先生イスローテップだった。


突然現れたのにも驚いたが、かまるでラオカンの事を知っているような口ぶりにも驚いた、この人はそんなに長生きなんだろうか……?


しかしヒラオカンという呼び方は、まるで前世でよくあった名字のようだが……まさかな。



「ヤ! イスロテップ エールクアルク!」



そんな彼女を指差して、マッキャノの将軍が叫んだ。



「その女は悪魔の耳長エルフ、イスロテップであると……」


「知ってるよ。そうか、うちの先生はマッキャノ族にも知られた性悪だったのか……」


「悪いものかよ。のぉ、妾がいなければお前の父は死んでおったのではないか?」



囁くようにそう言いながら、こちらを覗き込む彼女のにやけ面を、イサラが鷲掴みにしようとした……


しかしその瞬間、まるで煙のように耳長先生はかき消え、最初からそこにいたかのように、マッキャノ族の人垣の中から再び姿を現した。



「今代の金狼は余裕がないのぉ。いかんなぁいかんなぁ、余裕のない女は魅力もないぞ」


「うるせえんだよぅ……」


「先生。先生はこういう展開を予想して、俺にマッキャノ語を学ばせたんですか?」



俺がそう聞くと、彼女はその疑問をフンと鼻で笑い、冷えて痛くなったのだろうか、自分の掌を長い耳の先っぽへと当てた。



「それはそもそも小童、お前が求めた事だろう? マキアノ族・・・・・を理解したいとな。しかし、妾とてまさかお前が紺碧剣チヨノヴァグナを作るとは思わなんだ。錬金術の力に関しては、既に妾を超えておるやもしれん」


「そんな事はないんじゃないか?」


「まぁ、妾も錬金術師を名乗っておるわけではないしなぁ。ともかく……これでお前はもうこの小さい・・・荒野には収まらん存在になった。世の中を見て回る時が来たというわけだよ」



先生はそんな事を言って、また人垣の中へふいと消えた。



「世の中を見て回る?」



俺がそう言うと、マッキャノの将軍がまた何かをつらつらと述べた。



「荒れ地のフー様には、是非とも首都のツトムポリタまで赴き、皇帝に謁見しては頂けないかと、述べております」


「首都ねぇ、そうすればこの軍は引くか?」



メドゥバルに訳させると、将軍は手と首を大げさに振って返答した。



「そもそもこの軍勢は『お出迎え』のためのものだと言っております」


お出迎え・・・・でこの数ね、そもそも勝負にもなってなかったわけだ……行くと伝えろ」



俺が行けば軍が引くというのならば、どこへでも行こうじゃないか。


そもそもこの規模の軍を送り込まれれば、タヌカンどころか大本のフォルク王国だって危ういのだ。


そう思えば、皇帝に会って誼を通じるという事は、俺にとっても願ってもない事かもしれなかった。


こうして、終わってみれば短かった冬戦争は、勝負に勝って試合に負けたような形に纏まり……


俺は故郷を遠く離れ、マッキャノの地へと向かう事になったのだった。






—-------






誇らしき騎士の家に生まれ、勇猛果敢な騎士として育ち、騎士として栄誉に包まれて死ぬ。


そのはずだった。


そういう人生のはずだった。


イサラマール・ウィンストンの人生は、最初からそう決められていたはずだった。



「父さんのような、立派な騎士になりなさい」



祖父や祖母にはそう言われ、女騎士として、将来貴婦人たちの側に仕えるための礼儀作法を教わった。



「兄たちのような、立派な騎士になりなさい」



父にはそう言われ、剣一本であらゆる状況に対応する武技を教わった。



「あなたの赤髪・・は癖っ毛だけど、とても綺麗よ。どんなに忙しくても、髪だけは毎日きちんと手入れをなさい」



唯一母だけはそう言って、騎士の道には直接関係のない髪や肌の手入れを教えてくれた。


わがウィンストン家は名門である。


いつか自分は王族の貴人に仕え、誉れの中で死ぬのだと、私はそう疑っていなかった。


実際に私は、わずか十二歳にしてフォルクの姫君の一人であるオルトマール様の側仕えに選ばれた。


マールという名前が同じだという事で、光栄にも同い年の姫君様からの抜擢を受けたのだ。



「イサラマール、あなたの赤髪ってとても美しいわ。編んであげましょうね」


「姫様、忝のうございます」



お姫様の行く場所といえば自室、宮廷の庭、保養地とそんなところだったが、私は油断なくやり抜いた。



「姫様、そこへ段差がありますぞ」


「イサラマール、私にだって目はついているのよ」



過保護であると苦笑される事もあったが、大切な姫様にかすり傷の一つだってつけるわけにはいかないのだ。


近づく見知らぬ大人があれば誰何し、犬が出れば近寄らせず、時に人形の変わりとなって髪を弄られ、姫様の無聊を慰めた。


武技を振るう機会こそなかったが、そこに何の不満もなかった。


武勇を誇る事だけが騎士ではないと、私はよく知っていたからだ。


だがそんな平穏な暮らしは、たったの二年ほどしか続かなかった。


王都から少し離れた森近くの別荘へ屯留していた時の事だ、ある朝突然、姫様が行方不明となった。


姫様の部屋の窓だけが開いていて、何者かに攫われたかのように見えたが……


部屋の絨毯の長い毛には、子供が指で描いたような落書きが残されていた。



「ここいらの森には妖精が出るんだ……もしかしたら姫様は……」



庭師の男がそう語るのを聞いて、私はすぐに森へと駆け出した。


他の者も共に森に入ったが、奥へ行くうちに一人はぐれ、二人はぐれ……


姫様と共に過ごした森の中の湖の辺りに至る頃には、他の者がいなくなったのか、私もはぐれてしまったのか、一人きりになってしまっていた。



「姫様……」



心細さに思わずそう呟くと、何者かがクスクスと笑う声が聞こえた。



「何奴!」



見ると、木陰から一匹の妖精がこちらを覗き込んでいた。



「そこの妖精、私と同じぐらいの子供を見てはいないか?」



そう尋ねると、妖精はクスクスと笑いながら、小さな手を手招きでもするかのように振って、ふわふわと飛び始めた。


少し躊躇はしたが、結局私はその後ろをついて歩いた。



「森の奥には人が入れば二度と出られぬ妖精の国があると聞くが……」



恐怖心もあったが、その先に姫様がいるかもしれないのならば是非もない。


私は騎士なのだ。


主なくして騎士は騎士足り得ない。


剣の柄を握って、心を奮い立たせながら歩んだ。


何度も同じような場所を通り、方向感覚がまるでなくなってしまった頃、急に光の溢れる場所へと出た。


そこは鬱蒼とした森の中にあるとはとても思えない、一面に花の咲き誇る草原だった。



「あっ! イサラマール!」


「姫様! ご無事で!」



そうしてそこに、姫様は一人ぽつりと座り込んでいたのだった。



「あのね、イサラマール、どうしてもここに戻ってきちゃうの……どこを歩いても、全然屋敷に戻れないの」



そう言って泣く姫様の背中を、私はゆっくりと擦った。



「姫様、大丈夫でございます。このイサラマールが来たからにはご安心くださいませ」


「うん……うん……」


「ささ、背中へおぶさりくださいませ、すぐに逃げましょう」


「ありがとう……」



靴を履いていない姫様をおぶり、私は来た道を戻る。


しかし、どの道を行っても、足は必ず花園へと向かう。


地面に線を引きながら歩いても、木に目印を付けても、必ず花園へと出てしまうのだ。



「やっぱり駄目なのね……私、ここで死ぬんだわ」


「姫様、大丈夫にございます。このイサラマールが必ずお助けします」


「お腹も空いたし、喉も乾いた……せめて最期にお母様に会いたい!」



わんわんと泣き出してしまった姫様の背中を撫でるが、彼女はどうにも泣き止まず弱ってしまった。


そして、そんな我々の姿を見てクスクスと笑う者がいた。


それは、私をこの花園まで案内をしてきてくれた妖精だった。



「そこな妖精! 我々を外へ出しては貰えぬか! 我々は食いでもないぞ、戻れたら丸々と太った牛を一頭必ず供えよう」



そう言うが、妖精は楽しそうに笑うばかりだ。



「では、何が欲しい! このイサラマール、姫様以外の物はこの命すら惜しくはないぞ!」



その言葉を聞いた妖精は、私の耳元に飛んできて、何かをきぃきぃと囁いた。


そして、私の赤髪に掴まり、その中へと潜り込んだ。


いつの間にか泣き止んでいた姫様はその姿を見て、ぽつりと零した。



「その妖精、もしかしてイサラマールの髪の中に住ませてほしいんじゃないかしら?」


「そのような事でしたらいいのですが……妖精よ、私をどうしてもいいから、外へ出してはくれないか?」



私がそう言うと、妖精は顔の横にやって来て頬をぺちぺちと叩き、森の方を指差した。


行けと言うのだろうか?



「姫様、おぶさりくださいませ」


「ありがとう、私の騎士よ」



再び姫様を背中におぶり、私は森の中を歩き始めた。


さっきとまるで変わらない道のように思えるが、不思議と花園へは戻らない。



「イサラ……あなた……」


「姫様、もう少しでございます。ご心配はめされぬよう」


「髪が……イサラ……」


「妖精が何か悪さでもしておりますか」



姫様が何かを言っているが、あまり真剣に聞いている余裕はなかった。


妖精の気が変わる前に、森を抜けてしまわなければいけなかったからだ。


そうして、さほど歩いたとも思わないうちに、眼前に湖が現れた。


我々は妖精の国を抜けたのだ。



「姫様、戻ってきました! 見えますか? あれは我々の知っている湖ですよ!」


「イサラ……髪の毛が金色になっちゃった」


「えっ!」



慌てて姫様の方を振り返るが、彼女の髪は変わらず栗色のままだ。


安心して息を吐くと、その息に、首元の金色の髪が揺れた。



「あっ……金色になったのは、私の髪でしたか……」



母や姫様の褒めてくれた赤髪は、金色に変色してしまっていた。


私としてはそこまでこだわりはなかったのだが……


この事が原因で、私は姫様の騎士を罷免される事になるのだった。



混ざった・・・・な、イサラマール」



表向きには、姫様が攫われるのを見過ごした失態による罷免。


そうして職を失って戻ったウィンストン家にて、父は私の金髪を見てそう言った。



「混ざったとは?」


「妖精に取り憑かれたという事だ。今のお前は妖精であり、妖精は今のお前である。妖精など、虫けらの如き命よ。長くとも十年は生きられまい」


「ですが父上」


「父とは呼ぶな。もうお前は騎士の家に生まれたイサラマールではない。今はもう、騎士の家には置いてはおけぬ……お前は人としても妖精としても濁った女、ただのイサラよ」



私が父と呼べなくなったらしい男は、私に金貨を数枚握らせた。



「独り言だ、聞くなよ」


「…………」


「騎士の家に生まれた男として、姫を守って死んだイサラマールが誇らしい。だが、父として、娘と共に生きられなくなった事が悲しい……」



涙を流し、私の手を握ったまま地面に跪くようにして、父はそう言った。



「騎士イサラマールの魂は、父祖代々の墓に眠っている。イサラは……イサラの道を見つけよ。レオーラ」


「……レオーラ」



父にそう返し、濁ったイサラは生家を後にした。


二階の窓からは、赤毛の母がずっと手を振っていた。


何度振り返っても、ずっとずっと手を振っていた。




騎士の家は放逐されたが、騎士として生きる事はやめられなかった。


私は騎士として生まれ、騎士として生きてきたのだ。


それ以外の生き方を知らなかったと言ってもいい。


妖精と混ざったらしい私は、依然よりもずっと力が強くなり、ずっと敏捷に、ずっと鋭くなり……魔法を使う事すらできるようになっていた。



「我が名はイサラ! 古今無双の騎士である!」


「あれが噂の……」


「ウィンストン家は正式に王城へ届けを出したとか」


「妖精との濁り者だ、勝って当然。試合は無効だ、無効」



その力を以て王都の剣術大会で優勝を飾った事もあったが……


どこにも士官の口はなく、ただ陰口を叩かれるだけ。


いつしか私は『濁り』のイサラと呼ばれるようになっていた。


糊口を凌ぐために用心棒をし、傭兵を手伝い、だがどこへ行っても居場所などなく……


ベント教国との戦線があり、荒事の多い北を目指して、私は延々と流れた。


そして流れ流れて、流れ切った北の果てにて。


経歴も噂も気にせずに受け入れてくれた主君に紹介され……


沈まぬ太陽のような子供に出会うまで、自分の道を探し続ける、私の長い旅は続いたのだった。






----------






エメラルド・ソードを手に入れた、騎士と帝国の話でした。

これでEmerald Sword編は終わりです。

ちゃんと表示できるかわからないけど、下に簡単な地図を描いておきます。




                【北】

               

  マッキャノ (アーリマー語圏) / ズヴァイべ (アーリマー語圏)

\               /

 \             /―――――――――――――――

  \           /

   \――――――――――|    ベント教国 (タドラ語圏)

    \         |

     \ 荒野 (タドラ語圏)

   海  |        |                   【東】

      |        |

      |―――――――――――――――

      |    カラカン山脈     |――――――――――   

      |―――――――――――――――

      |

      |   フォルク王国 (タドラ語圏)


                【南】

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