お化けと触れ合い
「ぷうううはああああああ。うっっっっっっっっま。なんじゃこりゃ。くーーーー!たまらん!美味すぎる」
バキューム並に喉を鳴らしながら、ペットボトル半分ほどのポカリを一気飲みしたアイが全清涼飲料水のcmを凝縮したようなリアクションを見せた。
「そりゃよかった。俺にもくれるか?」
「これこれこれ。いやーうまいわー。これは160円!?やすっ!ほぼタダじゃん。ごくごくぷはー!」
「俺の金だからお前は普通にタダだけどな。俺にもくれよ」
「この甘さ加減がちょうどいいんだよねー。五臓六腑に染み渡るギリギリの量っていうかさ。これ以上多くても甘ったるくて気持ち悪いしね。ごくっぷはー」
「そうだな...。いい加減俺にも飲ませろっ!」
俺はアイからポカリをぶんどる。
もう1/5もないじゃないか...。
俺からポカリを奪われても、ポカリはここがいい。あのcmが良かったなどベラベラと喋り続けるアイの口を塞いでやりたくなる。静かだと心配だがこうまでうるさいと考えものだ。
俺はポカリを口につけようとしてハッと思いとどまる。
チラッとアイの口元を見る。
こいつ、今口つけてたよな...?
ポカリが少しついたアイの口元は、太陽の光を反射して薄く輝いていた。満面の笑みでその口元を拭う姿に少し鼓動が早まる。
いやいやアホか!
落ち着け俺。お化けだから。
しかし、どうしようか...。
口をつけたらデリカシーがないと思われるし、つけなかったら意識しすぎだと突っ込まれても鬱陶しいし...。
ペットボトルの飲み口をじっと眺めながら思惑にふけっていたその時。
「あ、口つけていいよー」
さらっとアイが言った。
「え?まさか気にしてないよね?小学生じゃあるまいし」
ぷっと嘲るような笑みを見て途端に羞恥が込み上げてくる。
「はあ??ざけんな!んなわけないだろ。お前が飲みすぎたから量が少ないなーって思ってただけだよ」
「じゃあ早く飲みなよ。ま、さ、か、お化け相手だからセーフかアウトかなんて考えてたわけじゃないなら」
「ん、んなわけあるか。ごくごくぷはー!うめえ。ポカリうまいわあ。ほんとはもっと飲みたかったわ〜。どっかの馬鹿が飲まなきゃなあ」
俺は慌てて言葉を並べ、羞恥心を隠すように大袈裟にリアクションをとる。
それを見てアイは満足げに小さく笑った。
「蓮、ありがとう。体調なおった」
また急に殊勝なことを言う。
俺はフンと鼻を鳴らす。
「ああそう。そりゃあよかった。別にお前のために買ったわけじゃないけど」
「ツンデレって。平成の少女漫画ヒーローじゃないんだから古いよ」
今度は2人でははっと小さく声を出して笑った。
どうやら、少なくともこいつは平成以降に死んだらしい。
「てかてかてかてかー、あっち大きい建物が多いのは気のせい?」
アイが指差すのは住宅街の向こう、背の高い建物群。あれは駅前の商業施設だ。
「ああ、あっちは駅だからさかえてんだよ。繁華街ではないにせよ。それなりにでかいショッピングセンターもあるんじゃないか」
「へー」
アイの目がキラリと光った気がした。
「行きたい、なー」
「駄目だ」
俺は即座に答える。
「どうして!?」
「こんな風に話しているところ見られたらまずいだろ?お前は見えないから俺が1人で話している変質者みたいだ」
「えー、でもこの服汗だくだし。服が欲しいです、竹江先生」
「三井寿風に言ってもだめだ」
「年頃の娘にこんな汗だくのびちょびちょでずっと色ってそんな殺生な..」
アイはそう言って俺のシャツの裾を摘み、縋るような目を向ける。
「...そんなこと言われてもなあ。見えないんじゃ買い物もしづらいだろ。試着室に案内もしてもらえないし」
「あたしゃ昨日からずっとこの格好なんだよあんた...。ねえ頼むよ」
アイはそう言って俺の手を取り、ぎゅっと握って嘆願する。
「んなこと言われてもなあ...」
ん?
「え?俺の手触ってない?」
「え?触ってる?」
アイと俺は繋いだ手をあげ、確認する。
「ひゅー。アツアツカップルじゃーーーん。お幸せにー!」
背後から聞こえた声に振り返ると、小生意気なクソ小学生が自転車に跨りながら、俺とアイを通りすがりにちゃかしていた。
「ば、馬鹿なこといいやがって。ああいうガキってどこにでもいんのな...」
「そ、そうだそうだ!小学生の頃ってああいう子がいるから男女で壁あったりするんだ!けしからん!」
ん...?
俺とアイは顔を見合わせる。
「「見えてる!?」」
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