お化けと水分補給

「はあはあ...。ここまで来れば大丈夫かな」


膝に手をつき、息を整えながらやってきたのは、アパートから少しの十字路。


顔をあげると側には【事故多発】の看板。

ここは交通事故が多く、地元では呪いの十字路なんて言われている。

呪いなんてもちろん嘘で、実際は大小の道路が交差するため視界が悪く、単に交通事故が多いのだろう。


看板の下には誰かが供えたであろう花。

ここにも成仏しきれないお化けがいるのだろうか。


アイが気になって横を見ると、辛そうな表情で、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。


「おいおい、大丈夫か?」


俺はそっとそばにより、同じようにしゃがんで声をかける。


「ごめん...、なんか頭と心臓が痛くて。走ったからかな。意外と体力ないのね私...。はは...」


アイの呼吸が荒い。

熱中症か?それにしても急だが...。

お化けにそんなのあるのか?


「この日差しだ。いきなり走ってきつかったんだろよ。お化けに関係あるのかわかんねえけど。俺も吐きそうだし、そこの公園で座ろう」


十字路の脇にある小さな公園は、ひまわり公園という名前。端の小さな花壇では向日葵が伸びていた。


俺たちはベンチにふたりで腰かける。


「ありがとう。ちょっと落ち着いた...かも」


少し経って、息を整えたアイが言った。

ただ、殊勝に額の汗を拭う姿はまだ万全には見えない。


「無理すんな。俺もきつい...。運動不足は良くないなあ。あ、なんか飲むか?」


「ありがとう。飲みたい、かも」


「ちょっと自販機探してくるよ」


「私もいく。なんか座ってると余計しんどい、かも」


「はあ?大丈夫かよ?」


「鴨、かも...」


「ふざけんな」


「へへっ」


ようやくアイの顔に少し笑顔が戻った。

悪態を吐きつつ、このふざけた感じに少し安心している自分がいた。


ふたりで少し歩くとすぐに自販機が見つかる。

しかし、財布に小銭がほとんどなかったため、ポカリを1本だけ買った。


俺は汗にまみれた手で蓋をあけ、アイに渡してやる。


「ちべてー!ありがとうございます!」

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