お化けと不純異性交際!?

「物には触れるんだな。お化けのくせに」


俺は狭い玄関口で履いた靴の紐を結びながら言った。


「みたいだね。でもすり抜けもできるよ。ほら。身体半分だけ出したら面白い。モノマネ、ドアに埋まった人」


アイはそう言って、玄関ドアをすり抜けて出たり入ったりして見せる。


「触ろうと思えば、触れるし。お化けって意外と便利だね」


アイが言葉通りにドアノブを握り、ドアを開けると夏のじっとりとした熱気が部屋になだれ込む。


俺たちは部屋を出て階下へ繋がる階段を降りる。


「食えるし、触れるし、なんの不自由もないならお前ずっとこのままでいいんじゃないか?」


「確かに...。蓮も一緒にどう?レッツ ビカム ゴースト ウィズ ミー!」


「成仏させられて消滅するのやだからやめとくわ」


「冗談きついわー。もうちょっと楽しくやりましょうや」


「ノーサンキュー。お前を成仏させて俺は平穏な日常を取り戻すんだ」


俺は親指を下に向ける。


するとアイが、

「まあ、そうだよねー」ともの寂しげな表情を浮かべるので、思わず罪悪感がちくりと胸を刺す。


が、言葉に詰まった俺を見たアイは、

すかさず取り繕うように笑顔を浮かべた。


「てかてか、今日はどこに行くわけ!?」


「どこっていうかすぐ下だよ」


「シタ?」


「一階。大家さんのとこで前にこの部屋に住んでたやつのことを聞くんだよ。この部屋に現れたお前はここで死んで可能性が高いだろ」


「えっ!?ガチで成仏させる気じゃん...」


「当たり前だ」


「この人血も涙もないわ...。鬼、鬼畜、人外の畜生!」


アイの罵詈雑言を浴びている間に、大家の住む一階の角部屋に到着する。


俺はチャイムを鳴らした。


「はーい」


親しげなおばあちゃんの声が聞こえる。


「2階に住む竹江です。ちょっとお聞きしたいことがありまして」


「あ、竹江さん!今行きます」


「大家さんってなんか怖い人を想像してたけど、優しそうな人なの?」


「ああ、親切なおばあちゃんだよ。入居のときに挨拶をしたときも感じのいい人だった。というかそうでなきゃこんなふうにチャイムおせねえよ」


「そうなんだ。意外と度胸あるタイプなのかと思ったのに」


「どうせ俺は、心の狭いくせにプライドだけは一丁前のつまらない弱者男性、だ」


「進って意外と根に持つタイプなんだね..」


「受けた悪意は一生忘れない」


ドタドタと玄関の向こう側から音が聞こえる。

もう出てくるだろう。


「てか、ふと思ったんだけど、私って蓮以外の人にも見えるのかな?」


「え?」


「え?」


「見えるの?」


「わかんない」


「もし見えるなら、お前人間と何が違うの?」


「わかんない」


「わかんないって...。それにお前どう見ても女子高生だし...、未成年だし...、なんか怪しいし...」


なんか見られたらめんどくさそうな気が...。

未成年と交際、いや一人暮らし用の物件で同棲してると誤解されたら...。

誤魔化せる?いやパッとこいつがいる理由を説明できないし...。


「アイっ!お前ちょっと部屋戻ってーー」


慌ててアイに指示を出した瞬間。

ガチャリとドアがゆっくり開いた。

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