お化けの朝ごはん

カーテンから差し込む爽やかな日の光。

鳥のさえずりでも聞こえてくるようだ。


幸いにもしばらくは大学も夏休み。

ここは気持ちよく二度寝とさせて頂こうじゃないか。


俺はうっすらと開いた瞼をそっと閉じた。


そのとき。


ガンガンガンガン!


耳をつんざく金属と金属がぶつかる騒々しい音。


「朝はパン!朝はパン!」


甲高いリズミカルな音頭。


「早起きは三文の徳!さあ起きよう!」


目を擦り、瞼を開けると昨日と同じ制服姿のアイがフライパンをお玉で叩きつけている。


「さあさあ、成仏させるんだろう?時間ないよー。今日から早速行動だね」


ガン!ガン!ガァン!

あいはお玉でリズミカルに音を奏でる。


そうだ、こいつがいたんだ...。


「お、おはよう。お前お化けのくせに元気なのな...」


「むしろお化けだから元気なんじゃない?さ、朝ごはん食べよう。早起きして作ったんだ〜」


朝ごはん?

言われてみればなんか焦げくさいような...。


ベッドから起き上がると、目の前のテーブルに置かれたパンとそこに載る目玉焼き。


「さあ座って座って。冷めないうちに食べよう!」


アイに肩を押され、テーブルのそばに腰を下ろす。一見普通に見える目玉焼きだが...。


「朝ごはんありがとう。ちなみにだが、料理は得意なのか?」


「多分得意!」


「多分...!なぜ推測??」


「初めてやったから。味がわかんないんだよね。でもきっと美味しいはず!」


「な、なるほど...」


「さあ蓮も食べて。いただきまーす」


さくっと目玉焼きトーストに被りついたアイ。

そのまま3秒ほど固まる。

それからもぐもぐと口を動かし、

「うん」と目を逸らして頷いて言った。


「美味しい」


嘘つけ。


「うん、本当に美味しい」


額から脂汗をかきながら、あいは続けた。


爆弾料理ですか...。

でも食べないわけにはいかないしな。

男にはわかっててもいかなきゃいけないときがある!


俺は息を呑み、がぶりとトーストにかぶりついた。

そのまま噛み切り、咀嚼する。


まず、ありえないくらい甘い。

砂糖を入れるというベタな間違いをしたのだろう。それから広がる苦味。目玉焼きの裏が黒焦げだったのだ。そして解凍しきれていないトーストの内部のシャリシャリした食感。


決して旨い料理ではない。


ただ...。


初めての料理。

朝から作ってくれたんだよな。


「やっぱり微妙かな...?」


俺の表情を伺うアイは、

珍しくしゅんとしおらしく、悲しげだ。


なんと答えるか、迷った挙句俺は答えた。


「俺は嫌いじゃない」


「へ?」


きょとんとするアイ。


「と、いうか。俺は好きだ」


俺は一気に自分の分のパンを食べ切る。


「いらないなら、それもくれよ」


アイは嬉しそうに笑う。


「あげない。私のでしょこれは」


そう言って、一気にトーストを食べ切った。


プハーと腹を叩きながら、

「蓮って意外といいやつなんだね」とアイ。


「意外と?どう思ってたんだよ?」


「え?心の狭いくせにプライドだけは一丁前のつまらない弱者男性?」


「言い過ぎだろ」


「うそうそ。朝ごはん作ったかいありましたわ」


「皿かせ。片付けは俺がしてやるよ」


アイのさらをとり、キッチンへと向かう。


「あ!ちょっと待っーー」


あいの言葉より先にドアを開く。


とキッチンに広がる異臭。

シンクに積み上がった目玉焼きを作るには明らかに過分な調理器具。

そこらじゅうにぶち撒けられた調味料。

床に落ちた卵の殻。


ゆっくり振り返るとアイは頭を掻きながら、

「す、すまん」とヘラヘラ言った。


「さてと、全力でお前を成仏させようか」

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