お化けとの話し合い

「どうも幽霊みたいなんですよね。私」


学校の制服らしきものを着た少女は、カーペットすら敷いてないフローリングにちょこんと座り。へへへと笑ってみせる。


「そうじゃないなら通報してる」


お化けらしい少女はこうしてみると、ただの女子高校生にしか見えなかった。が、先ほどから空中に浮いたり、ドアをすり抜けたりとこいつが普通の人間でないことは明らかだった。ようやく少し落ち着いた俺は、こうして少女と話し合いをすることにした。


「そんなそんな。ほんとは嬉しいんじゃないの?部屋にこんなキュートなお化けが現れて」


「霊媒師呼ぶわ」


「ちょいちょいちょい!それだけはやめて!」


「じゃあ、でていけ!怖くて夜も寝れんわ。どっかお前の場所があるだろ。墓とか」


「いやー、それがわかんないすよね。何にも。私が誰かも」


「記憶喪失ってことか?」


「いえす」

ぱちんと指を鳴らした少女は、

「あ、でも名前は覚えてるよ」と笑みを浮かべる。


「アイって名前。だった気がする」


指パッチンとは、

さっきからやけに調子のいいお化けだ。


「アイ、ね...。いちおう言っとくと俺は竹江蓮だ。でだ、アイ。幽霊とかって未練があるから、なるもんだろ?それも覚えてないのか」


「いえす、オボエテマセーン」


能天気な...。

ふざけた口調に呆れると同時に苛立ちを覚えた俺は思わずため息をつく。


「ふざけるんだったら話は終わりだ。成仏できなくて変な化け物とかになるんだろうなお前は」


「え、ひどい...」


しかし、そうするとアイは急にそのおちゃらけた態度を翻し、しゅんと項垂れた。


「え?」


「私だって不安でいっぱいで、う、う、そんな中精一杯元気に振る舞ってるのに、うう」


それから涙を隠すように両目を手で覆い隠す。

その殊勝な様子に俺はどうすればいいのかわからなくなってしまった。


こうして見ると普通の女子高生だ。

無論、俺より年下だろう。

いい年をした男がこんな風に女の子を泣かせてしまったのだと思うと、罪悪感が芽生えてきた。


そりゃそうだ。

こいつだって記憶もなく、いきなりお化けになって不安なんだろう...。

あまりに子憎たらしい態度につい言いすぎてしまったが、これは健気にも無理に明るく振る舞っていただけなのだ。


「すまん。ちょっといいすぎた」


俺は小さく頭を下げる。


「ぐすぐす、ひどいよ...」


アイは顔を伏せ、グスグスずびずびと鼻を啜る。


「悪かったって。泣きやんでくれよ」


どうしたら泣き止んでくれるだろうと思案していると、


「あ!いいこと思いついたー!」


突然アイが飛び上がった。

その目元に涙のあとは一切ない。

嘘泣きですかコノヤロー。


「私の記憶を戻すのを手伝ってよ。未練の解消と」


「え?」


「そうしたら私もめでたく天国に行けるし。うん。悪くない」


「いやいや、俺は普通に霊媒師呼んでお祓いでいいんだが」


「甘い甘い。そんなの効かないっすよ。来るのわかってんなら逃げればいいし。帰ったらこの部屋戻ってくればいいし。そんなことするならあれだぞ?一生ついたり離れたり、もうずっと付きまとうぞ?ん?いいんか?」


アイはチッちっちと指を左右に振る。

確かにこいつの言うことも一理ある...。


そもそもこんなわけわからん存在に霊媒師なんて効くのか?

それに金もかかるだろう。


とっととこいつの未練を解消させて、

成仏させた方が結果的に早い可能性は高い。


少し考えてから、俺は決めた。


「わかった。霊媒師はよばん。その代わりさっさと成仏しろよ」


「おふこーす。もちろん!」


アイはそう言って手のひらを差し出してきた。

俺はその手を叩き、これで手打ちとする。


大学の二学期が始まるまでのこの夏休み。

少しだけコイツにくれてやろうじゃないか。


「よーっし!じゃあ成仏するまではこの家に住もうと思うのでよろしく!」


「はあ!?ふざけんな。幽霊なんだから外でも大丈夫だろうが!!」


「てかなんかお腹空いたー。お化けもお腹空くんかなあ。なんかないの?この家。がさごそ〜」


アイはそう言いながら、積み上がったダンボールを物色し始める。


「おい、ぐちゃぐちゃにするなよ!」


こいつダンボール触れんのか...?


ん?

そういえばさっき俺こいつの手に触れなかったか...?


「なあさっきさーー」


どんがらがっしゃーん!ぱりーん


アイが物色していたダンボールの山が崩れ、中身が床に散乱。ついでに食器が割れ、飛び散った。

破片が俺の足に刺さった。


「こ、これがポルターガイスト...!」


「やっぱり霊媒師呼ぶわ」

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