記憶喪失のお化けと恋をした

あんらくこう

お化けとの邂逅

「竹江さん、荷物これで全部です!」


汗を拭って、爽やかに頭を下げる引越し業者のお兄さんたち。


「あ、どうも。助かりました。ありがとうございます」|


「いえいえ、夏のこの時期に引っ越しって珍しいですね。あ、ここにサインと代金お願いします。」


「色々ありまして...。ここですね」


俺は【竹江蓮たけえれん】とペンを走らせる。

それからなけなしのお金を代金として払い、丁重にお礼を言って玄関までお見送りをした。


ドアの外は真夏の灼熱。

青々とした空と元気いっぱいの太陽。


爽やかで筋肉質なお兄さんがたと違って軟弱もやしの俺は、短い廊下兼キッチンを通ってすぐに部屋へ戻る。


そして、積み上げられたダンボールの山を見てげんなりさせられる。


今からこれを荷解きか...。


とはいえ、この地方都市のベッドタウンの1kが俺の城なのだ。色々あって少し遅れたがこの夏休み期間でまずは家を整え、夢のキャンバスライフとやらに出向こうではありませんか。


「さあ、やりますか」


グッと伸びをして、ダンボールに貼られたガムテープに手をかけたそのとき。


「キコエル...」


「え?」


どこからともなく声が聞こえたような...。


「ま、まさかな」


「ココニイルヨ」


......。んなあほな。


「ありえんありえん!」


気のせいだと言い聞かせるようにひとりごちり、ダンボールのガミテープをビリビリっと剥がす。


「キコエテルノ...?」


耳元で囁かれるような感覚。


「ひ...!?」


毛が逆立つように寒気がして、飛び上がる。


「誰かいるのか...?」


返事はない...。気のせいか?


視界に入る備え付けの大きなクローゼット。


まだ何も収納していない今、人が1人くらい余裕で隠れられるだろう。

俺はクローゼットの取手に手をかけ、喉をならす。


気のせいであってくれ...!

祈りながら勢いよくクローゼットを開けた。


しかし、中は空っぽ。人どころかゴミひとつない。


俺は恐る恐る部屋を改めていく。

トイレ、風呂場、ベランダ、ベッドの下。


でもどこにも、誰もいない。


だが、


「キコエテルヨネ...」


...ええ、聞こえています。


「引っ越してそうそう事故物件ですか...。勘弁しろよ!」


少しずつ後退り、玄関に向かって勢いよく振り返った俺。


その瞬間。


「ハロー」


天井から垂れる逆さになって少女。

少女の眼球はぎゅるんと動いて白目を剥いた。


「ぎゃあああああああああああああ」

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