第14話 美冬
母の帰宅はいつも遅いけど今日はまた特に遅かった。
「お疲れ様、忙しいの?連日遅いね」
「忙しい忙しい。議会もあるし人手も足りないしでてんやわんやよ」
そういいながら、母は買ってきたものをテキパキと冷蔵庫にしまってる。
うちは朝がメインで、夜は各自が好きなものを食べるという家庭で、母は、これがドイツスタイルなんだと言い張っている。
なんでもドイツでは夜は火を使わないものを簡素に食べるんだそうだ。
そのために常時、冷蔵庫にはプチトマトにスプラウト、千切りキャベツや、生ハムに魚肉ソーセージ、チーかま、納豆、温泉卵、豆腐などそのまま食べられる素材がストックされてるし、冷凍庫にもいろいろ。
夜はそんな感じで超軽いのが我が家なんだけど、とはいえ、母はこんなに遅く帰っても朝は早起きしてあれこれ料理する人だから、本当に頭が下がる。
でもその分、行動が早くて、帰ったかと思うとあっという間に就寝してるので、話すタイミングは非常に限られてる。
「ね、なんか伊東先生のこと知ってるんでしょ?何なの?」
「うーん」
と言いながら、母はスーツ脱いでハンガーにかけてジャケットにスプレーを噴射。そして言った。
「まあいいか、この話は知ってる人はみんな知ってることなんだし。
あのね、今回の件は自殺で処理されることになったみたい。
遺書はないけど、争った形跡なし、争ってる目撃証言もゼロ、伊東先生の周辺にもトラブルらしいトラブルなし、柵についていた指紋も伊東先生のものがべったりってとこが主な決め手ね。
身内は叔母さんがいるくらいで、ご両親は早くに亡くなられてて叔母さんが親代わりなんだけど、彼女が遺体の確認をして引き取ったみたい。
で、警察はともかくわたしたちのほうでも多分そうなんじゃないかなって思ってた理由は、伊東先生にはお姉さんがいたの、先生の3つ上で小学校の教師だった人」
「うん、それで?お姉さんがいることなんてまるで知らなかったけど、それが何?」
「彼女もね、2年前の春に自殺してるの。その時はちゃんと遺書もあったし問題なく自殺で処理されてるんだけど」
「え、びっくりなんだけど」
「榊公園、わかるでしょ?あそこの桜の木で首を吊って亡くなったの、伊東先生のお姉さん」
……絶句。
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