第6話 美冬
ランチタイムは学校のカフェテリア。
「ヤンソンさんの誘惑」っていう謎の料理はグラタンだった。スウェーデン料理らしい。アンチョビの塩気がきいてて、表面のパリッとした焦げがとっても美味しい。
食べながら、悠が衝撃の発言。スプーン持ったまま口元で手が止まる。
「え、悠、伊東先生と話したの?それが昨日ってこと?」
思わず大きな声が出てしまう。
「うん、そうなの、昨日の昼休みに。それでなんかすごく気になっちゃって」
恵梨香がいつもの口調で言う。
「そりゃ気になるよー本当だったらうちの学年はあまり接点ないよね?伊東先生と」
「そうだよ。だって地学見てるのは1年生だけだし、部活の顧問も天文部と化学研究会だったかな。基本的には絡みない先生だから周りは顔も知らないって感じの子結構いたもん。どんな感じだったの?その時」
興味津々も品がないけど、知りたくてつい聞いてしまう。
好奇心丸出しにしないように、スープ飲んでさりげなさ偽装。多分できてないけど。
「それがね、図書室で資料作ってたんだけど、時間余ったら読もうと思ってた本を借りてあって、机に載せてたんだ。そしたら伊東先生が通りかかって、その文庫の表紙を見て、『面白い?これ』って。
それでわたしが、『まだ上しか読んでなくて今から下巻なんですけど、ものすごい面白いですよ、かなりお勧めです』って激推ししたら、
『じゃ、予約いれとこう』って言ってにっこりとして立ち去ったの。
ほんとそれだけなんだけど、でもなんか自殺説出てるよね?気になっちゃって」
「うん、それ聞いた。争った形跡もないしそうじゃないかって話が有力なんでしょ」
「予約いれようって言って今から本読もうとしてるような人が、自殺するかな?確かに誰でも突発的にってことはあるのかもしれないけど、なんか腑に落ちない。事故にしては夜に一人で屋上の柵越えて落ちる事故ってなにって思うし」
「仲のいい先生方には一応ちょっとは聞いてみたんだよね。新聞部顧問の山田先生とかに。でも一様に驚いてショックうけてた。特に悩んでるとか困ってるとかの様子もなくて、担任は副担任だし問題かかえてたようにみえないし、静かな先生だけどとりたててトラブルなんてなかったようにみえたけどなって。まあ先生方ももしトラブルあっても軽々しく言えないだろうけど、とはいえ、含みがあった感じではなかったしとにかく何も思い当たらないって感じで」
そこまで言って、昨日の朝の母の含みのある言い方を思い出す。
何かあるんだろうか、伊東先生には。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます