第5話 悠
想像以上に学校はざわついてた。ひそひそと事故の話が囁かれているようだった。早くゆっくりみんなと話したい。今日は急には無理だから、明日の予約を押さえておこうと、新館1階のカフェテリアに向かう。明日のメニューは、「ヤンソンさんの誘惑」がメイン。スープは「コンソメジュリエンヌ」。うちはカフェテリアのレベルがとっても高くてメニューもなかなかいけてる。朝一で寄ったおかげで、すんなり予約がとれた。4人分。事後報告だけどLINEいれる。
「明日のランチ、カフェテリアの予約いれたんだけど大丈夫かな。メニューはヤンソンさんの誘惑とスープとかだけど」
即、既読がつく。そして美冬と透子からOKの返信。
恵梨香からも「ヤンソンさんの誘惑てなに」というのんきな文面とともに了解のLINE。
今日は課題研究の授業をとってるので7限までみっちり詰まってる。うちは単位制高校っていうのも一つの売りみたいで、わたしのようにみっちりコマを詰めてる生徒もいるし、茶道とか趣味系講座をあれこれとってる生徒もいれば6限以降はスカスカの子も。準備がまだできてないので昼休みも図書室に寄って資料の手直しいれないといけないんだった。
講堂で緊急の全校集会が開かれて、校長から一応の説明があった。伊東先生に不幸な事故があり、お亡くなりになったとのこと。噂どまりの話がはっきりしたってことで、悲鳴ともなんともつかない声が漏れる。クラスの子たちともその後、駐車場で遺体が見つかったとか、救急車が夜中にサイレンならして学校のほうに向かってたとかの噂話の交換が続く。いつもと違うクラスルームの温度。ざわざわした雰囲気はおさまることがない。
昼休みは図書室で、調べ物プラス作業。一年からとってる課題授業のための作業。一年の時は、高校生ってこんな勉強するんだって新鮮で楽しかったしその流れでとった二年目の今なんだけど、なんかこういう授業の限界みえたっていうか、できることなんて限られてるよなって思ってちょっと乗れてない感じ。必要最低限やるべきことだけやって、一息ついて、そして思う。昨日、この時間この場所で、伊東先生と会話したんだった。あの時の会話を一字一句思い出そうとする。机の上には昨日と同じように文庫本を置いておく。この本のことで先生が話しかけてきたんだったな…
7限は視聴覚室に移動。一年二年の課題授業とってる生徒たちがぱらぱら集まる。大西先生と千葉先生も来てて何か打ち合わせしてる。千葉先生を見るとちょっと安心してちょっと動揺する。ここのところ毎回。
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