第85話 先走り愚王と英雄王殺し

 おのれ世界塔攻略連盟め!

 おのれ私を侮辱した愚か者どもめ!!

 もうすぐ目に物を見せてくれよう!!!


 そう意気込んで将軍や貴族たちを招集してやったぞ!

 王国を挙げての戦略会議であるっ!


 まず落とすのは当然キタリスからだ。

 奴らを容赦なく殲滅、男は労働奴隷に、女は性奴隷として飼ってやる!

 さらにそれを足掛かりにして世界を征服してくれるわ!


「大変です陛下!」

「なんだ大臣? 私は将軍たちとの会議で忙しいのだ。見てわかるだろう」

「それどころではありませんよ! 世界塔攻略連盟から緊急の通達が!」

「ふん、そんなの無視すればよい。私が発言できぬ会議など無意味だ」

「ですが今度も我が国の参加を指名してきております!」


 大臣め、変に慌てよってまったく。

 だからなんだというのだ、もはやそんな会議など何の意味もないというのに。


 ……まぁいい、適当に参加して手早く済ませるとしよう。

 幸い、この会議室にも会合装置はあるからな。


「皆の者、しばし静かに待っておれ」

「「「はっ!」」」


 雄々しい部下たちの返事の下、我が座席に備わった会合装置を起動する。

 すると机上の左右正面に半透明の映像が投射された。


 ううむ、鏡式の奴より見難いが何だかかっこよいぞ。

 最初からこれを使えば良かったか。


「ラグナントが来たようですね。それではさっそく会議を開始しますが、それにあたり皆さんにあらかじめ伝えておかねばならないことがあります」


 ええい回りくどいことを。

 こちらは忙しいのだ、そんな段取りなどいらぬわ。


「実は数か月前より音信不通となっていたエルフ代表たちの一人、聖広森の聖王がコンタクトを取ってきたのです」

「「「なんと!?」」」

「打ち明けたい話があるということですのでどうか聞いていただきたく存じます」


 なんだ、またユーリス絡みか。

 いい加減にせよ、付き合わされる身にもなれ小国風情が!


「……久しく顔を見せなかった者の招集を受けて頂き感謝する」


 うっ、な、なんだあいつは!?

 樹の幹のような顔をしている!?


 しかしあれがエルフだと!? バカなことを言うな!

 エルフとはこう、美しく細身で柔らかい肢体を持つ者であろう。

 抱いた時の肉感も実にたまらんという種族であったはず!


「我が森の里は長らく魔物の脅威に晒され、全滅の危機に瀕していた。しかし先日より瞬く間に状況が好転した。三つもあった定着ダンジョンが一挙に攻略されたのだ」

「「「み、三つのダンジョンを一挙に!?」」」

「「「そんな奇跡がありうるのか!?」」」

「そしてそれを成したのはアディン=バレルという人間の率いる仲間と、グレイズという団体だった。彼らには感謝してもしきれぬ」


 またしてもアディン=バレルか……!

 クッ、なぜ薬士ごときがそこまでできるのだ!?


 まさか奴をアルバレストから離脱させたのは間違いだったのでは……?


「その話はこのグワントさえ聞き及んでいなかったぞ。そうかそうか、グレイズもがやってくれたか、ふはははっ!」

「ですがやはりはアディン=バレル。期待を裏切らない男ですね」


 いいやしかし私は過去を振り返らぬ王だ!

 奴らのぬか喜びには騙されぬぞ!


「……だが私が皆を招集したのはそれが理由ではない」


 ぬぬっ!?

 ではなんだというのだまどろっこしい!


「実は我が森にはかつて若かりし頃のデリス王より贈られた退魔神器、聖界の宝珠があった。貴殿らが国宝にするほどの強力な代物だ」

「「「なんと、あのデリス王が!?」」」


 えっ……?

 父上が贈った宝玉、だと?


 私は知らんぞそんなもの。

 そんな話、父上からは聞かされていない……!


「しかし数か月前、突如としてその宝玉の力が小さくなった。デリス王の魔力が多大に籠った神器が、だ。その意味は貴殿らにもわかろう?」

「ええ、たしか魔導器は魔力を込めた者の意思が強く反映されると聞き及んでいますわ」

「だがなぜ小さくなる? 我が帝国の宝玉は二代前もの魔術士が造ったものだがそんなことは起きておらぬぞ?」

「それはデリス王が不慮の死を遂げたからだ」

「「「なっ!!!??」」」


 ……え?


「神器ほどの器に魔力が籠れば、当人の強い意思が濃く反映される。ゆえに無念の死を遂げればおのずと魔力がよどみ、拡散してしまう」

「そ、それはつまりデリス王が何者かに殺されたと!?」

「そうだ」

「「「それは一大事では……!?」」」


 なっ、なにぃ……!?

 どうしてそんな流れになる!?

 なぜ父上が殺されたことが露呈される!?


 あれは私が完璧に隠蔽したはずだ!

 毒を塗ったグラスも処分し、吐いた血も大臣と共に処理した!

 その行いを知っているのは大臣しかおらぬはずなのになぜぇ……っ!?


「そのことの真相を聞きたくて現ラグナント王を呼んだ。聞かせてくれ、どうして我が親愛なるデリス王は逝ったのかを」


 う、ううっ……!?


「実は貴殿は何か知っているのではないか?」

「「「ざわざわ……」」」


 ……ははっ、そうかわかったぞ。

 これはまた奴らの仕組んだ茶番だな?

 つまりここでさらに私の株を下げるために父上殺しをでっち上げたのだろう。


 フン、腹黒い奴らのしそうなことだ。

 実に愚かしい!


 ならば相応の答えを返すまでだ馬鹿者どもめが。


「ハッ、言いがかりも甚だしい。私が父上を殺したと言うのであれば証拠を出すがいい! そんな物は存在しないがなあっ!」


 ハハハッ、言ってやったぞ。

 そう、証拠など何も無いのだ!

 それなのに適当なことを言いよってからに!


「あ、あなたは何を言っているのですか?」

「……え?」


 な、なんだ?

 急に場が静かになったぞ……!?


「どうして誰も疑っていないのに〝父殺しの証拠を出せ〟などと言うのです?」


 ……は? えっ?


「我々もこの話は今聞かされたばかりで事情もわかりません。しかしあなたは急に〝自分が親を殺していない理由を出せ〟と言う。誰も求めていないのに。それはデリス王を殺した自覚があなたにあったからなのでは?」

「え、あ、いや……」

「もしかしてあなた、本当にデリス王を殺したのですか……!?」


 あ、あああ……!?


「あの顔はまさに〝やっちまった!〟って顔だな。これはもはや黒だろう」

「ですね。もう議論を挟む余地はなさそうです」

「「「なんたる暴挙を……!」」」

「許しがたいことです。あの英雄王デリスを殺して王に成り代わるなどとは……!」


 なっ、あのババァいきなり消えた!?

 いや、他の奴らもどんどん消えていく!?


「おうおう、こりゃ世界各国を怒らせちまったなぁミルコ国王さんよ」

「グワント……!?」

「特に議長――フィンドールのケレンは激怒もんだろうよ。なにせあいつ、未だデリスのことを愛しているからな」

「んな……っ!?」

「復讐に燃える女は怖いぜ? ま、せいぜいがんばれ愚王閣下。じゃあな」


 最後まで残っていたグワント代表も嫌味を言って消えてしまった。

 クソッ、これではもはや私の立場が無いではないか!


 ええい、こうなったら世界征服を真に実行するまでだ!

 見ておれ愚か者どもめが、必ず地べたに這いつくばらせてやる!


「余興は終わりだ皆の者! 今すぐ世界制覇を推し進める時である!」


 見よ、この将軍たちの鋭くやる気に満ちた眼差しを!

 皆の者が怒りに震え、噴気を露わにしておるわ!


「今のは本当の話か、ミルコ=カイル=ラグナント」

「……え?」

「デリス王を殺したのはあなたか、と聞いている!」


 ……あれ?

 え、ちょ、待っ――


「いや、もはやこれさえ愚問であろう。今の話の流れからデリス王が殺されたことは疑いもないこと。なればこれまでよ」


 将軍や貴族たちが席を立ち、次々に部屋の外へ歩いていく!?

 ば、馬鹿な!? 奴らは私に忠誠を誓っていたのではないのか!?


「今まであなたの我儘に付き合ってきたがもう付き合いきれぬ! 我が親愛なるデリス王陛下の命を奪った罪は重いぞ……!」

「現国王でなければ縊り殺している所だ!」


 う、うう……!?

 勇猛有能と謳われた者たちが一挙に去ってしまった……。

 残ったのはたった五人の名も知れぬ貴族と大臣だけ、だと!?


 ええい、こうなったら!


「くっ、ではお前たちに将軍の地位を授ける! 私のために忠義を見せよ!」

「「「えっ!?」」」


 そう、これでいいのだ!

 忠誠を見せぬ者たちなどもはや必要無い!

 私とこやつらで兵を動かせばいいだけなのだからな!


 そして私に歯向かった者たちは全員処刑だ!

 そうだ、反逆者どもは処刑してやろうぞ! ふははははーーーーーーっ!!!!

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