第79話 支配に抗いし男と仲間たちが繋いだ一撃

 瘴気の影響が完全になくなった訳ではない。

 今投与した薬もどう作用しているのかわからない。

 ゆえに今の状況がいつまで続くかもわからないのだ。


 だからこそ俺は迷わず走りだした。


 奴も俺に気付いたようで再び体を回し始めたが関係無い。

 またしても尾腹に飛び乗り、さらには刃を突き立てながら回転に逆らうようにして走ってやった。


「ギャッギイイイイイ!!!??」

 

 そうしてやれば次第に尾腹の先側がよじれ、「ブチブチ」という鈍い音とともに傷口から体液が撒き散っていく。

 膨大な体積質量に負け、自重で引き裂かれ始めたのだ。

 

 そんな中で魔王級が針を再び俺へと向けて撃ち出す。

 しかしその針もピコッテが防いでくれていて。


「アディンさん行ってくださいですーっ!」

「恩に着る! 今度こそはっ!」


 地に足も付いているから撃ち漏らしも避けることができる。

 だからと俺は素早いステップを踏みながらピコッテを見送り、奴の下へと走った。


 あとはどうやって本体にまで届かせるかだが――


「アディンッ!」

「――ミュナッ!?」


 しかしそう悩む間もなく、俺の元にミュナが真っ直ぐ飛んでやってきてくれていた。


 そうだ、悩む必要はなかったんだ。

 俺たちにはこれ以上ない対空戦力が存在するのだから。


 今ならこのダンジョンの中でも自由に飛ぶことができるらしい。

 きっとこの連戦で精霊の力がこれ以上なく高まっているんだ。


 しかも瘴気に侵された俺でも飛ばせるほどに!


「頼むミュナ、俺を奴の頭上へ!」

「わかった!」


 ゆえに俺は今、ミュナと共に宙へ飛んでいた。

 それもあっという間に魔王級と同じくらいに高い場所へと到達するほどに速く。


「な、なんじゃとお!? 空を飛んだあっ!?」


 ティアの驚く声が聞こえてくる。

 その顔が目に浮かんできそうなくらいの動揺っぷりで。


 そんな大賢者も知らない偉業を見せつけつつ、俺は奴へと向けて跳ねていた。

 今だけは精霊も俺の意思を汲んでくれているようで、その力を存分に借りた上で。


 狙うは奴の頭部。

 黄色く堅そうな甲殻へと向け、剣の刃を一気に突き出す。


「――ッ!?」


 しかしやはり普通の剣では刃が通るので精一杯だ。

 先端が突き刺さっただけで、これ以上深く突き刺すことも叶いそうにない。


「キイイイイイイイ!!!!!」

「ぐっ、こいつっ!? 暴れるんじゃないっ!!!」


 それどころか奴が頭を左右に回し始め、俺を振り落とそうとしてくる。

 がっちりと刃が刺さったおかげで剣を支えに耐えられてはいるが、これでは決定打に至れそうにないぞ!?


「こうなったら誓いの短剣でっ!」


 そこで俺は腰裏に備えていた短剣を抜き、奴の表皮を突く。

 これこそ難なく突き刺せはした。


 ただ刃が短すぎて表皮を抜ききれていない。

 頭部だけでも人の何倍もある大きさなのだ、こんな物が効くとは到底思えないぞ!?


 どうすればいい、どうすれば……!


「こっちを見るんだアディーーーンッ!」

「ッ!? シルキスかっ!?」


 そう悩んでいた矢先、シルキスの大声が俺の耳に届く。


「これを受け取れえええーーーーーーッ!!!!!」


 そうして惹かれるがままに振り向いた時、シルキスが俺へと向けて何かを放っていた。


 剣だ。

 彼女の持っていたロングソードが空を裂き、俺へと向けて突き抜けてきたのだ。

 しかもその狙いは完璧。

 飛び出せば受け取れるほどに高い位置にまで一瞬で到達した。


 ゆえに俺は無我夢中で飛び出し、剣をガシリと受け取る。

 その最中に振り返り、気流に乗って一気に飛び上がった。


 どうやら精霊はまだ俺を支えてくれていたらしい。

 だからこそすでに俺は魔王級のさらに上空へと上がっていて。


「キャオオオオオ!!!!!」

「やらせないんだからーっ!」


 そんな俺へと目掛け、蔓が天井から伸びて襲い掛かってくる。

 しかし即座にミュナが叫びを上げると、なぜか蔓同士が絡み合って動きを止めた。


 さすがだなミュナ、木々まで操れるなんてさ……!


「その剣に意思を込めよ! それには我が魔法の力が存分に注がれておるっ!」


 その最中にティアもが叫び、俺へと伝えてくれた。

 託してくれた剣の力を、その秘密を。


 だから俺は必死に願ったのだ。

 魔物を斬ること、滅することを。


 そのためにもこの一太刀にすべてを賭けるのだと。


「ウゥオオオオオオオオーーーーーー!!!!!」


 すると途端、剣が輝いて青い光を放つ。

 それもまるで刃の如き形状を形成しながらに。


 ……そうか、そういうことか。

 見てその瞬間にわかったよ。

 これは「そういうことができる武器」、伝説級の名剣なのだとな。


 しかもそれだけじゃない。

 なぜか誓いの短剣までが赤い光を放ち始めていたのだ。

 まるでシルキスの剣と呼応しているかのように。


 そう理解した時、俺はもう何も迷うことなどなかった。

 力の限りに二刃を振り被りながら魔王級を見下ろしていて。


 あとはただ無心で、全力で両腕を振り下ろすだけ。

 この森を侵す脅威を、害悪を滅するためにという思いのままに。




 そして着地を果たした時、俺はそっと見上げるのだ。


 縦真っ二つに両断されて力なく落ちていく奴を見届けるために。

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