第74話 頼りになる奴らと全滅寸前の精鋭たち

 俺たちがA級パーティ・グレイズに打ち出したのは、前代未聞のダンジョンはしご作戦への参加依頼。

 普通の奴らなら速攻で断りそうな話だが、もしかしたらジールなら少しは協力してくれるかもしれない。


 そう僅かに期待して打ち明けたのだが。


「いいぜ乗ったぁ!」

「んなっ!?」


 ……まさか即答でOKかよ。


「お前らー! 聞いてたかーっ!? アディンの野郎、ダンジョンを連戦するつもりらしいぜーっ!?」

「マジッ!? キャハハッ、なにそれ人辞める気満々じゃん!」

「その狂気じみた性格は変わりないようですね。安心しました」


 するとジールの掛け声に合わせて二人の人影も降りて来る。

 ジールに同じく槍を持った蒼づくめの装備の男女だ。


 天真爛漫なアトゥルビーと冷徹毒舌のエルクリス。

 この三人がいわばグレイズの三本槍、中核的存在と言われている。


「お前たちに狂気じみていると言われたくはないよ。全滅間近でも戦いを楽しむなんて真似、俺にはできないからな」

「あなたがおかしいのは何でも有言実行してしまう所ですよアディン=バレル。一人で魔王級を倒したと聞きましたが、それのどこが普通だと?」

「普通だが?」

「は?」

「はいはーい、どうどーう、馬並みに暴れんのはベッドの中だけにしよー」


 クッ、エルクリスめ。

 コイツの口調で話されるとついつい反論してしまう。

 褒めてくれているとはわかっているんだけどな……。


「んでマジなん? ダンジョンはしごとか体力もたねーっしょ」

「それができなきゃエルフの里が滅ぶ。何が何でもやり遂げなければならないんだ」

「左様。ゆえにその足掛かりとしてこのダンジョンを制した訳じゃ」

「アンタはぁ?」

「ティアという。エルフの大賢者と呼ばれておる者よ」

「ほぉん。聞いたことはねーが、なんとなくヤバイ奴ってことはわかった」

「しかし今はヤバ☆美しい我のことを悠長に説明している余裕もなくてな」


 そうだった、こんなことをしている暇は俺たちにはない。


 それにできるかどうかなんて議論するだけ無駄だな。

 やりきればいい、ただそれだけなのだから。


「……オーケー。ま、返事はさっきした通りだ。お前らもそれでいいな?」

「うぇーい!」

「仕方ありませんね、付き合いましょう」

「契約内容は露払い、場合によっちゃ攻略手伝い。その際の報酬はギルド経由できっちり払ってもらう。それと特別報酬としてお前らの分け前の二割を寄越せ」

「ああそれで構わない」

「っしゃあ! やんぜお前ら、久しぶりの死戦だァ!」

「「「フゥーーー!!!!!」」」


 何はともあれ、これでグレイズは引き入れられた。

 次はヘーレルたちの安否の確認だ。


 それで彼女たちが隠れている所へと案内されたのだが、予想よりも酷い惨状に驚いてしまった。

 全員が血まみれでボロボロ、立つことさえままならない状態だったのだ。


「き、聞こえたぞアディン=バレル、奴らを仲間に引き入れ、られたのだな」

「あ、ああ……」

「ならば我らの用は、もう済んだ。捨て置くがいい、我らは、もう、本望だ」


 中には倒れて動かず、仲間に「起きろ!」と懇願されている者も。

 グレイズが来るまでの間、ギリギリまで戦い続けていたのだろう。


「さぁ行け、我らはもう、長くは――」

「そこに倒れている人は息を引き取ってどれくらいだ?」

「えっ? あ、い、今しがたほどで」

「なら蘇生する」

「は?」

「速攻調薬、〝蘇生復活薬リバイバー〟!」


 死者がいるなら時間との勝負となる。

 ゆえに有無を言わせず薬を調合し、すかさず倒れていた者の口へ流し込む。


「――ぐっ、ごぼっ、がはっ!?」

「えっ!? ミアが生き返った!? こんなことってあり得るの!?」

「まだ息を吹き返しただけだ。次に特製のヒールポーションを投与する」

「ゴク、ゴク……ハッ! ああっ、体が軽い、軽いです!」

「そんなバカな!? つい今まで死んでいた奴がもう立ち上がっただと!?」


 どうやら間に合ったようだ。

 たとえ死んでも、それほど時間が経っていなければこうして蘇生は可能だしな。


「お前たちにもヒールポーションを飲ませるから口を開けろ」

「あ、いや、私たちは自分で」

「いいから言うことを聞け!」

「は、はい!」


 この調子で残り五人にも回復薬を投与する。

 すると全員がたちまち立ち上がれるくらいに回復だ。


「心遣いに感謝する。……しかし蘇生薬なんて、そんなものが存在したとは」

「仕組みがわかればヒールポーションより簡単な薬さ。強化薬と同じで調薬直後にしか効果が出せないがな」

「しかしありがたい……!」

「けれど体力までは戻らないから携帯食料などをカロリー摂取をしておいてくれ。戦う気がまだあるならな」

「ああ、もちろんだ。我々はまだ戦える!」

「「「はい!」」」


 彼女たちからはまだ士気は失われていないらしい。

 これならまだ戦えそうだな。


 それなら準備も万端だ。

 魔王級が潜んでいるであろう定着最初期のダンジョンに向かうとしようか……!

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