第73話 精鋭部隊の安否と予期せぬ増援
精鋭部隊の一員が魔物憑きになっていたことは衝撃的だった。
しかし一線を乗り越えたことでみんなの結束が強くなった気がする。
おかげで俺たちは難なくダンジョンのボスを発見し、討伐することができた。
相手は人の十倍ほども巨大な、刺々しいカマキリのような魔物。
六つの鎌腕を振り回し、尾からは毒液を見舞ってくる恐ろしい相手だ。
だがなんてことはなかった。
ミュナの精霊術による牽制と開幕のティアによる大魔法によりほぼ秒殺である。
「アッハッハ! 愉快痛快大爽快じゃあ!」
やはり俺の見立ては間違い無かったようだ。
ティアの魔法の実力は今まで見た誰よりも圧倒的に高い。
きっとシャウタが見たら腰を抜かすに違いないな。
……しかし愉悦に浸るのは後回しだ。
「ふんぞり返っている暇はないぞ! ヘーレルたちの安否も気になるんだからな!」
「うん、急いで戻ろ!」
「ちぃ! 少しは誇らせてくれてもよいだろうに!」
今は一分一秒でも惜しい。
この後続いて魔王級がいるであろう最初期ダンジョンをも攻略しなければならないのだから。
俺たちが遅れれば遅れるほどエルフの里が危機に瀕するということを忘れてはいけない。
だからと俊敏薬を使用し、残党を駆逐しながら出口へひた走る。
まずはヘーレルたちの下へ早く戻るためにもと。
――だったのだが。
「なっ……!? こ、これは……!」
出口へと戻った途端、俺たちは思わず驚愕してしまったのだ。
ダンジョンのすぐ外で起きていた光景を目の当たりにしたことによって。
数知れず襲い掛かって来る魔物たち。
それらを間髪入れず切り裂く人影。
狭く薄暗い森の中を幾多もの影が飛び交い、斬り、血飛沫を上げさせる。
だけどもはや一方的な戦況だった。
魔物などに攻撃させる余裕すら与えていなかったのだから。
「いよぉアディン=バレル。ずいぶんと早い御帰りじゃねーか」
そんな中、突如として俺たちの前に一人の男が飛び降りてきた。
蒼の軽鎧を身に纏い、細く長い二又槍を頭上へかざしながらに。
だが俺は、この男の顔を知っている!
「まさかお前は……ジール=ウェンバニアか!?」
「おっ、ありがたいねぇ。オレの顔を覚えててくれてよぉ」
そうだ間違いない。
グレーの逆立つ短髪に面長の整った顔。
この濃い蒼色にこだわった装備と槍さばき。
速さを重視した戦闘スタイルの構成。
こいつらはいつか俺たちと肩を並べて戦ったこともある。
A級パーティ、グレイズ。
A級の中でもとびきりの実力派と言われたグワント帝国の国宝パーティだ。
「どうしてお前たちがここに!?」
「決まってんだろ? オメーが来たからだ」
「んなにいっ!?」
「オメーがいたら面白いことになるのは明白だろーが。だからとこっそり着いて行きゃやっぱ面白いことしてやがる! ハハッ、さすがだよトラブルメーカー!」
「まるで問題児みたいに言うんじゃないよ」
「違いないだろうが。ま、ギルドの命令で独断先行できなくて飽き飽きしていたからな、丁度いい切り口になったぜー?」
くっ、あいかわらずの狂人っぷりだよジールめ。
魔物の集団を前にしてここまで楽しそうに不敵な笑みを浮かべられるなんてな。
「――ま、安心しな。オメーらのおまけエルフどもはまだ生きてるはずだ。とはいえまぁ頭のおかしくなった一匹は奇声を上げた途端に勝手に弾けて死んだがな。あぁ~なんだったんだ、あのマンドラゴラエルフ?」
「ああ、それは多分魔物憑きになってしまった奴だ。だから今は気にしなくていい」
「そぉかい」
だけどこれ以上ないほどに頼もしい援軍だ。
たしかにジールはブッ飛んだ奴だが悪人じゃない。
国宝パーティになる前にも共闘したことがあるが、スマートに効率を重視する戦い方は見本にもなったくらいだし。
彼らの協力を得られればもっと早く状況を覆せるかもしれない。
「それにしても随分とエゲつねぇ状況じゃねーか、魔物憑きなんてよ」
「ああ、でも来てくれて助かった。彼女たちを助けてくれて本当にありがとう」
「ついでだから気にすんな。後で報酬を乗せてくれりゃいい」
「はは、あいかわらず抜け目がない……だが存分に期待してくれて構わないぞ?」
「ほぉ?」
「手を貸してくれ。俺たちはこれから最初期ダンジョンを攻略する予定でな、その手助けをして欲しいんだ」
「マジかよっ!? 冗談……じゃなさそーだな」
とはいえいくら変人揃いのグレイズでもこの話はそう簡単に引き受けられる話ではないだろう。
なにせ前例のないダンジョンはしご作戦なんだからな。
これは本来なら何パーティも集めてローテーションするような戦いだ。
それを俺たちだけで即日で済ませるなんて、普通に考えて正気の沙汰じゃない。
だからジールもこれにはさすがに躊躇するだろうな。
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