第71話 絶好調な仲間たちと薬士の真髄
「キャッハー! ボッコボコなのですーっ!」
どうやらピコッテに限ってはフルライザーの副作用がより強く出ているらしい。
あまりにテンションが上がり過ぎて二回目をキメたらまた一人で前線に突っ込んでしまった。
体が特別小さいから普通の人より効果が強く出るのだろう。
今だけは助かるが、今後依存しそうなので普段使いは辞めておこうと思う。
「彼女のおかげで想像していたよりずっと楽だね! 今なら君の自信がよくわかるようだよ!」
「ああ、この強化薬は本来ならここ一番って時にしか使えないくらい中毒性も大きいけど、効果は抜群に高い。これのおかげで俺は今まで戦えてきたようなものさ」
シルキスも冷静さを装っているが、会話の最中でも剣を奮う手が止まらない。
まるで頭の裏にも目があるかのような隙のない剣さばきを見せつけてくれている。
集中力も格段に上がるからな、今のあいつはきっとこの空間すべてを把握できているはずだ。
ただミュナの精霊攻撃はフルライザー投与後も変わらなかった。
精霊攻撃はおそらく彼女自身の能力に依存しないのだろうな。
そう仲間たちのコンディションを探っていると、シルキスがチラリとこっちを向く。
「まさかとは思っていたけど、もしかして君、本当にあのアルバレストのアディン=バレルなのかい?」
「その通りだ。元アルバレストメンバーだけどね」
「なんじゃシルキス、知っておったのか?」
「むしろ知らない訳がないよ、彼は最年少で魔王級を討伐した伝説的パーティのメンバーなんだからさ」
さすがシルキスだ、やっぱり気付いていたんだな。
「最初は眉唾ものだったけど、実力の秘密が知れてやっと理解した。君の実力はとんでもないね。特に身体能力ではなくその能力管理の手腕がさ」
「そうか?」
「ああそうさ。だって今の君、僕ら全員の能力を把握しきれているんだろう?」
しかも察しが鋭いときたか。
フルライザーの効果があるからとはいえ、そこまで察せた奴は希少だ。
「その上で薬の効果や継続時間、体力や魔力の持ちなども計算し尽くしていると見た。君の目には全員のステータス状況がまるで数値のように見えているんじゃないかい?」
「そうできないと後衛なんて任せられないさ、それが普通だろう?」
「普通なもんか。自分ならともかく人まで管理できる奴なんて僕でも見たことがない」
「そこで悟ったよ。アルバレストの真価は君がいてこそなのだろうってね」
……驚いた。
まさかシルキスがフィルたちと同じことを言うとは。
アルバレストのリーダーはたしかにフィルだ。
アイツは率先してパーティのために動き、先導し、何よりも一番に戦った。
だけどそんなアイツは仲間と口をそろえていつもこう言うのだ。
〝アルバレストを真に率いているのは間違い無くお前だよ〟と。
だからいつもお世辞みたいなものだと思って受け流していた。
薬士としての能力もみんなの役に立つ為だけの役割なのだと。
だけどそれは本当のことだったんだな。
シルキスがこう教えてくれたことでやっと理解できた気がする。
俺は自分が思う以上にみんなの役に立てていたんだなって。
「そんな君と一緒に戦える今なら魔王級でも倒せる、そんな気がするよ!」
「……ああそうだな、このみんななら絶対に倒せるよ。なにせ俺一人でも倒せる相手なんだからさ」
「――え?」
でも途端、シルキスが目を丸くして固まってしまった。
な、なんなんだ?
そんな丸い目を向けながら剣をビュンビュン振られるのは実に怖いんだが?
「いやいや、あの魔王級を一人でとか無理な話でしょ」
「そんなことはない。途中から一人で塔を登っても倒せたよ。ギリギリだったけどな」
「アッハハハ、何やらアディンが調子に乗って冗談を言い始めておるぞぉ?」
「アディンさんが魔王級を一人で倒したのは本当の話ですー!」
「「……え?」」
すると今度はティアまでもが丸い目をこっちに向けてきた。
彼女ほどの腕前ならできそうなことだとは思うのだが。
なにせ彼女は驚異の魔術士レベル92。
初期職だが群を抜いて高い。おそらく人類最強レベルだ。
魔物と戦わなくてもレベルの上がる初期職でもここまで上げられる奴は他にいないだろう。
つまり俺よりもずっと優れた存在だろうに。
そんな人物に珍奇な目を向けられるのは不本意に思う。
「ねぇアディン、そういえば魔王級って何?」
そう思い悩んでいたらミュナから突然の質問が飛んできた。
しかしこう改められるとどう言ったものか悩んでしまうな。
「災厄を引き起こすまでに強くなったボスのことさ。そいつが塔の外に出ると一国が滅ぶって噂も聞くくらいに強いんだ」
「それともうすぐ戦うかもしれないんだね。怖ーい」
「大丈夫さ、ミュナの力も相当に強いんだ。きっと問題無く戦えるはず」
「うん、わかった! ミュナがんばる!」
でもミュナはこんな話をしても笑顔を絶やさずにいてくれた。
健気に胸元で両腕をギュッと絞らせる姿には心が癒されてならない。
今はミュナのような純粋さの方がありがたいな。
それだけに、魔王級と戦うプレッシャーが余計なわだかまりにならなきゃいいんだが。
――そう心配もしていたが、むしろ逆効果だったようだ。
そんな話をしてからというものの、みんなの士気がやたらと高くなった。
おかげで深層にまで一時間足らずで到達。
もうすぐボスがお目見えしそうな頃合いだ。
だけどそんな時だった。
「大賢者様!」
進撃を進めていた俺たちの背後から聞いたことのある声が響く。
それで振り向いてみれば、あの精鋭エルフのメンバーらしき姿が。
たしか先行で偵察していた二人の内の一人だ。
でもどうしてここに?
そもそもどうやって入った?
もしかしてヘーレルたちももうパーティ扱いなのか?
ただどうやら考えている暇はなさそうだ。
彼女の様子はタダ事とは思えない焦り慌てた雰囲気で。
「アンタはたしか精鋭部隊の一人の……」
「シュイと申します。ですがそんなことよりも!」
俺の話も遮ると途端、その場にひざまずく。
「我々精鋭部隊がこのままでは全滅してしまいます! ですからどうかお戻りください! 大賢者様のお力添えをどうか!」
「なっ!?」
まさかヘーレルたちが全滅間近だなんて。
俺たちは好調かと思っていたが、どうやら状況は最悪なようだ。
だけどこのまま戻ってしまえばそれはそれでエルフの里を危機に晒してしまう。
それは結果的にヘーレルたちの戦いを無駄にしてしまいかねない。
だったらこのまま進む方が得策じゃないか?
「しかし俺たちは――」
「わかった、戻ろう」
「ティア!?」
でも俺が答える前にティアが即決してしまった。
誰よりも里を案じているはずのティアが、なぜ……?
「ほれほれ戻るぞぉ皆の者!」
「お、おい……!?」
しかも俺たちの背を押して強引に。
どうしてそんなことまでするんだ?
「感謝します、大賢者様」
「うむうむ、くるしゅうない」
「えぇ……とっても感謝しておりますともぉ……!」
――だが突如、場に異様なまでの殺気がほとばしった。
それも俺たちの背後から、背筋を凍らせてしまわんばかりの勢いで。
まるで魔物のような凶悪な気配とともに。
それに気付いて振り向いた時、俺たちは目の当たりにしてしまったのだ。
シュイと名乗ったエルフがあろうことか、ティアの背中に凶刃を突き刺すという異常な光景を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます