第70話 三つのダンジョンと精鋭たちのお見送り
「ここからは我らの後にお続きください! 最短距離で第一目標へ向かいます!」
準備を整えたついでに食事も済ませ、俺たちは今森をひた走っている。
ここからはもう止まることも許されない。時間との勝負だ。
もしウダウダやっていればエルフの里が魔物たちによって滅ぼされかねないのだから。
だが魔物側もそう易々と倒せるほど安易な状況でもない。
聞いた話によればなんとすでに三ヶ所の定着ダンジョンが発生しているらしい。
しかも最初期ダンジョンはより強大に進化している節があるという。
ならもしかしたらボスが魔王級にまで成長している可能性は大いにあり得る。
ダンジョンというのは塔と違い、そうやって時間で成長していくものなのだ。
だから本当ならその最初期ダンジョンを先に攻略してしまいたかった。
しかし世の中そう都合のよいことばかりとはいかない。
聞くと最初期ダンジョンは今、二つのダンジョンに囲まれているらしい。
まるで守られているかのような布陣を引いているそうな。
それにダンジョンが近いと宝珠も効果が発揮されない。
つまり敵地にある程度近づくと自力で道を切り拓かないといけなくなる。
その状況でいきなり中心部に突っ込むのはさすがに自殺行為だ。
ゆえに俺たちはまず第一目標をすぐ近くの防衛ダンジョンに決めた。
ここを即座に排除し、最初期ダンジョンへの足掛かりにするのだ。
その案内は精鋭部隊のエルフたちに任せているから安心だろう。
信用はまだしていないが、故郷のためならと必死だから問題はないはず。
「ところで君らは八人いなかったか? 今は六人しか見えないが」
「あとの二人は自ら率先して偵察へ向かいました! もうまもなく合流できるかと!」
「偵察? 魔物と遭遇したらどうするつもりで――」
「私たちにもこれがありますから」
なるほど、退魔紋。
レベルはリーダーでも24と低めだが、それでも魔物と戦う分には充分だ。
「もうまもなく第一目標に到達します。宝珠の力が効かなくなりますのでご注意を!」
「ダンジョンに着いたら我々が追っ手を排除し続けますから、その間に攻略を!」
「わかった! だが無茶はするなよ!」
「「「ハイ!」」」
……いや、心配はいらないのかもしれない。
彼女たちは俺が思う以上に一致団結できている。
精鋭部隊というのもあながち虚勢って訳でもなさそうだな。
だったら安心して後ろを任せられるってものだ。
そうして走っていると途端、魔物が頭上から襲ってきた。
しかし精鋭部隊の一人が風魔法を放って吹き飛ばし、即座に排除する。
それを皮切りに周囲から魔物がわらわらとやってきたが、それもすべて精鋭部隊が対応していて。
「ここをまっすぐ行けば――あった!」
「よし、宝珠を君達に渡して……」
「いえ、それはあなた様がたが持つべきもの! 我々は自力でなんとかします! さぁ行って!」
「……わかった! 君の名は!?」
「ヘーレルですわ、ご主人様っ!」
途端、精鋭部隊リーダーのヘーレルが俺たちにメイドらしい振る舞いのお辞儀をして見せてくれた。
まったく、死地なのにとんだ行儀のいいお見送りじゃないか。
「ならヘーレル、死ぬなよ!」
「ハッ!」
それでもその直後には足を僅かに開き、腕を水平に上げ、拳で胸元を叩くという兵士らしい一面を見せてくれたわけだが。
そんな彼女たちの姿は勇ましく、それだけで俺たちに勇気を与えてくれるようだった。
「よし、みんな行くぞ! 立ち止まっている余裕はないからな!」
「「「了解!」」」
気付けばまた俺がリーダーのような立ち位置になっていた。
ティアやシルキスも相当に年季が入っているはずなのにな。
「シルキスが最前線でメインの盾役を、ピコッテは彼の補助を頼む!」
「わかった!」「任せるですー!」
「ティアが主力だ! 大型が現れたら頼むぞ!」
「合点承知じゃ!」
「ミュナは全員の攻撃補助と牽制を! 俺は後衛を張る!」
「うん! ミュナがんばる!」
「この布陣は慣れておるのか?」
「ああ、俺の一番得意な陣形だ! そして――」
途端、魔物が背後から襲い来る。
しかしそれも俺は即座にかわし、カウンターで首を刎ねてやった。
「――俺の能力が最も活きる戦術だ!」
「それならよし! じゃあ暴れるとするかのお!」
「よし、ダンジョンに突入だ! スタートダッシュを決めるために全員を強化する!」
そこで手が空いた隙を狙い、即座に素材調合。
しょっぱなからフルライザーを全員へ投与だ。
「これはすごい! 力がみなぎってくる!」
「効果時間が数分と短くて調合直後にしか効果が出せないが、その効果は折り紙付きだ! 存分に力を奮え!」
「きゃっはー! ぶっとばすですー!」
そういえばピコッテもフルライザーを浴びるのは初めてだな。
そのせいでなんだか妙にハイテンションだ。ミニドルカンかな?
ただその意気は奴にも負けない。
即座に自己強化をも行うと、ボールのように跳ねてダンジョン内へと突っ込んでいってしまった。
そうすればたちまち容赦なき魔物たちの悲鳴が響きまくることに。
「おやおや、僕の活躍がいらなさそうな雰囲気だね」
「そうでもないさ、伏兵はいくらでも来るからな」
「だったらっ!」
シルキスもどうやらやる気満々なようだ。
影から現れた魔物を瞬時に切り刻んでしまった。
「やるではないかシルキス! もう我も我慢できぬぅ! 早くブッパしてぇぇぇ!」
「あはは、もう大賢者とは思えない興奮具合だねぇ。でもやめておこう? 強化された君の力が暴発したら僕たちも死ぬから」
「そうだよティア、今は我慢するの! ボスでババーンってすればいいの!」
「ぬぅ、仕方あるまいのう!」
……これは少々やり過ぎたかもしれないな。
調子に乗って調合量を多くし過ぎたか。
そういえばフルライザーは強化効果もあるけど、興奮作用もあるんだった。
使いどころを間違えないよう気を付けないとな。
そう心に戒めつつ、みんなと共にダンジョンを最速で突き進むのだった。
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