第69話 意外な発見と伝説の秘薬
聖王から宝玉を託された俺達はまず里の素材貯蔵庫へ。
魔物退治に向かうために有用的な薬品の素を手に入れるためだ。
しかし案内された場所はといえば。
「扉ももう土埃まみれですー! こんな所に薬品素材なんてあるのですー!?」
「我の記憶が確かならここのはずじゃ! 古より集めた貴重な素材を仕舞い込んでおるぞ!」
蔵らしいのだが、見る限りとてもそうには見えない。
太い樹の根本に大岩が寝転がっているようにしか。
それでもその岩塊をみんなで必死に押し開ける。
すると内部が露わになり、光に照らされて見え始めた。
ティアの言ったことは本当だったようで、壺がいくつも並んでいてそれらしい。
「うっ、くちゃーい!」
ただ入った途端に何とも言えない異臭を感じ、すぐに入ることは叶わなかったが。
「何をしておる、時間がないのであろう?」
「いや、この中はさすがに無理があるだろう!? とてもじゃないが良い素材があるとは思えない!」
「むぅ、これは大人しく里の薬士の所へ行けば良かったか」
「いるのかよ! それを先に言ってくれ!」
「いやーここなら伝説級素材があるかなーと思って」
それを百年前の知識で語られても困るのだが……。
そこで俺たちは古蔵で探すことを諦め、里の薬士の下へ。
最初は嫌な顔をされたものだが、ティアの威光で一発解決だ。
「あなた方はあの廃棄倉庫に行ったのです? あそこはもう五〇年ほど昔に放棄された場所ですよ。今はもう存在すら忘れられていますが」
「あははーそうであったかーそういうことなら早く言っておくれよぉー」
「ティア、だから虚勢は良くないって言ったじゃないか」
……まぁこの際ティアのお茶目さには目を瞑るとしよう。
今度は正真正銘、ちゃんと扱える素材ばかりだから。
ただ目新しいものは特に無さそうな感じがする。
たしかにどれも品質は良いし、彼ら独自の製法が活きているのだろうけれど。
あ、いや、でも待てよ?
よく見れば少量だが〝アルトマイザ晶紛〟がある!
他にも〝エルゲミクの茎筋〟と〝エヨス凝化酸〟まで!
「どうしたアディン? 何か良い物でも見つけたか?」
「ああ、とっておきの素材を見つけたんだ! すまない店主さん、この三つの素材を少量でいいから分けてくれないか!?」
「それは構わないが、そんな素材でどうする? 劇毒にしかならんぞ?」
「いや、これを使えば調合の仕方次第で最高峰の強化薬が造れるんだ!」
そう、これがあれば完璧なんだ。
これならあの〝
「しかしそうとはいえ、そんな少量でどうするんだ」
「少量でも
「え、あ、ああ、じゃあ持って行っていいよ、大賢者様のお連れに欲を張りたくない」
「そういう訳にもいかないさ、これを持っていってくれ!」
思わぬ収穫に心が躍る。
おかげで金貨袋一つを丸ごとドサリと置いてしまった。
だがこれはそれだけの価値がある代物なのだ。
少なくとも今の俺にとってはこれでも額が足りないくらいさ。
なにせ本来ならダンジョンでしか産出されない物で、そう滅多に手に入る代物じゃないからな。
それでもあるということはつまり、聖広森にはこれらの素材元が自生していることにほかならない。
すごい発見だぞこれは!
金貨十枚そこらじゃ足りないくらいだろう!
「必要な物は手に入ったかい?」
「ああ、思ってもみなかった収穫があった。これならますます勝率が上がるはずだ」
「そんなになのかい!? その確信具合にはもう驚きだよ」
ま、こんな素材を使うのは俺くらいなもんなんだけどな。
薬士でもそう滅多に知らないことだろうし、シルキスが知らないのも無理はない。
「それでアディンよ、貴殿……まさか能力持ちか?」
「――ッ!?」
「やはりか。なるほどな、通りでそれだけやれると思った」
……俺はどうやら迂闊なことをやらかしたようだ。
興奮して思わず余計なことまで口走っていたらしい。
いつかは話そうと思っていたが、先に彼らから察されるとは思わなかった。
「まぁそう警戒する必要はない。何も誰かに話すつもりなぞないしのう」
ただティアは俺の肩にどしりと腕を回し、耳元でぼそぼそとこう囁く。
周りに聞かれないよう配慮してくれているようだ。
「……助かる」
「じゃがどんな能力かえ? 薬に関することか?」
「薬とは限らないが、俺が消耗品を使っても無くならないリテイカーという能力だ」
「ふむ、やはりか」
するとティアが腕を離し、ニヤリと妙に妖しい笑みを向けてくる。
なんだかよからぬことを企んでいそうな顔つきだ。
「店主ちょっとよいか?」
「な、なんでございましょうか大賢者様?」
「例の秘薬は今どこに保管されている? あれが今すぐ欲しい」
「なっ!? で、ですがあれは……」
「これから有事が起こるのだ。必要なのだよ、あ れ が!」
「わ、わかりました! 今すぐお持ちします!」
秘薬? いきなりなんの話だろうか?
店主が大急ぎで外に走って行ってしまったが。
……お、もう戻ってきた。
「ゼェ、ゼェ……お、お持ちしました! これが〝エルフの輝涙薬〟にございます!」
「うむ、苦労を掛けさせてすまんな」
それで持って来たのは手で包めるほどの小さな小瓶。
その中に収められているのは水色の液体だ。
けれど虹色の煌めきがふと見えた気がする。
なんだか不思議な見栄えの薬品だ。
「アディンよ、これを託す」
「えっ?」
「これはエルフに伝わる秘薬じゃ。いわばエリクサーと同じ効果を持ち、しかも副作用も存在しない」
「なんだって!? エリクサーと同じ効果で副作用もない、だと!?」
「そう、傷をたちまち治癒させ、膨大な体力をも蓄えさせ、魔力を溢れんばかりに戻すというあの伝説の薬と同じという訳じゃ」
し、信じられない、そんな薬品がこの世に存在していたのか!?
エリクサーでさえ伝説級の薬品だというのに、それをも超える薬だと!?
そ、そんな物が今、俺の手の中に……!
「その薬はな、二百年の醸成をかけてたった一本分できあがるというほどの希少な薬じゃ。しかしアディンの能力ならその薬とて幾らでも使えよう?」
「ああ、たしかにそうだが……でも俺なんかが使っていいのか?」
「そのための秘薬よ。存分に奮ってくれ」
「……わかった!」
秘薬とフルライザー、そしてティアの回復魔法。
この三つの要素が組み合わされば、俺たちは四六時中、常時戦うことさえできるだろう。
つまり無敵だということだ。
もはや負ける要素すら見つからない。
強いて言うなら、あとは精神的な問題くらいだろうな。
いつだか魔王を倒した時みたいに仲間に逃げられなければ最高だ。
もっとも、このメンツでその心配をするだけ野暮ってものだが。
「ここにおられましたか大賢者様!」
「む……?」
そう興奮していた最中、知った顔が建屋の中に入って来る。
金髪エルフ……メイドエルフもとい精鋭部隊リーダー格の女だ。
「聖王様よりご命令をいただき、我らが大賢者様がたを魔物の巣へとご案内することとなりました。どうかよろしくお願いいたします」
「うむ。よし聞いた通りじゃみなの者、準備ができたならさっそく行くとするか!」
そういうことなら話は早い、俺ももう準備万端だからな。
手に入れた素材はもう薬包紙に包んで仕舞ってある。
秘薬も薬鞄内の瓶枠に入れたし、なにも問題はない。
だからとティアがみんなの顔を伺う中、俺も頷きで返す。
それが合図となり、みんなで揃って建屋を出たのだった。
さて、じゃあ始めるとしようか。
エルフの里を救うための魔物狩りを。
ここからが俺たち冒険者の本領発揮だ……ッ!
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