第67話 かつての英雄王とエルフたちの恨み
陸続きではあるものの、ラグナント王国から遠く離れた聖広森。
それにもかかわらず、まさかあのデリス元国王が深く関係しているとは思わなかった。
しかもエルフ聖王が語るほどに。
そんな顔はとても穏やかそうにも見える。
ならいったいどんな逸話が……?
「以前にも魔物がこの森へと襲ってきたことがあった」
ありえなくもない話だな。
エルフの集落はどこの国でもよく魔物に襲われると聞く。
聖広森のように大きければなおさら狙われやすいのだろう。
「我らエルフは一丸となって戦ったが、退魔紋を持たぬ我らにとって魔物は強く、この里は危機に瀕した。しかしその時、あの男が窮地を救ってくれたのだ」
「それがデリス王……」
「そうだ」
デリス王は若い頃、王族にもかかわらず冒険者をやっていたらしいと聞く。
そしてその手腕と実力から多くの国の窮地を救ったことも。
きっとこの聖広森もまた同じように危機を知って駆け付けたのだろう。
「そこで彼は我らエルフが魔物に襲われやすいという性質を憂い、迷わずこの宝玉を託してくれたのだ。〝いつか来るべき未来にて、互いの種族がわだかまりから解放されて手を取り逢う日が来ることを切に願う〟と誓い合ってな」
「……彼は唯一信頼できる人間だったよ。それほどにまっすぐで裏表もなく、異種であり面倒でもあろう我らのことを親身に考えてくれていたからな」
ああやはりな。
この聖王はデリス国王のことをよく知っているようだ。
俺も深い関わりはなかったが、それでもあの人のことはよく理解できた。
なにせあの人の行動には一切の嘘偽りがないからな。
フィルが憧れるのも無理はないって思えるくらいにまっすぐで。
「そんな彼の想いがこの宝珠にも籠められていた。起動にも相応な魔力が必要であるゆえな。なんと彼自身が触媒となって命を賭けて起動させたのだ。これを信用するなという方が無理であろう」
たしかに、デリス国王ならそうしてもおかしくなかっただろうな。
あの人は国だとか権力だとかそういうことよりも人命を優先する御方だったから。
種族なども関係無く、すべての人に分け隔てなく。
だからこそ若い頃に英雄王、勇者などと呼ばれていたらしい。
その理由がよくわかるエピソードだと思う。
「だがある日、その想いの魔力が突如立ち消えた」
「――ッ!?」
「それを機に宝珠は力を失い、今では中央里を守るので精一杯となってしまった」
「ま、まさかそれの原因が、王の死……!?」
「うむ、当初はそう悟ったよ。しかし本来、この宝玉は彼が死んだだけで力を失うものではない」
「そうだ、そんなはずはない。想いの魔力が籠っている限りは起動者が死んでもなお魔力は生き続けるはずで――」
「でももしその想いが強制的に断ち切られたのならばどうかな?」
「なっ!?」
た、たしかにそれなら辻褄が合うぞ!
自然死ならば想いの魔力は途切れないが、志半ばに倒れたのならば話は別。
もし他殺などで命を落とした場合、無念や後悔などの負の感情が残り、想いの魔力を相殺してしまう。
――だとすると、まさかっ!!?
「ゆえに私はかのデリス王が誰かに殺されたと理解した」
「「「えッ!?」」」
「やはりか……クソッ!」
「それしか理由はあるまい」
想像したくもないことだった。
まさかあのデリス王が何者かに殺されていただなんて。
誰にも恨みを買わないような善人だったのにどうして……。
……いや、一人だけいるか。
あのデリス王に恨みを抱きかねない人物が一人だけ。
ミルコ国王だ。
もしキタリスでラクトゥース殿から聞いた話が本当なら、奴だけはデリス王を恨んでいてもおかしくはない。
その上で弟たちも殺し、デリス王も殺して国王に成り上がったと考えれば合点がいく。
あの愚かしさのすべてがな。
「デリス王は我らエルフにとっても希望たる存在だった。しかし彼は殺された。そう悟ったとき理解したのだ。彼のような人物でさえ殺してしまう人間とはもう関わるべきではないのだと」
「むぅ……そんな理由があったとは」
ああ、こればかりは俺たちにとっても寝耳に水状態だ。
エルフたちにとってはデリス国王も同族扱いみたいなものだったのだろう。
しかも王。そんな偉大な存在が殺されてしまえば人間を忌避したくもなる。
おまけに聖広森という彼らの故郷を危機に晒したのだから当然の結果だ。
まさかデリス王の死がこんな禍根まで引いていたなんてな。
もし本当にミルコがやったというなら、これはもはや普通に済む問題じゃないぞ。
最悪の場合、奴もろともラグナント王国が滅ぶかもしれない。
世界各国が敬愛していたデリス国王を殺した罪は果てしなく重いのだから……!
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