第56話 虚言を張る王と世界序列
「クッ、退屈だ! やはり嫁は極上の女でなければならぬっ!」
退屈の余り、つまらない奴隷の女をベッドから蹴り落としてやった。
色々と弄んでやったらすぐに動かなくなったし、役立たずもいい所だ。
これはまた新しい玩具を大臣に用意させねば。
役立たずなど放っておいて服を身に纏う。
そうすればさっそくと扉を叩く音が聞こえた。
大臣の奴か?
「国王陛下、起きておられますか?」
「うむ、入ってよいぞ」
「それでは失礼しまして……ううっ!?」
やはりだったか。
入ってさっそく地面に転がった奴隷に驚くとはいちいち臆病な奴だ。
「そやつはもう使い物にならん、捨てておけ」
「は、はぁ、わかりました」
「次に仕入れる奴隷はもっと上物にせよ。私を退屈させないような豊満な体付きの女をな」
そう、私にふさわしいのは自分で動けぬようなこんな貧相なゴミではない。
我が求めれば自ら腰を振り悦ばせるような者でなくては。
ん、なんだ? 大臣の奴め一人で何をボソボソと。
「何か言ったか?」
「あ、いえなにも! ただちに手配いたします!」
「うむ、くるしゅうない」
「それでなのですが陛下」
「なんだ、私は次の女が来るまで忙しいのだ」
「また世界塔攻略連盟から緊急会議の打診が来ておりますが」
「なに!? なぜそれを早く言わぬか!」
「た、大変申し訳ありません! なにぶんお楽しみのようでしたから……」
くっ、世界塔攻略連盟の会議など出るもはや価値もないが、我がラグナントの権威を見せつけるためにも要請に応えねばならぬ。
そうともあり、仕方なく会合装置へと座り起動させる。
するとさっそくと各国首脳どもの姿が鏡に映り始めた。
「ラグナントもようやく来ましたね。ではさっそく緊急会議を始めたいと思います」
いい加減この年寄り連中の顔ぶれは見飽きたな。
いっそどの国も頭首を若い女に挿げ替えてしまえばいいものを。
そうすれば我が手腕とこの美しい顔によって全員屈服させてやるのだが。
「最近は先行きの怪しい議題ばかりでしたが、今回は皆さまに朗報をお伝えするために集まっていただきました」
「「「おお!?」」」
「「「まさかユーリス問題で何か進展が!?」」」
「その通りです。ユーリスで起きた魔物の定着問題ですが、少しずつ好転し始めているという話を聞き及んでおります。そこでですがユーリスに事情を語っていただくといたしましょう」
「はい、お任せくださいっ!」
む、ようやく問題が片付くか。
あの小心者のジジィめ、今まで要らぬ手間ばかりかけさせおって。
「実はつい先ほど報告があり、我が国に新たに発生した新塔が活性直後に沈静化いたしました」
「おお、まさか逆攻略を行ったパーティが!?」
「ええそうなのです! おかげで魔物もそれほど増えず流出も抑えることができたのです。攻略に向かったパーティも余力を蓄えることができて助かりました」
フン、そんなの当り前のことだろうが。
我がアルバレストもヒーラーを加えた今ならば造作もないことだろう。
何を今さら自慢げに語っているのやら。
「しかもその塔から発生していたと思われる謎の影響力が収まったとの情報も入っております。第一塔の魔物の強さが途端に弱くなったと」
「おお、だからか! 実は隣にある我がシャンテラルの塔でも同様の話を聞いていたのだ! いきなり魔物が弱体化したのだとな」
「聞いた限りですとやはりその新塔が影響を及ぼしていたというのが濃厚でしょうね。魔導科学研究所の報告通りです」
何をいったい盛り上がっているのだ。
我が国には何の関係もないからつまらぬ。
金もないからと、ユーリスに行ったらしいミュナという女への追手も差し向けられなんだし。
「しかもその大業を成し遂げたのがあのアディン=バレルなんですよ!」
「――ッ!?」
バ、バカな、またアディン=バレルだと!?
奴の名がどうしてまた出てくるというのだ!?
「彼のパーティがどうやら新塔で問題を解決してくれたそうで、おまけにたった一パーティで逆攻略まで。並みのパーティじゃそんなことなんてできる訳が無いのに。やっぱり彼らは本物だったんだ!」
くっ、年甲斐もなくはしゃぎおってうっとおしい!
だからなんだというのだまったく!
……あ。
いや、待てよ?
「彼が腕の立つ料理人まで手配してくれたおかげで難民たちも空腹を免れたと聞きます。本当に感謝してもしきれません……!」
「フフッ、そうかそうか、それはよかったなユーリス」
「ラグナント……?」
そうだ、簡単な話じゃないか。
奴は我が国が輩出した冒険者なのだ。
だったら奴の手柄はいわば親たる我が国の手柄と言えよう?
ゆえに。
「彼をユーリスへ向かうよう仕向けた甲斐があったというものだ。なぁに礼は要らぬよ、これも一つの大国としての責務であるからなっ!」
そうとも、奴は私が手配した!
そうしてしまえばいいだけのことなのだっ!
仕向けたのは事実だから嘘ではないっ!
さぁ称賛せよ!
さぁ崇拝せよ!
我がラグナントこそ世界を救うにたる英雄国家なのだと!
「「「……」」」
「「「……」」」
なんだ……?
なぜ全員押し黙っている?
ユーリスもなぜポカンと口を開けているのだ?
「……はぁ」
「プックク、もう辛抱堪らん!」
「「「ざわざわ」」」
なんなんだこの空気は……!?
なぜ呆れる!? なぜ笑う!?
「グワント抑えなさい、いくら何でも失礼でプッ」
「無理だろうこんなの、とても笑わずにはいられまいハハハハッ!」
「「「ワハハハ!」」」
な、なんだというのだ!?
私は何も冗談など言ってはいないというのに!?
「……ラグナントのミルコ国王、あなたはこの会議を政治利用の場にしようと企んでいるようですが、今の発言は筋違いにも程がありますよ」
「なんだと?」
「あなたは知らないのかもしれませんが、実は我々はギルドを通してすでに事情を知っているのです。アディン=バレルがなぜユーリスへと向かったのかを」
な、なにぃ……!?
ど、どういう意味だそれは!?
「あなたは今、〝ラグナント王国がアディン=バレルを派遣した〟と言いましたね。ですが私たちはこう聞き及んでいるのです。〝アディン=バレルたちは自らの意思でユーリスへ向かった〟と」
「は!?」
「その際、ギルドはこう伺ったようですよ。〝ユーリスの惨状はギルドで初めて教えてもらった〟とね」
「うう……っ!?」
ぐっ、ギルドめ余計なことをしおってええええ!!!!!
しかも私にそのことを教えないだとォォォ!!?
「な、なにをバカなことを。ギルドが虚勢を張っているだけであろう! 私は確かにアディン=バレルに命令して――」
「そうそう、こんなことも言っておりましたね。ラグナント王国は隣国キタリスの使者を白昼堂々と私兵の手で暗殺しようとしていたのだと」
「――ッ!?」
「それこそ眉唾ものですが、今のあなたの反応ではあり得なくもなさそうな話ですね」
なっ!? バ、バカな!?
今の動揺で見抜かれた!?
「だ、だからそれがなんだと――」
「その使者を守ったのはアディン=バレルですよ。知らなかったのですか?」
「んなっ!!?」
「それになぜ暗殺者を仕向けるような者の命令を彼が聞くと思ったのです?」
「うぐぐ……!?」
このババァ、私をたばかったのかァァァ~~~!?
ふ、ふざけたことしやがってええええええ!!!!!
「もうよせ議長、これ以上はただの情弱イジメにしかならぬよ」
「……そうですね。まぁこの事実はラグナント
「――ですが、この神聖かつ重要な場において私利私欲を働いただけでなく、この混迷した時代において戦争を引き起こしかねない事態を招いた責任は取っていただかねばなりません。そうですよね、キタリス?」
「もっともだ。この連盟にてぜひ厳正な処分を頼みたい」
何ィ、キタリス王もグルか!?
クソッ、部下も部下なら王も王だなッ!!!
こうなったら近い内に本気で奴らに戦争を仕掛けてやる!
全世界で首位に立つこのラグナント王国の力を見せつけてやるわッ!!!
「以上からラグナント王国の世界的序列を一位から七八位へと降格とします!」
……へっ?
「理由は各国への裏切りと戦争示唆という情勢不安の助長、そして非協力的態度の数々。ゆえにもはや貴国には各国と歩調を合わせて困難に立ち向かう気概はないと判断いたしました」
な、な、なああああああ!?
よりにもよって七八位、だとぉおおおおお!?
下から二番目の国じゃねぇかああああ!!!!!
すぐ下が無法国家ゼブルだとォ!? ふざけるなよおおおおお!!?
「よってこの聖フィンドール共和国代表であり世界塔攻略連盟議長でもあるケレン=ウィジナーの名において、今回の決定を正式なものといたします。異論のある方はいらっしゃいますか?」
異論だらけだバカ者があ!
手を挙げずにいられるものかクズどもめぇ!
「……反対はラグナントのみ。よって異論なしと判断、本決定を今この時点をもって履行いたします。これによりラグナントの発言権は剥奪となります」
「一位の空席はどうする?」
「本来なら序列第二位であるこの聖フィンドールが繰り上がりたい所ですが、それこそ私が仕組んだ陰謀だと思われかねません。ゆえに今しばらくは空席でおきたいと思います」
「フム、そういうことならば三位のこのグワントも賛同しよう」
「「「パチパチパチ……」」」
クソ、クソクソクソオオオオオ!!!!!
どういうことだ、なぜ誰も異論を挟まない!?
ラグナントだぞ!? かつて世界をまとめた大国だぞ!?
それなのになぜ誰も敬おうとしないのだ!!!!!?????
「は、話を聞け! 私はこんなこと認めないぞ!」
「以上で緊急議会を終了といたします。皆さま、お忙しい中での参加ありがとうございました」
「お、おい!? 聞こえていないのか!? ――あ、クソッ切れた!」
なぜだ、なぜこうなった!?
我が国が世界一だからこそ今があるのではないのか!?
その大国がいきなりほぼドベなどあり得る訳がないっ!!!
そうだ、これは陰謀だ!
奴らフィンドールやグワントの仕組んだ陰謀なのだ!
許せん、許せんぞ!
こうなったら奴らに徹底的な仕返しをしてやる!
見ていろよ愚か者どもめ、この私を怒らせたことを必ず後悔させてやるぞお!!!!!!!!!
「国王陛下、新しい奴隷を連れてまいりましたが」
「お!? よし、ではこちらに寄越せ!」
だがその前に気持ちを満足させるとしよう。
話はそれからだ、フフ、フフフ……!
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