第49話 新天地と男の強さの秘密
キタリスからユーリスまでは二つの国を越えなければならない。
世界貢献度上位組に入る貴公国家シャンテラルや、中堅を支える学問連国キルクスといった名国家を渡り、北西に向かいつつ。
そういった国々でも端々から色んな事件が待ち構えていて、なかなか先へは進ませてくれなかった。
そのおかげでユーリスに辿り着いたのは出発してからなんと一ヵ月半後だ。
とはいえ悠々と旅を続けられたのでみんな特に不満はなさそう。
ここまで引っ張って来れたのは俺としても自信に繋がったと思う。
「お客さん、首都が見えてきたよぉ」
「あ、ほんとですー! 首都アルシャータですー!」
だから今はゆったりとした馬車に揺られて移動中。
今回の旅の目的地である首都アルシャータももう目前なようだ。
「いや~~~ここまで長かったなァ~おい」
「そうですわね。まさか塔攻略まで行うことになるとは思いもしませんでしたが」
「でもおかげで旅の資金には困らなかったですー」
本当に、ここまで長かったとしみじみ思う。
なにせシャンテラルでは塔の傍を通った途端に活性化するし。
キルクスじゃ流出した魔物の後始末を頼まれるし。
その道中でも魔獣退治やらお使い、薬草探しをせがまれるなど大変だった。
でもおかげで俺もレベル47にまで到達したし、あと二回くらい塔を攻略すればまた50代に戻ることができるだろう。
そうすれば調薬できる種類も、採集できる素材種も増えるはず。
以前のような幻級の薬品も揃えられるようになる。
「ねぇ見て見て、さっきミュナのレベル、29まで上がってたの!」
「やっぱり初期職は上がるのが早いな。いっそ次位職に切り替えるのもありかもね」
それにミュナの成長も著しい。
本人の素質・素養もあるのか、普通よりもずっと早く上がっている。
もしかしたら下手に高レベルまで上げるより、軒並み要職に触れさせた方がいいかもしれないな。
アルバレスト時代で俺たちがそうしたように。
「そういえば質問なんですがーアディンさん」
「うん?」
するとピコッテが俺の話に気付き、首を傾げながら振り向く。
「アディンさんは薬士に固定する前、何の職をやってらっしゃったのですー?」
なかなか珍しい質問をしてくるな、ピコッテ。
こんなことを聞いてくる冒険者なんて滅多にいないぞ。
まぁ別に隠すことでもないんだが。
「ああ~、一次から三次まで全部30まで上げてるよ」
「おおーなるほど全ぶ――はい?」
冒険者の強さは基本的にメイン職のレベルが基礎になるからな。
ステータスチェッカーさえあればその大本が見れるし、下積み職なんて誰も気にしないもんだ。
「実は初期職は成人するまでにすべて30まで上げてあってさ。だから16歳になって冒険者になったら、退魔紋が必要になる二次・三次職を仲間同士で回し合って、役割を替えつつ依頼や任務をこなしていたよ」
「ひ、ひええ……」
「俺たちを育ててくれた孤児院の院長が元々腕の立つ冒険者でね、〝冒険者になるなら基礎は子どもの内に上げておきなさい〟ってみっちり鍛えてくれたんだ」
「まぁ、随分と理解の深い方でしたのね」
そう、あの院長は本当にすごかった。
年老いてさえなければ、孤児院が潰された後でもきっと冒険者を再開していただろうな。
今頃どうしているだろうか。国に帰ったとは聞いたが。
「たしかに冒険者の退魔能力はメイン職がベースとなるけど、下積みの職を鍛えることで得た経験は能力値に反映されなくとも身に付いているんだ。だから別にメイン職のレベルが低くても、下積みがしっかりされていれば塔でも普通に戦えるのさ」
「ふむふむ……」
「だから今の俺の薬士レベルは47だけど、アルバレスト時代に検証した結果を基に再計算すれば――」
「そうだな、今の俺の薬士レベルは実質86くらいにはなるかな」
ん、なんだ、ピコッテが目を震わせて動かなくなったぞ?
ウプテラもなんだか目を瞑って口元をヒクつかせてるし。
「ちなみに最高ランクの強化薬〝
「ど、通りでアディンさんが一人で魔王級を倒せるはずですー。全盛期だとレベル100越えって、そんな人この世にいませんですよぉー……」
「それでもドルカンのパワーには大きく劣るんだけどな」
「ったりめぇよォ! 俺んトコの故郷でも同じことやってっからよ、とにかくパワーだけは鍛えたぜェ」
「な、冒険者にとって当たり前だよな」
「おゥよ」
「そ、そんなの当り前じゃないですー……」
とはいえ、いくらレベルを上げようとも最もその力を活かせるのはやはりセンスだ。
ウプテラやピコッテ、ドルカンのような尖った特徴を持っていた方がずっと伸びる。
そのセンスという意味では俺は弱い。
だからアビリティの相性と支援性を選び、メイン職を薬士にしたのだ。
ただミュナに関してはまだ未知数だ。
彼女はレベルよりも精霊の〝濃度〟によって力が大きく左右される節がある。
セレスボ鉱山や塔攻略の時もそうだったが、魔物の数を減らせば減らすほどその威力はどんどん跳ね上がっていくようにも見えたから。
――そこから推測すると、だ。
精霊は脅威である魔物を倒すことで一時的な強化を得るのかもしれない。
冒険者のレベルと同様に、〝現地精霊向けの
そうすることでミュナの精霊攻撃は際限なく強くなるのだろう。
そして最終的には、物理攻撃がほぼ通用しないはずのミスリルゴーレムだろうと真っ二つに叩き割るほどにもなるという訳だ。
だったら彼女自身もが成長したらどうなるだろうか?
……想像しただけでワクワクしてくるな、これは。
「じゃあねー、ミュナね、次は剣振ってみたい!」
「それは構わないけど、ちゃんと扱わないと自分で怪我するから気を付けるんだぞ」
「だったらアディン、使い方教えてー!」
「ピコッテもせっかくだから基礎職を上げてみたいですー!」
「わかった、ならユーリスで拠点構えたら、みんなで基礎から学び直してみるか!」
「「やったー!」」
そのためになら幾らでも力を貸したいとも思う。
ピコッテも芯が素直だからな、きっともっと成長するだろうさ。
ついでに自信も付けさせて昔のトラウマも払拭させてあげたいところだ。
「でしたらワタクシめも――」
「あ、ウプテラからはいただくものをいただくからな」
「ぐっ!? あぁ~もぉ~仕方ないですねぇ、ならワタクシを金貨一枚で抱く権利を与えましょうっ!」
「だそうだ。よかったなドルカン、願いが叶いそうだぞ」
「ウウウプテラちゃんが金貨一枚でェェェ~~~!? うっひょひょおぉうッ!!!!!」
「ち、違うのぉん! そうじゃないのぉぉぉーーー!!!!!」
ハハハ、あんまり興奮するなよドルカン。
馬車の底が抜けたら馬車主に迷惑かかるだろう?
いやぁ、街に着くのが実に楽しみだ。
やりたいことが色々と増えてきたしな!
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