第48話 旅立ちの時と救うべき国
セレスボ鉱山での戦いを終え、俺たちはフェターンの街へと直帰。
それで戦いの諸々をギルドへ報告し、報酬を得て宿へと帰還を果たす。
そしてそれから三日が過ぎて。
「ええ!? もう行かれるのですか!?」
「はい、元々長居する予定はありませんでしたからね」
「それは残念。あのアディン=バレルがウチのギルドに所属してくれればどれだけ心強いことかと思っていたのですが」
世話になったフェターンギルドへ挨拶しに行ったら、ギルドマスターにこう渋られてしまった。
どうやら鉱山の件も含め、長居したことで無用な期待をさせてしまったようだ。
「実は元々専属するつもりはなくて、世界を回ろうかと思っていたんです」
「そうですか。そういえばアルバレストもそのスタイルでしたしね。そういうことなら仕方ありません」
「期待させて申し訳ない」
「いえいえ、それでは良き旅路となるよう祈っておきましょう」
この三日で旅の準備も整い、仲間たちにも同意を得ている。
ミュナも世界を見て回ることにとても興味を示しているし、行かない手はないだろう。
ラグナント王国も意外に大人しくしていたし、もう俺たちがいなくても平気なはず。
……本当はアルバレストが攻めてくるんじゃないかと危惧していた。
あの国王ならそう仕向けかねないのだと。
だけどそこまでの強行手段を取らない辺り、本気で戦争に挑むつもりという訳ではなさそうだ。
なら新たな火種になりうる俺たちはさっさと去った方がいいよな。
そう思い、ギルドを発とうと踵を返したのだが。
「あぁそうだ、それならこんな話をお伝えしておきましょう」
ギルドマスターがカウンター越しにこう呟き、俺の足を止めさせた。
しかも妙に声が小さい辺り、公にしたくない話のようだ。
ならばと振り向き直し、彼の言葉に耳を貸す。
「なんです?」
「もし良ければなのですが、はるか北西の農業国家ユーリスへ赴いては頂けませんか?」
「ユーリスに?」
「実はですね、かの国で塔が新たに出現したようで。処理に追われるも対応が遅れ、定着が発生したという話なのです」
「なんだって……!?」
「しかし救援を約束したラグナント王国があの体たらく。逆に期待していたユーリスや諸外国が出鼻をくじかれ、その後始末に必死となっていると聞きます。ですのでどうか彼らを助けていただければと」
「ふむ」
……どうやらこれはもう行き先が確定する話のようだ。
ユーリスなら環境的にも悪くないし、行かない理由はもうないだろう。
「それと、ここだけの話ですが……」
「うん?」
「どうやらラグナント王国はあなたを派遣させると豪語したらしいですよ?」
「俺を? そんな話は聞いていないんだけど……なんで?」
「さぁ。しかしあなたの反応を見る限り本気ではなさそうですね」
「そんな話を持ち掛けてくれれば頼まれなくとも行くのに」
「はは、さすが元アルバレスト。噂にたがわぬ正義感ですな」
あの国王、俺をああも散々コケにしておいて利用する気だったなんて。
それにミュナを求めているにも関わらず?
もしかしてそれ以前の話?
うーん、時系列がよくわからない。
あいかわらずあの国王の行動原理が理解できないな。
「それともう一つだけ」
「まだ何かあるんですか?」
「グワント帝国と聖フィンドール共和国の動きが怪しいと聞きます」
「……それは一体どういう意味合いで?」
「これはギルドが独自に入手した情報なのですが――」
「かの二国はあなたを確保しようと密偵を放ったと聞き及んでいます」
なるほど、「確保」ね。
となるとさしずめ、俺の先天性能力を知っての行動だろうな。
とはいえ、こうなることを予期していなかった訳じゃないが。
それでも今まではアルバレストという名声の後ろ盾があったから何も問題はなかった。
だから信頼できる人に俺の能力を伝えることもできたんだ。
けれど今は違う。
今の俺はほぼフリーに近い。
そうわかった以上、あの欲深い二国が止まる訳もないだろうさ。
「どうしてそうなったかは定かではありません。あなたの実力を買ってのことなのかもしれませんが」
「まぁそんな所だろうね」
「それでも動きが妙であると危惧しております。ですので道中どうかお気をつけて」
「教えていただきありがとうございました」
「いいえこちらこそ。セレスボ鉱山をお救い頂いたこと、誠に感謝しております」
どうやらこれで話は本当に終わりらしい。
ギルドマスターが微笑みながら手を振って見送ってくれていて。
そこで俺も手を振り返して応え、ギルドを後にする。
「見ろよ、あれが噂のアディン=バレルか」
「奴がたった十年で伝説になったあのアルバレストの……」
「十数体のミスリルゴーレムを瞬殺って話だろ、化け物かよ」
「奴がデュルテの悪行も暴いたって話みたいだぜ」
「ああ、ライセンス剥奪にまで追い込んだってよ」
……周りから妙なひそひそ話が聞こえて来るけど無視しよう。
こういった話はいずれ尾を引いてロクでもない噂に繋がるだけだしな。
すでに尾ひれが付いているようだし。
それに仲間たちも外で首を長くして待っているだろうから。
「あ、アディーン!」
「すまないみんな、待たせた」
案の定、ギルド庁舎から出た途端にミュナが飛び込んでくる。
ならばと彼女を受け止め、くるりと身を回して勢いを受け流してみた。
すると気付けば彼女を両腕で抱きかかえていて。
「やったー狙い通り!」
「おいおい、こんなの人前で恥ずかしいだろ……」
しっかりと誘導されてしまっていたようだ。
ずいぶんと体の使い方の上手いことで。
「それでよォアディン、次はどこ行くんだァ?」
「ユーリスに行こうと思う。ちょいと問題発生中らしいからな」
「あらま、随分と遠いですー」
「ですが行き先が決まらないよりはマシでしょう」
でもミュナのこんなスキンシップも俺たちにとってはもはや当たり前だ。
だからみんなも鼻で笑いつつも並んで歩き始める。
「ユーリスっつうとエルフがいっぱいいる国だよなァ!? 楽しみで仕方ねェぜっ!」
「期待するだけ無駄だ、諦めろ」
「行く前から夢壊すんじゃねェよォォォ~~~~~~!!! ブワワーッ!!!!!」
「でもどんな国かは楽しみですーピコッテも行ったことないのですー」
「ええワタクシも実に興味ありますわ」
「いい所だよ、穏やかで食べ物も美味しいからな」
こんな仲間たちに出会えたことは幸運だったと思う。
まるでアルバレストのみんなを彷彿とさせてくれるようだから。
だから俺、フィルたちの代わりにやってみるよ。
アルバレストがやろうとしていたことを、今度はこのパーティで。
まだ名前もなく等級も低いけれど、いつかその名を轟かせてみたいとも思う。
そうできるように俺は戦い続けるつもりだ。
ミュナにこの世界を教えながら、仲間たちと共に生きながら。
だから……その時はまた会えるよな、フィル。
お前が真に願う夢を叶えたその後で。
そのためなら俺は、どこまででも走り続けられるから。
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