第46話 傾き始める王国と陰謀を吐露する国王

 おかしい。

 どうしてサーデル暗殺指令の結果報告が来ない?

 あれからもう一週間も経ったではないか!?

 兵どもめ、いったいどこで道草を食っているというのだ!


 腹立たしい!

 机をいくら叩いても気が晴れぬッ!!


「大臣ッ!」

「は、はいなんでしょう?」

「女だ! 嫁どもをこちらに!」

「え? あ、いや、その……」

「なんだ!?」

「それがですね、彼女たちにはもう給金が払えませんので。そうしたら〝もうここにはいられない〟と出て行かれました……」

「な、なにぃ!?」


 ば、バカな!?

 この国王たるミルコの下から去っただとぉ!?

 あのアバズレどもめ、いったいどんな気ちがいを起こしたというのだ!?


 そもそもだ!

 どうして金が払えない!?

 無駄な金払いは避け、税金も増やしたはずだ!


「なぜそんなことになっている!?」

「ええと報告によりますと、経済が滞ってしまい、貧民が増えてしまったそうです。そのせいで税金の支払いも滞り、商人からの税収も減ってしまいまして……」

「なんだとぉ……!?」

「またその結果、国外へ移住した者も少なくはなくぅ……場合によっては自治区がまた隣国に泣きつく可能性もあり得るかと」

「バカな!? それはおかしい! 私は国民だけで成り立つ政治を行っていたはず!」

「は、はぁ……ですがこれが結果でして」

「ぐう!?」


 まさかフェターンのように我が国から離脱する街が出るだと!?

 あ、あり得ん! この私の政治は完璧なはずなのだ!


「そ、それとですね陛下」

「なんだ!?」

「先ほど北方へ向かわせた密偵からの情報が入りまして」

「まさかサーデル暗殺に成功したか!? それともミュナとかいう女を捕まえたか!?」

「あ、いえ、暗殺に向かわせた兵が全員、キタリスに亡命希望したそうです」

「はああああああああ!!!??」


 ぼぼぼ亡命だとぉ!?

 つまり我が国を裏切ったのか!?

 そんなバカな事があってたまるかあ!!! 許さぬっ!!!!!


「ええい、今すぐそやつらの一族郎党を――」

「あ、いえ、家族はもう国外に脱出していたそうで」

「んなにィ!?」

「実はここ最近の兵たちの士気も落ちておりまして、やはり内情を知っているからこそ危機感を感じているのではないかと」

「ぐうううう!!! おのれぇ! ならば国外退去禁止令を出せ! 平民はすべてこの国から出てはならぬっ!」

「そ、そんな!? そんなことをしてしまえば流通が完全に麻痺してしまいますぅ! 国民の不満も止められませぬぅ! お国を滅ぼすおつもりですかっ!?」

「滅ばぬ! 滅ぶ訳がない! ここは栄誉あるラグナント王国だぞ!?」


 そうだ、私はミルコ国王だ!

 父よりも優れた王となる者なのだ!

 こんなことなど所詮一時的なものに過ぎぬ!


 ……そう、一時的でしかないのだよ。

 もっと国民から税金を集め、国力を回復させればいい。

 その上で兵たちも国のために尽くさせることを徹底させるのだ。

 フフフ、なんてことはない。


「いいか大臣、私が今言った事を実行に移せ。絶対にだっ!」

「は、はい……」

「ほら行け、私は今後のことを考えるので忙しいのだ。それと今日はもうこの部屋に誰も入れるなよ!」

「しょ、承知しました」


 フン、言い訳せずに最初からそう答えればいい。

 まったくもって頭の回らん奴だ、せっかくたかが付き人から大臣に昇格させてやったのに情けない。


 ああ、それにしても女がいないとはつまらぬ。

 これではもう楽しめないということではないか。

 ならばいっそ生娘の奴隷でも買って愉しんでしまいたい所だ。


 ――しかし、どうしてこんなことになった?

 私が父上の跡を引き継いで王になったまでは良かったのに。

 アルバレストを国宝パーティに迎えてもなお問題はなかったはずなのに。


 まさかアディン=バレルの差し金か!?

 ……いやそれはないだろう、奴はたかが薬士でしかない。

 

 ならばギルドか?

 ……そうだな、あの世界塔攻略連盟のババァどもならやりかねん。

 さしずめキタリスも奴らにそそのかされて我が領土を奪ったに違いない。

 となればテイチャクも奴らの企みの一つだろうな。


 クッ、奴らめ、好きにさせていればつけあがりよって……!


「こんなことになるなら父上を殺す前に色々と吐かせるべきだったか……クソッ」


 せっかくここまでのし上がったのに。

 弟達をおとしめて殺し、父上も毒殺してやったのに。

 すべては計画通りだったのにィ……ッ!


 これもすべてあなたのせいだ父上!

 あなたが私に王位継承させないなどとぬかすからっ!


「なにが〝お前には素養はあっても理解が足りない〟だ! 何が〝他者を理解できぬお前に王となる価値はない〟だ!」


「だがなってやったんだぞ私はっ! お前がさせないと言った王になってやったんだ! つまり私が正しいのだ! お前が、お前たちが間違っていたんだあっ!!!」


 だから死んだ! 神に見放されて!

 そして私が生き残った!


 そう、だから私が一番正しい!

 私が長男で、賢くて、何よりも偉い!

 次男のアルクよりも、三男のエレトよりも、そして父デリスよりもおっ!


「私がやることは絶対だ! それ以上もそれ以下もない! 私こそこの国を収め、栄華を極めさせるにふさわしいのだ……!そう、そうさフフフ、フハハハハ……!」


 つまりこのままでよい。

 何も問題はない。

 あとは面倒な塔問題を片付ければ私によるラグナントの真の栄華が始まる。


 もはや誰にも止めさせはせんぞ。

 どんな奴の嫉妬であろうと、頂点となった私には届かぬのだからなぁ!


「ヒャーーーッハハハハァーーーーーー!!!!!!!!!」

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